第19話
私は、彼女を捉えることができない。というより分からない。
「あら、無様ですわね。」
彼女は私で私は彼女。わかっていた。いつかこうなることを。
「シオンには、もったいないわ。」
「なんてこと言うの。ルナ姉様は、シオンに。」
「えぇ。知っているわ。」
「イーリス分かっているの?」
どうしてだろう。私が私でなくなる感じ。
「分かっているわよ。彼女が、私たちとは相異なることぐらい!」
「そうじゃないわよ。」
「どういうこと?」
「あなたってば。私とあなたのお母様、エリナ様がした、業を。」
「何それ?」
軽くなる。意識も存在も。
「だから、ルナを返してもらうわ。」
「何それ?どういうこと?」
「それは、知らなかったのね。イリーナ。」
「私たちの娘は絶対に!」
エリナは素早い動きで彼女に肉薄した。
「ダメよ。」
その途中でエリナは床に突っ伏していた。
「なぁ!お母様。」
イーリスとイリーナはエリナに駆け寄った。
「さぁ。ルナ。私に戻って。」
彼女は、被っていた面を外した。それは、ルナの顔だった。
「忘れてた。ルナ姉様は、」
イリーナは思い出したようだ。
「ルナは私の一部。一つの人格。それは、シオンを愛する人格。そしてそれに相応しい能力を与えた存在。そして、シオン亡き今あなたは不要。だから、返してもらう。」
「そんな、物扱いするなんて。あなたは、人を愛することはないの?」
「そう?分からない。」
「そんなの!」
「イリーナ。それは彼女に酷だよ。今の話を聞いている限りそうなるのは必然だよ。」
彼女の、一部を切り離した存在がルナだ。その一部が“愛“であればこのことは自明の理だ。
「だから、ルナ。戻ってそして完全になって。」
未だ消えないのは、私に心残りがあるからだろう。
「心残りがあるの?あるならさっさと終わらせて。」
そんなの終わらせられるわけがない。だって、その心残りが。
「そういうこと。それなら問題ないわ。さっさと戻って。」
「どういうこと?」
「ルナ。あなた何か勘違いしていない?」
私には、分からない。
「あなた。別に消えたりしないわ。私の一部になるだけよ。だから混ざるだけ。あなたの記憶、感情、そして経験が私になるの。」
私は、何を勘違いしていたのだろうか。
「私をあなたに還すわ。」
ルナの存在が消えると彼女の姿が今までルナの姿と瓜二つになった。
「では、私の用事はこれまでです。エリナ様。期待していてくださいね。」
彼女は私たちの意識の一瞬を突いていなくなった。
ーーーーーー
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。マリ。」
「今はどのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」
「そうね。元に戻ったし、ルナートでいいわ。」
「では、ルナート様で。」
「そういえば、みんなは?」
「はい。すでにそれぞれの役目を果たしております。」
「そうなのね。出遅れてしまったわ。長女として失格ね。」
「そうでもございませんよ。先ほど、エリア様が出てこられたのでそこまで予定が変わることはありません。」
「なら良かったわ。私もそのまま出るわ。」
「お気をつけて。ルナート様。」
私は、自分の役目を果たすために扉を開けた。
「さぁ。シオン。目覚めの時よ。」
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