第9話

発達しすぎた科学は魔法と見分けが付かない。

そう言った人がいたのは誰だっただろうか。


僕は今日ほどそれが真実でありそうではないと思わない、いやそれは適切ではないだろう。

科学と魔法は表裏一体であり合わせて新しい分野であろうと言える。

なのだから最近は応用魔法としての側面が強いのだろう。


「姉様これどこに置いておく?」


「そこらへんに飾っておいて。それよりこのことどう思う?」


「それですか?やはり、難しいかと。」


ルナ姉様は今先生モードで傍から見るとしっかりしている先生にしか視えない。

そして、今回ルナ姉様は例の原子に干渉する魔法について言及した論文を発表した。そこに、国から賛美されたということだ。そこで、この勲章を貰ったわけだ。


今、姉様その干渉を行っている。


「うん。出来てる。やはりこれを魔法式とするのは難しい。」


「かなり自由度が高い魔法ですから。魔法というより魔力操作に近いように視えますね。」


そう視える。


「しかし、原子を認識するにはこの魔法を使う必要があるから。どうせならこれも魔法式にしていっぺんに処理したほうがやりやすいのではと思ってね。」


どうにも、煮え切らない。その先があるのか。


「ルナ姉さん!」


扉を勢いよく開けルナ姉様にぶつかる勢いで問題の人が入って来た。


「これ見て下さい!


イリーナ姉様が手紙を渡してきた。

どうやら母様から届いた手紙なのだが、こっちに来るみたいだ。


「これはまずいわ。すぐにイーリスも呼んで!」


姉様達は早急に焦り始めた。


エリナ母様は、深淵の魔女と呼ばれる魔女の中でも屈指の実力者だ。それをいいことにこの国の魔法師達の裏のトップとも言われている。というより実質的に彼女の意向を逆らうことは出来ないとも取れる。


そしてなぜこんなにも姉様が焦っているのかというと、僕がいるからだ。


「まず、シオンの対策だね。こればかりは耐えてもらうしかないわ。」


「そうね。そして、どこに止まらせるかだけど。」


「家を購入したわ。そこにしましょ。私たちもそっちに移るわ。イーリス。エリカ学院長に伝えた?」


「したわ。来たら、会うように伝えたわ。」


「それじゃ。当日までに必要なものを揃えるわ。」


どうやら、生贄になったようだ。いつものことではあるが、大変だ。


「それで、姉様。いつ来るって言っているのですか?」


「これには1週間後にって書いてはいるけど。」


どうやら、もう来ていてもおかしくないみたいだ。


「そういうことで、シオン。頼んだわ。」


逃げられない。いや、逃さないという女神達の眼光がそう告げた。


姉様達はお母様のお出迎えの準備をしている中、僕はというと。


絶賛クラスメイトと交流しています。


「僕は、ケラント。よろしく。」


「よろしく。僕は、」


「君のことは、皆が噂するものだからよく知っているよ。よろしく、シオン君。」


どうゆう噂が流れていることやら。碌でもない噂だろう。

よく見ると彼は、すごい魔力を秘めている。この魔力を常時、無意識でコントロールをしているようだ。


「紹介したい人がいるんだ。いいかな?」


「構わないよ。今日は、そういう集まりなんだろ。」


「ありがとう。アル!」


アルと呼ばれた彼はとにかくガタイがいい男だった。


「ん!」


「今、彼と話していてね。シオン、幼馴染のアルだ。寡黙だがいいやつだ。」


「ん!」


手を差し伸べ握手を求めてきた。どうやら、彼はあまり喋るのが得意ではないのかもしれない。


「彼は、脳と口の連携がうまくできていないみたいでな。昔からこんな感じだ。」


生まれつきだそうだ。それはしょうがない。


「そういえば、シオン。魔法を教えてくれないか?」


「いきなりどうしたんだ?」


「シオンなら今見えているでしょ。僕には確かに豊富な魔力があるが瞬間的に出力が弱くてね。」


「なるほど。出力が低いのか。とりあえず、ここでは出来ないから練習場に行こう。」


僕たちは、とりあえず学院内にある練習場で解決策を考えることにした。


「どう?」


魔法の発動を実践してみせた。


「とりあえず、分かったことは、別のところに魔力を使っていることだね。」


「どういうことだ?」


「うーん。どうやら、魔力が発動する時に他に流れているんだ。普通そんなことはないはずなんだけど。それで流れている先がそこの剣なんだ。」


腰に掛けている剣に魔力が流れているみたいなんだ。多分魔力を吸収する系統の何かが剣に付与されているみたいなのだが、普段ケラントは高度な魔力コントロールであまり外に放出しないので吸われることが無かったのかもしれない。


「離していてもそうなのか?」


「どうやらこれの所持者に対して働くみたいだ。」


「どうするか?」


「どうせならお腹いっぱいに食べさせたら?」


「確かにそれもありだが、足りるか?」


「どうだろう。とりあえず、やばそうになったら止めたら?」


「そうだね。」


純粋な魔力をケラントの剣に注ぎ込んだ。それはグングンと魔力を吸って行った。

その時であった。


『契約者の魔力供給量の規定値に達したことを確認。起動します。』


ケラントを中心に強烈な光と魔力の衝撃波が発生している。


「ん!」


「とまれ!アル!」


僕は、ケラントに向かいそうなアルを引き止めた。


「これは、面白いものを見たわ。にしても、気に食わないね。」


本当にタイミングが悪い。


「でもいいわ。ねぇ。シオン。」


後ろから、漆黒のドレスを着た女性は抱きついて耳元で囁いた。


「なんのことですか。」


「今は、いいわ。彼、このままだと魔力切れで一生魔法使えなくなるわ。」


「お母様なんとかなりませんか?」


「どうしましょう?私に利がないわ。」


「僕の友達でも?」


「えぇ。私には関係ないわ。」


「では、これでどうですか?」


僕は、お母様の耳に囁いた。


「えぇ。いいわよ。」


お母様は、ケラントを取り巻く魔力を一瞬で掌握仕切った。

そしてそれをその剣に吸収させることでことを収めた。


「はい。お終い。」


そこに残ったのは。鎧を纏った状態で現れた。


「やはり。魔装剣はちゃんと出来ているわ。」


どうやら、お母様の仕業らしい。


「やはり、ここにいましたか。いきなり現れた気配を辿ってみれば。エリナ姉さん。」


「あら。エリカちゃんじゃない。お久しぶりね。」


「とりあえず。彼を医務室に運びます。明日、また会いましょう。」


「えぇ。そうするわ。今日は、シオンで我慢するわ。」


一難去ってまた一難。本当に大変だ。


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