第31話ー戦況良し、感じる違和感ー
《ターシャ!
「緊急時だから仕方ないわ。丁度都市内戦闘用に改装されていたし、
緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響き、民衆の避難を促すサイレンを聞きながら結月はパレードの際にパフォーマンスで搭乗していた二脚機甲兵器、ブルーブラッドOtypeに搭乗し侵入してきたドミネーターの元へ向かっていた。
コクピットにはギャルオペレーター八雲の声が響いている。
緊急時のため通信端末のスピーカーを使用し、即席オペレートしているようだ。
《イージスシステムのコントロールがやばたんなんだっけ?》
「そう。それより敵の位置は? すでに交戦しているならマッピングされてるでしょ?」
《ちょいまち、今戦術システムサーバーに接続してダウンロード中なんだって。なんでその機体システムオフラインなん! 時間かかるけど遠隔接続でそっちのIPに繋いでこっちから必要データ送信するしかないんじゃん。戦術サーバー激混みでバリ遅なんだけどぉ!》
「システムハッキング防止のためなんだから仕方ないじゃない」
《ハッキングされないようなファイアウォールかませってマジで!》
「アナログだけど一番効果的なのよ。費用もかからないし……来た」
コクピット内、ヘッドアップディスプレイに3D化された都市内部地図が表示された。
その中に、現在交戦中の部隊が企業連管理のサーバーにアップロードしている共有情報がアイコンで示されている。
「すでに3体撃破されてる……。すごいのがいるね」
《RB軍曹とノアPMCのルーキーじゃん。なに? 機甲兵器無しでやったの? RB軍曹はいいとして何者なんこのルーキー》
「やっぱり気になる……。それよりなに? 粒子性兵器の減衰を確認って」
各警備部隊交戦中だが、その中で報告が多々上がっているのが現在主流の粒子エネルギーを使用した火力兵器が通じづらいという情報だった。
はじめにセントラルストリートにて奇襲をかけられていた警備用機甲兵器も観光客に対する安全上の問題から粒子性兵器を携行していた。
実弾兵器と比べ、粒子性兵器は射撃後排出される薬莢がなく、標的に当たると収束していたエネルギーが拡散しある程度無害化するため二次被害を起こしにくい。
だがそのせいで侵入してきた奇形人型ドミネーターを撃退できず返り討ちにあったのだ。
ドミネーターの位置を示すアイコンに向かってセンチュリオンテクノロジー製二脚機甲ブルーブラッドはビルの合間を走る。
大質量の機体脚部と金属質な地面が接触することで生まれる足音は凄まじく、周囲のビルの窓ガラスを振動させていた。
《接敵まであと15秒弱……粒子兵器が通じないのどうすんの?》
「それが通じなくても物理兵器があるでしょう」
《実弾兵器載せてないじゃん……》
「飛び道具はね」
ブルーブラッドはその機体を走らせながら、腰のハンガーに装備されていた柄の短い
「だったら直接叩けばいい」
目の前には歩兵警備小隊を襲っているドミネーターの姿。
最速で接近し、大きく下から振りかぶったハンドアックスの刃をその胴体に叩き込んだ。
二脚機甲兵器の半分程度の大きさであるその奇形人型ドミネーターの身体は持ち上がり、胴にハンドアックスの刃をめり込ませながら吹き飛ぼうとしたが。
その巨大な腕でブルーブラッドの右腕にしがみつき、絡みついてきたのだ。
「すごいフィジカル……」
《腕部にすごい圧力がかかってるし! そのままじゃ圧迫破壊させられるって!!》
「わかってるって」
結月はまだ無事であった左手を使用し腰から更に刃渡りの短いナイフを取り出し、右腕部に絡みついたドミネーターの側頭部へ刃先を突き立て抉りこませた。
その瞬間、絡みついていた腕の力が弱まり拘束が解ける。
そのまま地面に突き倒し、開放された右手で掴んでいたハンドアックスを全力で振り下ろし胴体を切断した。
「……
《一瞬ヒヤッとさせるじゃんよ〜》
「……」
《ターシャ?》
先程まで交戦していた他警備部隊からの歓声が周囲から聞こえてくる中、目の前で瓦解していくドミネーターを見ながら結月はその身に覚えた違和感に頭を悩ませていた。
わざわざテロリストが防護壁に穴を開けてまで投入してきたドミネーター。
この今まで見たことのない形状のドミネーターの出自は不明だが……、脅威と呼ぶには少し物足りない個体だ。
ドミネーターの脅威の一つである圧縮グレアノイド粒子を使用した中遠距離制圧攻撃を行い殺戮するわけでもなく、ただ方舟内戦力の注意を引いている。
そして粒子性兵器が通用しづらいという報告……。
例えるなら……そう。
周囲の目を引きつつ頑丈な身体を使って時間稼ぎをしているような。
そんな違和感を覚えていた。
《ターシャ!》
「ん、ごめんなさい。ちょっと考え込んでた」
《こんな時に考え込むなし! 次いこ次!》
「了解」
……。
企業連管制室。
ヒナキやネロの動向が気になりつつも方舟内全体の戦況をモニタリングしていたアリアの背後から白面の男が声をかけた。
「アリア、状況は」
「侵入してきたドミネーターの撃破率は40%。残り5体が残っていますがGNCの特殊二脚機甲部隊も向かっています。すぐに制圧されるかと」
「被害は?」
「一般人に重軽傷者が十数名ほど、警備部隊には機甲兵器含めその3倍ほどの被害ですが現状死者は出てません」
「異常のあった重粒子砲は沈静化できたのか」
「祠堂ヒナキに持たせていた端末経由で私がハッキングをかけ沈静化させました。そちらは問題ありません」
「さすがは方舟随一のハッカーだな。助かったよ」
「いえ……。それよりも方舟外海に出現した潜水艦が気になります」
「それはすでに調査班が解析を始めている。我々は現事態の収集に努めよう」
その白面の男のその言葉に頷き、アリアは管制室のPCのキーボードを叩き続けていたが……突然のビープ音に肩をビクつかせた。
「どうした?」
「……ステイシスの通信機からの信号が途切れました」
「なんだって? GPSは」
「反応なしです」
「まずいな……」
「あの子のことです、少し暴れて壊してしまったのかも」
「その可能性もあるが、
「ステイシスがですか? 今の彼女はちょっとじゃそっとじゃ……」
「だからこそだ。狙いが彼女だとしたら敵には策がある。急いでくれ」
……。
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