第3話

カフェ

小百合と男が座っている。

お互いに緊張していて話せない。

小百合のアイスレモンティーが汗をかく。


男  

「初めまして小百合さん。僕、大五郎と言います。」

小百合

「……初めまして。」

大五郎

「……。」

小百合

「どっから話しましょうか……?」

大五郎

「あの、光雄君と付き合ってどれくらいですか?」

小百合

「五年くらい、です。」


大五郎の顔が渋る。


大五郎

「僕は付き合った年数って関係無いと思います!」

小百合

「そうだね。」


大五郎、驚く。


大五郎

「みつ……みっ君は、小百合さんへの気持ちが分からないって言ってました。

もう解放してあげてください。」

小百合

「……解放?」

大五郎

「僕と居る方が楽になるって。」

小百合

「……。」

大五郎

「僕は本気です!」

小百合

「私も本気です。」


暫くの沈黙。

大五郎、瞬きも忘れて小百合を見る。

小百合、大五郎の強張る様子に表情を少し崩す。


大五郎

「僕の方が愛は強いと思います。」

小百合

「どうして?」

大五郎

「最近、帰りが遅いでしょ?それが何よりの証拠です。」

小百合

「……。」

大五郎

「みっ君と別れてください。」

小百合

「……もう止めよう。」

大五郎

「はい?」

小百合

「マウントなんて無意味だよ。」

大五郎

「何なんですか?さっきから。そ、そうやって斜に構えて……。

私は大人よ!って事ですか?」

小百合

「違うよ。」

大五郎

「……僕の事、馬鹿にしてるんでしょ。」

小百合

「ううん。してたら会わない。」

大五郎

「……。」

小百合

「大五郎君。もっと建設的な話をしよう。」

大五郎

「……嫌です。」

小百合

「……。」

大五郎

「僕は恋敵と冷静に話なんて出来ません。」

小百合

「……。」

大五郎

「……小百合さん。本当は焦ってるんですよね?」

小百合

「……焦ってる。」


大五郎、訝しむ。


大五郎

「えっ?何を話したいんですか?」

小百合

「……分かんないよ。」

大五郎

「僕は貴女に別れて欲しい。それだけです。」

小百合

「みー君は私の事、何て話してたの?」

大五郎

「……言いたくありません。」

小百合

「悪くは言ってなかったんだね。君も。」


小百合、寂しく笑う。


大五郎

「……そうとは限らないでしょ?」

小百合

「そうだと思う。だって、大五郎君、素直だもん。」

大五郎

「……。」

小百合

「ごめん。良い奴とは喧嘩したくないんよ。」

大五郎

「……。」

小百合

「……私ね、こうなるまで全く知らなかったの。」


大五郎、動揺する。


小百合

「……何にも話してくれないんだもん。」

大五郎

「僕は男ですからね。」

小百合

「みー君がそんな奴だと思うの?」


小百合、雰囲気が尖る。


大五郎

「いいえ!」


大五郎、負けじと張り合う。


小百合

「そうじゃなくて、君だから話せた事もあるって事だよ。」

大五郎

「……。」

小百合

「ねえ、みー君のどんな所を好きになったの?」

大五郎

「……炭酸が飲めない所。」


小百合、思わず笑い出す。


大五郎

「いけませんか?」

小百合

「いや、分かるっ!って思ってね、つい。」

大五郎

「……。」

小百合

「飲まなくて大丈夫って言っても、無理して飲むんだよね。」

大五郎

「……ちょっとカッコ付けですよね。」

小百合

「方向が間違ってるけど。」


二人、笑う。


大五郎

「……それと、鼻の先のほくろ。」

小百合

「大五郎君もそう思う?でも本人めっちゃ気にしてるんだよね〜。」

大五郎

「そこが可愛いのに。」

小百合

「言ったら烈火の如く怒るから、可愛いって言うの封印したの。」

大五郎

「……。」


小百合、笑う。

大五郎、そんな小百合を見ながら呟く。


大五郎

「でも一番好きなのは、人を色眼鏡で見ない事。」


小百合、優しく笑う。


小百合

「……困っちゃうね。」

大五郎

「……。」


二人、カフェを出る。

連絡先を交換し合う。

小百合のスマホから着信が鳴る。

小百合、気配を消すように去る。

大五郎、小百合の背中を目で追う。




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