第40話ーサドンアタックー


 ヒナキは銃を構えたまま扉に耳をつけ外の様子を伺おうとする。

 分厚い開閉扉越しに人が会話しているような声が聞こえてきた。


 あくまでも人の声がするというのが分かるだけで内容は聞き取れないが……コンコンと開閉扉を叩いているところをみると、おそらくこの扉の素材と厚みをざっくり測っているのだろう。

 もちろん、このコクピットへ繋がる扉を強制的に開けるためにだ。


 ハッチの開閉方法は油圧スライド式であり、外からアクセスするにはコクピット内にある鍵が必要である。

 外からは開かないため、おそらくこの扉を切るか爆破するかして破壊するはず。


(爆破はしないだろうからおそらくなにかでこじ開けるか切るだろうな……)


 この扉を爆破で破壊しようとすると相当量の指向性爆薬が必要で、それは先程のノックでわかっている筈である。

 であれば扉を物理的に切るのが一番安全で手っ取り早い。

 そう、仮定した上でヒナキは右手に銃を持ち左手でナイフを抜いた。

 そして抜いたナイフの柄の先をハッチの開閉ボタンに当てその時を待つ。


「……ーー。……ーー!」


(……)


 外が騒がしくなってきた。

 そして次の瞬間。

 エンジンがかかった音がし、けたたましい回転音が響いてきた。


 同時に、ヒナキはナイフの柄でハッチの開閉ボタンを押し込み勢いよく扉がスライドして開く。

 

 対面。


 目の前には本土所属の軍人と思わしき人物が3人。

 一人はエンジンで稼働する回転刃を利用したドアカッターを両手で保持、残り2人はライフルを所持しており扉が空いたと見るや銃口を上げようとした。


 各々驚愕の声を上げる中、ヒナキはドアカッターの回転刃側面を蹴り弾き取り落とさせた後その兵士の喉へナイフを突き立て、もう一方の手で構えていたMod-45でライフル持ちの兵士の足を撃ち膝を付かせた。

 3人目の兵士がライフルの銃口を引いたが、喉をナイフで突いた兵士を引き寄せ盾にし銃弾を防ぐ。


 盾にし防ぎながらそのまま押し進み、3人目へ肉薄。

 間合いを強引に潰しライフルの射撃が困難になるほどになると45口径の弾丸を防弾ベストを避け数発打ち込み撃ち倒した。


 そして喉からナイフを抜き、先ほど足を撃つのみで生かしておいた兵士の後ろから喉に刃を当てるようにして問う。


「よぉ、ここにはあと何人いる?」


「ぐっ……クソ……」


「早く吐かないとそこに転がってる2人の仲間入りだぞ」


 おそらくここは母艦が保有する小型潜水艇の格納庫のような場所だろうが、残存戦力を聞き出している最中に武装した兵士がぞろぞろとこの格納庫へ入ってきた。

 数にして20〜24人。

 それぞれ戦闘配置につきこちらへ銃を向けてきた。


「……思ったよりぞろぞろくるやん」


 流石にこの人数を一度に捌くのは難しい。

 生かしておいたこの兵士に人質としての価値がそれほどあるとも思えない。

 万事休すかと両手を上げる直前。


 背後のコクピットの中から勢いよく空中に飛び出した影。

 その影の主が両腕を大きく振るうと赤い閃光が幾重にも重なった線が飛ぶ。


 格納庫の壁面や小型潜水艇、遮蔽物となりそうな物体の後ろで展開していた武装兵は物体もろとも声を出す間もなく胴、首が滑り落ちた。

 おびただしい量の血液が噴き出し格納庫の床を汚してゆく。

 

 ひたりとその血溜まりの上に降りたネロは赤い光を灯す両目をヒナキが羽交い締めにしている兵士にゆっくりと向けた。


「匕ッ……」


 そのあまりに美しい少女の殺意に圧倒され、小さく悲鳴が漏れた。

 ネロがその兵士の額に向けて右手人差し指を向けると……。


 瞬時に伸びた赤く光を放つ爪が、とんとその兵士の額に刺さりしばらく痙攣した後息絶えた。

 死亡し全身の力が抜けたその兵士の身体を降ろし、ヒナキはナイフの血糊をその兵士の服で拭ってから腰のシースにしまい込んだ。


「……いや、とんでもないな。流石さすがって言っとこうか?」

 

 「ふん、人間なんてダース単位でいても一緒ぉ」


 脳震盪からの意識混濁から持ち直したネロが自前の能力でずらりと展開した武装兵を一掃してしまった。


(器用だな。物体を切断可能なほど鋭くしたグレアノイド光を爪に纏わせて攻撃したのか)


 ヒナキはとんでもない芸当を平然とやってのけたネロに対し称賛の意を示すとともに、先程の攻撃方法を冷静に分析していた。

 とにかく味方につけるととんでもなく頼りになる少女だ。


「頭強く打ったろ? 大丈夫か?」


「んぅ……ちょっと痛むけど大丈夫ぅ」


「こっちこい。傷口の様子見るから」


「はぁい」


 ネロの頭部にできてしまった裂傷の様子を確認してやると、もうすでに血は止まっており……なんだったら傷口そのものがふさがりかけている。

 とんでもない回復速度だ……。


「しどぉ次どうするのぉ? 一応これ、敵の懐に入り込めてなぁい?」


「ああ、状況の把握が早くて助かるよほんと。一旦艦内の航行制御室にでも行こうぜ、浮上してもらわないと脱出できないしな……」


「じゃあ早く行こぉ。ここ血の匂いがすごくて気持ち悪いしぃ」


 自分でやっといて……という言葉は心の中にしまっておいて、ヒナキとネロは周囲を警戒しながら格納庫から潜水艦内に歩を進めることとした。

 ヒナキはこの艦に対し、単なる強襲潜水艦だろうと予想を立てていたのだが……。


 入り込んだ場所で想像していなかった光景を目の当たりにすることになる……。

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