第32話ー兵器少女と人型異形交戦ー


 方舟都市内へ侵入したドミネーターの元へ向かっていたヒナキだったが、アリアからネロの通信機器インカムにつながらない旨連絡が入り引き返そうとしていた。


「Hayシドー、報酬はどうすんだ?」


「報酬稼ぐより重要な案件が割り込んできたんで残念だけど引き返させてもらうよ」


「ハッ、そうかい」


「せっかく手を組めたのに悪いな、そっちは頼む!」


 踵を返し走り出そうとするヒナキの背中に対し、RBは呼びかけた。


「オイ、手伝いは必要かよ?」


「こっちの問題だから大丈夫だ! 気持ちだけ受け取っとく、ありがとう!」


 そう言って走り去っていく黒仮面の男の背中を少しばかり見送ってからRBは先を急ぐため走り出す。


「ッハ、大変そうだな姫様ステイシスのお守りはよ」


 そう言い捨てて、彼はドミネーターの元へ向かうのだった。


……。


「ふへへへへ、つえー!! マジでやべぇくれぇつえーッ。なんだよ、そんな可愛いナリして俺らなんかよりよっぽど化けモンじゃねぇかよ、なあ!」


「……」


 胴体が真っ二つになり、上半身のみ地面に落ちていながら……この人語を話す人型ドミネーターは笑っていた。

 対してネロは無傷。

 両手の爪の先に赤い光を放つ鉤爪のような物質を形成しつつ不機嫌そうな表情であった。

 その爪で目の前のいけ好かない人型ドミネーターを先程から4度、通常なら致命的となるであろうダメージを与えたはずだった。


 いくらダメージを与えても壊せない。

 胴体を真っ二つにしてやった今でもすでに再生を始めている。

 通常のドミネーターならば存在するはずのコアの気配も感じない。


 その人型ドミネーターはたしかに強い。

 通常の人間など束になっても歯が立たないであろう程。


 なぜなら……。


「またぁ?」


 なにもない空間、しかも死角となる場所が突如として穴が開き、そこから刃物状の腕が飛び出してくるのだ。

 人型ドミネーターに予備動作がなく、通常なら回避することは困難だがネロの感知能力であればその穴が開いてからでも十分回避できていた。


「これ当たらないってわからないのぉ?」


「諦め悪くってさぁ。やっぱ次元間攻撃しにくいんだわ。なんか次元固定する別の力働いてんだろ、ここ」


 せっかくこんな見た目になって力手に入れたのに余計な装置作りやがってとひとりごちながら下半身と上半身が繋がり首を鳴らす人型ドミネーター。


 次の瞬間、ネロの視界から消えて背後を取っていた。

 ネロは姿勢を低くし人型からの攻撃を回避しつつ右手を振るう。

 振るった遠心力で赤光する爪が伸び、背後の人型を数枚におろそうとしたがそれは宙へ跳び回避されてしまった。


 だがネロの髪が大きく跳躍した人型の足を絡め取っており……。


「やっべ」


 絡め取った足を自在に動く髪で引き、凄まじい遠心力をともなわせながら床に叩きつけた。

 ビルの屋上の床は大きく割れ、人型ドミネーターはそのまま下の階へ落下する。

 それに対し追い打ちをかけるようにネロも屋上に空いた穴に飛び込み下の回へ降り……落下しながら腕を振るう。


「いひ〜ッ、容赦ねぇじゃーん! いいね、最高!」


 伸びてきた爪の一撃を身体を捻って交わした人型ドミネーターは体勢を立て直しネロへ肉薄した。

 顔同士が後数ミリでぶつかるというところまで接近し腕から伸びるグレアノイド鉱石質の刃を連続で振るってくるが、ネロはそれらを難なく躱しながら隙を探り……。


「ほらここ隙だよっと」


「知ってるぅ」


 自らで自ら生み出してしまった攻撃間の隙を報告し、それに答えるようにネロが足刀蹴りを繰り出す。

 ズドンと砲弾でも直撃したかのような音がしたかと思うと、人型ドミネーターの腹部が抉れて吹き飛び巨大な穴が空いていた。


 だが、即時その穴がふさがりネロの足がその再生するグレアノイド体に飲み込まれてしまう。


「ほら捕まえたぁ!! うひょぉ、太もも柔けぇ〜!!」


「……きもちわるぅ」


 冷たくごりごりとした鉱石にまとわりつかれている感覚を捕らえられた足に覚え、心底不快感を覚えながら右手を振るう。


「えぺっ」


 軽薄な人型ドミネーターの上半身がまたも吹き飛び、ネロの足は開放される。

 今度は粉々になるほどの攻撃をまともに浴びたようだが、かろうじて形を保っている下半身は腰と足だけで愉快なタップダンスを踊っている。


 ネロは落ち着いて歩を進めそのタップダンス中の下半身に近づき、右足を振り上げその股間に抉りこませた。

 人型ドミネーターの下半身は下階から天井を破ってまた屋上へ飛び出し、それどころか大きく空へ舞い上がった。


 足の裏が天井と向かい合うまでに綺麗に上がった足を下げ、ネロは穴が空いた天井から空を見上げた。


 空中できりきり舞いながらも再生しつつある人形ドミネーターに対し、これでもかと大きなため息をついた。

 床をひと蹴りし、天井に空いた穴から屋上へ上がったネロは眼前でベシャリと落下してきた人型ドミネーターに問う。


「ねぇ、どうやったら壊れてくれるぅ」


「チッチッチッ」


 再生しきった身体で飛び起き、人差し指を振ってきた。

 ネロは一歩踏み出そうとしたが、人型ドミネーターが立ててコチラに向けている指の本数が1本から3本に増えた。


「なんのつもりぃ……?」


「あと2びょ〜う」


 指が1本たたまれ2本になる。


「……塵になるまで刻んであげるぅ」


「あと1びょ〜う」


 腕を広げ、人型ドミネーターに飛びかかる。

 その時、最後の指が折りたたまれた。


ゼロぉ!」


「……!?」


 飛びかかったネロが攻撃を繰り出すことなく、飛びかかった勢いを保持しながら転倒。

 人型ドミネーターのすぐ隣をゴロゴロと転がり床に倒れ伏した。


「はっ……え、なんなのぉ……?」


 頭が異常に重たく、足にうまく力が入らない。

 空間が正しく認識できず、今自分が倒れているのか起きているのかすらもわからない。


「思ったより時間かかっちまったわ、我が君の頭の中いじいじするのがよぉ。どうだきもちーだろ、きもちーよなぁ?」


 気持ちいいワケがない。

 例えようもないほどの気持ちの悪さ。

 鎮静剤と筋弛緩剤を一度に、しかも大量に打ち込まれたかのような気分だ。

 強い吐き気が腹の奥から上がってきてえずいてしまう。

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