第33話ー圧倒的な力と圧倒的なしつこさー
「へえ、すげぇじゃん! まだ立てんだ?」
足元がおぼつかないままではあったが、ネロは立ち上がり人型ドミネーターを睨みつけた。
違和感を感じるのは主に頭。
そこから不快感が全身に回り、平衡感覚がしっかりしない。
だからなんだというのか。
ただ視界が安定せず、揺れる吊橋の上に立っているような感覚があり吐き気が止まらないだけではないか。
こんなことで戦えなくなるわけがない。
そこから3度。
凄まじい速度の攻防を繰り返した後にその軽薄な人型ドミネーターを刻んでやった。
さらに追撃をかけ2度、蹴りで腕と下半身を粉々に砕いてやった。
だが1度、腹部に強烈な打撃をもらってしまった。
胃の内容物と血が混じったものが口まで逆流し頬をふくらませるが寸でのところでそれを飲み込み、地面に倒れ伏せる。
口の中が酸っぱく更に鉄の味がして不快だし、腹部に強烈なダメージが入り呼吸ができない。
「ぐっぅ……」
「ハァ……ったく何度噛み付いてきやがんだって、普通なら立つなんてこともできねえはずなんだけどよぉ。マジで化け物じゃねぇか。でもま、やぁっとおとなしくなったなぁクソメス!」
高らかに笑いながら近づいてくる。
足を床に這わせるように動かし少しでも距離を取ろうと抗うが虚しく……。
「さぁ、来てもらおうじゃん。んで、役目果たして俺の女になれや」
「しどぉ……ッ」
人型ドミネーターは右手になにかの薬品が入った筒状の注射器を取り出し、ネロの首筋に押し付けた。
空気が抜けるような音と共にその薬品がネロに注入されていき……。
視界が暗転する。
人型ドミネーターはぐったりと力なく倒れたネロの腰を掴み、持ち上げて担ぎ上げた。
「ひひ、ちょい手こずっちまったけど任務完了っとォ。ちっこいくせにイイカラダしてんじゃんこのガ」
言い終える瞬間、ネロの左腕が人型ドミネーターの首に回り万力のような力が加わってごきりと嫌な音がし、あらぬ方向へ向いた。
「……は?」
そして人型の肩を強く掴んだまま鉄棒で逆上がりをするような要領で数度回転して肩をねじ切りつつ脱出し、この高層ビルの縁へ。
「おまっ……ハァ!? 嘘じゃん、けっこう強烈なクスリ入れたはずだぜ!?」
「……っ」
ビル屋上の縁に立つ。
背後、遥か下にはセントラルストリートが見える。
強い風が吹き上げてきてネロの髪を揺らす。
これ以上はまともに動けない。
拉致されるくらいなら……このまま頭から落ちてやる。
とんっ……と
「嘘だろ自殺する気かァッ!? だぁくそ首がおかしな方向向いててまっすぐ走れねーッ!」
小さな少女の身体がまっすぐ地面へと落ちていく。
クスリで意識が朦朧としており、走馬灯すら見ることはできない。
ただ、ざまぁみろと。
あの軽薄な人型ドミネーターに対し思う。
数秒後。
少女の身体は固い地面の上。
……。
「ぃぃい間に合ッ……」
に、激突する後1メートルのところで体ごと滑り込んできた何者かに見事受け止められ、衝撃を殺された。
「たぁ……っぶなァ……」
受け止められた少女はその何者かの腕の中で
「しどぉ……?」
「……悪い、気づくの遅れた。大丈夫……じゃないよな」
「別にぃ……大丈夫ぅ……」
今自分が抱きかかえている
虚ろな目がなにもない空間を泳いでいる。
症状を確認しネロの頭に手をかざす。
自分が移植してやったゲートキーの挙動がおかしい。
少し前まで正常にネロの中のドミネーター因子を制御していたはずが因子の制御機能が減衰され、かつ脳機能に甚大なエラーを引き起こさせるような信号を出している。
ゲートキーへのハッキング行為。
こんな芸当ができるのは……、自分と同じ世界の住人しかいない。
「ごめんな、ごめん……無理させた。ネロ、もう休んで良いぞ」
「しどぉ……」
「なんだ?」
「頭なでてぇ……」
意識が朦朧としており、消え入りそうな声でそんなことを言ってきた。
ヒナキはネロの頭、銀灰色の艷やかな髪に触れて櫛で優しく
「ん……」
少しばかりくすぐったそうに声を出したが暖かな腕の中で少女は目を閉じ、穏やかに意識を手放した。
次いで上から落下してきた黒い人型の異形。
凄まじい音を立てながら降り立ったそれにまったく目もくれず、ヒナキはネロの寝顔を見ながら頭を撫でてやっていた。
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