第30話ー本命の訪問者ー


 再生しつつある2体のドミネーターの内、RBが四肢を斬った個体は欠損加減が大きいためまともに動けるようになるまで時間が掛かりそうであった。

 そのためヒナキの狙いは比較的早く動き出しそうなヒナキが胴体に1撃を撃ち込んだ個体である。

 

 ヒナキはMIG−6を構え、狙いを弾丸を撃ち込んだ箇所に絞り発砲。

 弾頭は胴体に食い込み多少のダメージは入るようだが、ドミネーターの心臓とも言えるコアを破壊できるほどのダメージを与えられない。


《しどぉ、なにしてるのぉ? 早くしないと再生しきっちゃうわよぅ》


「弾がなかなか通らない! ゴムの塊に撃ち込んでるような感覚なんだよな……」


 貫徹力に優れたライフル弾を持ってしても貫通しない弾性に富んだ体表のせいで十分な威力を核に届かせることができない。


「Hey、シドー! コイツのコアの位置分かるか?」


「頭……いや、頭から胴に移動し始めてる! 急いでトドメを刺したほうが良い!」


「OK、便利な目ェしてんぜ」


 RBはそう言って自分の獲物にトドメを刺そうと近づいていく。

 

《胴体分厚いから1発じゃ抜けないかもぉ》


「足飛ばせるか? 地面に張り付けにしたい」


《それならぁ。ちょっと離れてぇ》


 今まさに動き出そうとしていた奇形人型のドミネーターだったが、怪物の方向のような銃声が鳴り響き再び地面に倒れることとなった。


《ヒットぉ》


「ナイス! っと……もう弱くなってるからあんまこれしたくないんだけど」


 ヒナキは地面に突っ伏したドミネーターのコアの箇所を補足し続けながら接近していく。

 地面に突っ伏して入るがコチラの位置を感知し続けていたドミネーターの巨大な腕が俊敏に動き、ヒナキを捕らえようとしたが回避され……。


「頼む一瞬でいいから開け……!」


 ヒナキの目の前に小さな空間の歪みが出現し、すかさずその歪に手をのばす。

 その歪は割れ、小型のワームホールが出現。

 そのワームホールが繋がる場所は……。


 ヒナキがその空間の穴からズルリと手を引き抜いた時、その手に掴まれていたのは胎動する赤い宝石のような物質だった。

 赤い液体を滴らせている人の心臓のような形をしたそれを、ヒナキは空中に放り投げMIGー6の銃撃を1発叩き込んだ。


 その核は銃弾を受け、赤い飛沫を散らしながら粉々に砕け散り……。

 同時に目の前のドミネーターも活動を停止した。


《今、なにしたのぉ?》


「ワームホールを直接コイツの核までつないで手で抜き取ったんだよ。座標の指定と固定に時間かかるし一瞬しか開けないから動かない相手にしかできない芸当だけどな。んなことよりなんだったんだあの核の形……まるで人間の心臓みたいだった」


《ふぅん……しどぉもやっぱり違和感あるぅ?》


「違和感?」


《そぉ。その子たちなんだかニンゲンみたいな気配しなぁい?》


「やっぱそう感じるよな……?」


 ヒナキの後方でRBの持つブレードの推進機構が起動した音がした。

 振り向くとRBが奇形人型ドミネーターのコアに対しブレードを突き立てていたところだった。

 弾性のある身体で衝撃に強いことは確かだが斬撃にはそれほど強みを発揮しない。

 核の場所さえわかってしまえば彼のブレードの攻撃力はたやすくドミネーターの命に届く。


「一丁上がりっとォ。そっちも終わったみてェだな」


「あと数体いるはずだ。早く行かないと」


「せっかちだぜ兄弟ブラザー。焦らなくてもここはウチの防衛力のど真ん中だ。他の奴らも動いてる、対処してるさ」


「あんたたち大企業と違ってこっちは弱小会社なんでね、少しでも多く活躍しないと飯が食えねぇわけだ」


「ダハハ! なんだそりゃ、頭のネジ飛んでやがるなクレイジーシドー。まあいいや、こんな面白ェバカに出会えた記念だ。付き合ってやるよ」


「報酬は折半で頼む」


「そっちの全取りでかまわねェよ。俺ァ金には困ってねェ」


「ほんとか! マジかっけぇッス先輩」


 そんな二人の男のやり取りをビルの上からスコープ越しに眺めていたネロはため息をつきながら右耳の通信機に手を伸ばした。


「しどぉ、そこから北西に2体いるわよぉ。GNCの機甲兵器部隊が向かってるから早くしないとぉ」


《了解! ネロもついてくるだろ?》


「うん」


《ビルの上跳ぶなら目立たないように頼む!》


「はぁい」


 そう言って眼下の男たちは走り出した。

 自分もビルの上を跳び移りながらついていくかと、対ドミネーター用狙撃ライフルの銃身を外そうとした。


 ……こんな時にこんな事を思うのは不謹慎であるが。

 楽しい。

 戦う時はいつも一人だったし、こんな連携を取ったこともなかった。

 ましてや同じ戦場に立ち人と話しながらなんてことは一度も。


 思わず……ちょっとした笑みがこぼれてしまった。


「おほほォ、やっべぇ写真で見るよりメッチャ可愛いじゃんよ、方舟の姫さんは」


「……誰ぇ?」


 声をかけられるまで気配に気づかなかった。

 ここは高層ビルの上。

 気配も感じさせずすぐ背後まで接近され声をかけられるまで気づかなった。


 見た目は人の形をした黒い怪物……そう、あの時あの大侵攻の戦場で戦った黒鎧に似ている。

 黒い鉱石グレアノイド質の兜のような形状をしたものの隙間から、赤い光を放つ目が確認できた。


(しどぉの言ってた奴らかしらぁ……)


 ヒナキが言っていた、あちらの世界の元軍人であり異形側についた怪物達。

 その一人かもしれないと悟ったネロは……。


「しど」


「おっとぉ」


 ヤツの手が、伸びた。

 凄まじい速度でしかもムチのようにしなやかに。


 その手は露出していたネロの通信機を掠め取り、我がものとした。


「させねぇよん。あの野郎はクソムカつくが今相手するとクソうぜェからよー。ソロでお茶しようぜ、お姫さまちゃん?」


 その人語を話す人型の異形は奪い取った通信機インカムを握りつぶした。

 ネロはそれを見て額に青筋を立て、目つきは刃物のような鋭さを見せた。


「あっはぁ……お茶する前にネロに壊されてほしいんだけどぉ」


「君みたいなかわいこちゃんに殺されてぇー! マジで! でもそうもいかんわけよ、こちとら。ま、ちょっとボコって黙らせてから一緒に来てもらうかぁ」


「絶対行かなぁい」


 その言葉に続くように、ネロが臨戦態勢に入り長い銀灰色の髪がふわりと揺れた。

 軽薄に笑うその人型異形もネロが纏う空気が戦闘モードに入ったことを感じ取り、笑うことを止め……。


……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る