第13話

真実は小説より奇なり


「このところ不安定ですね。」


イリーナ姉様が言ったこの言葉は今の世界情勢を指した言葉だ。それもそのはず小さいことがこんなにも大きいことにつながってしまった。元々は、エリナ母様に言った一言だった。


「そうですね。国防軍の派遣失敗。完全にやられましたね。」


「昨日、学院に魔法師の派遣要請が来ました。というより実質私たちにですね。」


今朝から流れているニュースによるとリーダーはアレスという中年の男性らしい。国防軍派遣時に魔法を使い1人で半壊させたらしい。やはりというべきか隠し球は持っていたみたいだ。というより彼がこれによってリーダーになったという感じがする。功績によって求心力が上がり実質的なトップに躍り出たというものだろう。


こう言い切れるのにはこのバタフライからの調査書にある内容から読み取れる。


隣国の領土内で偶発的に反乱が起きていたもののそこまで大きい物ではなかったがここにきて集まって臨時政府の制圧に向かったものだった。これによってこのアレスという人物が出てきたわけだ。


ただ、このアレスという人物が隣国の人間では無いのが不思議なところだ。彼は、そのまた隣にある国、オルレイ帝国の人間であったことだ。と言っても隣国の元フォルボ共和国で仕事をしていたみたいだ。


「ルナ姉様。これは、」


「オルレイ帝国が裏で手引きしていそうね。彼の周りにも影がいると思うんだけど。」


「これを見るからに、尻尾を捕まえられなかったみたい。」


僕たちは、バタフライの報告書を読みながら生徒会室でお茶を嗜んだ。


1週間後、僕を含めて10人ほどが志願で同行することになった。


「いいか?こんなことを言うのはあまり的確では無いが、あえて言おう。敵が我々のところまで来たら戦わずして逃げろ。ここまで来た時点で敗北だ。生きることだけを考えろ。」


お守り役となった、国防軍臨時派遣魔法師ヤヒサ少尉が放った言葉だった。

彼の言葉は的確だ。ここは前線基地から約10kmの地点だ。この辺で接敵した時点で敗北が決定していることだろう。


さらに、怖いのは有能な敵より無能な味方だ。

今回のように意思を表明した生徒がいては姉様たちでさえ足を取られかねない。

やる気に満ちているのは良いことだが空回りしてしまうのではかえって敗北につながる。いくら有能だと思っても方法次第でと言うことになりかねない。戦場に慣れない学生なのだから。なので、配置としては国防軍としては適切な判断だが、姉様たちの能力を発揮させるには少々不足どころかこれでは宝の持ち腐れと言える。


彼女たちには一騎当千の力があるがチーム戦と言うよりは個人としての能力だ。詰まるところ敵がいるところに放り投げて適当に敵を屠る方が適している。なのでこのように編隊を組んでの行動はあまり適していない。


「今回重要な任務として最前線への補給を行う。もちろん補給部隊への攻撃が想定される。想定されるポイントはこれだ。各自ポイントを記憶しておくこと。15分後に出発だ。」


考えているうちにやることができたみたいだ。ただこれは。


「どうやら私たちを最前線に送りたいようだ。」


ルナ姉様の言う通りだろう。それだけ、最前線は混迷を極めているのだろう。


「シオン。フルでいくつもりだからいつでも行けるように準備だけはしといて。」


姉様も少しスイッチが入ったようだ。これは相当骨が折れる戦場になりそうだ。


現代戦において主に魔力を使った兵器を使用が普通になっている。銃弾の代わりに魔力ということだ。なので、魔法師は普段から魔力の濃さを判別することを主として行なっているのでどこに敵がいるのかが分かる。感覚的に言えば光が強いところに敵がいるという感じだ。

なので、魔法師がいる部隊には奇襲が成功するのは滅多にない。


「イーリス。前方100mのところに3人。」


そう。イーリス姉様が、すぐに敵との距離を詰めて敵を無力化。こうやってすぐにわかってしまう。なので、敵は遠距離から魔法を放つが。


「イリーナ。」


イリーナ姉様が魔力の壁を作り的の遠距離攻撃を無力化する。

つまりは、姉様たちがいれば特に問題無く最前線へと入れる。


こうして僕たちは最前線の基地へと難無く入ることができた。


「お疲れ様です。現在、都市の包囲を完了しつつありますが以前として局所的に抵抗が見られますが、制圧は時間の問題です。ただ、アレスという男がいまだに顔を見せていないというのが懸念材料です。」


アレスという男は籠城しているのだろうか?何かしら裏があると見て良いだろう。


「ただこの都市から出たというのは考えにくいです。この辺の情報統制は取れているので。」


「ならまだ都市の中にいると考えていいな。」


「というわけだ。アレスの討伐を任せたい。」


やはりというわけか。こうなることは予想していたので問題ないが他の生徒たちが問題だ。


「もう少しで作戦で敵を炙り出すので魔女の方々にはそこで暴れて貰う。そしたら、流石のアレスなる人物も居ても立っても居られないだろう。」


「だが、生徒たちは。」


イリーナ姉様の言う通りだ。生徒たちをどうするかだ。


「彼らには、救護施設の護衛と医療の心得がある者には手伝いをしてもらいたい。」


どうやら少し後ろに下げさせるようだ。


陽が落ち夜を越え陽が昇る頃作戦が始まった。簡単に言うと遠距離魔法による援護で市街地への侵攻だ。これにより包囲網の一部に空けといたところへ罠と分かっていてもそこへ向かうしかないのでそこに僕たちを配置して存分に暴れてもらうと言うことらしい。


「と言うわけで始まったわけだが。」


これはやりすぎな感じだ。イリーナ姉様が飛行魔法で上空から魔法を放ち数を減らし、イーリス姉様が槍で敵を薙ぎ払っていた。この間完成した一振りで何十もの斬撃を喰らわす魔法なのだが、なぜか槍でそれを実行しているためものすごい数が吹き飛んでいる。

そして、ルナ姉様のことだが、彼女が歩くたびに周りの人間が倒れていくという怪奇現象だ。

どうやら範囲を指定してその範囲内に入ったものに即死レベルの精神を破壊するというものだ。その範囲の外にいても金縛りのような症状になるようだ。

どうやら今回のルナ姉様は綺麗に片付けるようだ。いつもより綺麗に澄ましている。いつものならそこら中で血飛沫が上がりその名の通り鮮血の魔女と呼ばれていたが今回は明らかに鮮血を浴びていないので名が体を表していない。


そんで僕はというとやることがないので姉様達のフォローをしていました。姉様たちはとにかく燃費が悪い。魔力量は少ないわけではないのだが使う魔法がどれもレベルが高くその分干渉能力が高いのでとにかく魔力の消費が早い。それだけではなく使う魔装剣を使うのでさらに魔力を消費する。なので契約している対象に僕から魔力を与えている。


僕は、この時忘れていた悪寒を再び感じた。


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