第25話ー迷子を連れる兵器少女と不審事象報告ー


《今度は方舟都市ノアズアークシティの安全性を確保している、この都市をぐるりと囲む防護壁のご紹介をいたしましょう。地上20メートルほどの合金防護壁の中に粒子圧縮技術による強固な見えないシールドがドーム状に展開されており空が隠れないように――……》


 ウェポンパレードの合間に方舟の安全性を説明するAI音声が流れていた。 

 ドミネーターの侵入を許さないとかなんとか言っているのを聞きながら、ヒナキは警備任務を続けている。


(勝ててよかったってか、同じだけスコア出せてよかったわ……)


 持ち場に戻った後、ヒナキはあのアクティビティのスコアでネロに勝てた……というより同様レベルのスコアを出せたことに安堵していた。

 一方のネロは不満げではあったが、あれはあくまでバーチャル空間でかつ動きも制限されている中でのものだったため勝てたとヒナキは言っていた。

 

 そもそもヒナキはあのレベルの仮想訓練を何度もおこなった事があり、ネロのプレイしている様子を観察していたという一日の長があったのだ。

 あんなところで変に目立つとよくないもんなと独り言を言うが、その出したスコアのせいでGNCのエースに余計な火をつけてしまっていることには気づかないでいた。


「ン……?」


 ヒナキが人通りの多い場所を中心に眺めていると、離れた場所で風船を持ちながら泣いている小さな男の子を見つけた。

 両親と見られる大人は確認できない。

 恐らく迷子かなにかだろうと思い、保護するためヒナキは近づいていった。


「よお、男の子がそんな泣いてちゃみっともないぞ」


「……!!」


 銃を持った警備員、かつ声をかけてきた男が黒い仮面にペロッと下を出している口の絵が書かれたもので顔を隠しているため泣くのも忘れてしまうくらい驚き硬直してしまっていた。

 ヒナキはこれ幸いと腰を落としてその男の子に視線を合わせてやった。


「ママパパはどした?」


「……」


 ふるふると首を横に振り、ママとはぐれちゃったと消え入りそうな声で伝えてきた。


「このおっきい大砲とわんわんずっと見てたらいなくなってたの……」


 ガンドックファクトリー製の大規模重粒子砲と獣を模した形をしている四脚機甲兵器、それに気をとられていて母親とはぐれたらしい。

 迷子に対する対応方法は警備マニュアルに記載されていたため問題はない。


「そっか。ママも多分君のこと探しているだろうし、兄ちゃんと一緒に迷子センター行こうな」


「迷子せんた行けばママ見つかる……?」


「ああ、見つかるよ。んじゃ行こうか」


 男の子の手を取ってやり、最寄りの迷子センターの位置を確認する。


《しどぉ》


「ん、どした?」


 インカムから突然ネロの声が聞こえてきた。

 またなにか警備対応が必要なイレギュラーを発見したのだろうかと身構えたが……。


《その粒子砲の付近になんかおかしいやつがいるぅ》


「おかしいやつ?」


《ガンドックファクトリーのフルメイル着たやつぅ。さっき周りの仲間の視線が切れた時重粒子砲のコンパネになにか差し込んだぁ》


「その差し込んだヤツこっから見えるか?」


《見えなぁい。身体で隠してるぅ》


「でもガンドックファクトリーのフルメイル着てるんだろ? 社員じゃないのか」


《挙動がおかしいから言ってるのぉ。すっごいコソコソしてるわよぉ?》


 ネロがそこまで言うなら一応確認しておくかと考えた。

 男の子も連れていくわけにはいかなかったため……。


「ネロ、ちょっとこの男の子迷子センターにつれてってもらっていいか?」


《いいけどぉ、おてて握れないわよぉ?》


「そこはうまく言葉で誘導してやってくれ」


《はぁい》


 風切り音。

 またビルの上から飛び降りているのだろう。


「お待たぁ」


「待ってない待ってない、めちゃくちゃ早いな……」


 さっきまでビルの屋上にいたとは思えないほどこっちに来るまでが早かった。

 男の子にそのお姉ちゃんについていくように言う。


「あたしに触っちゃだめよぉ」


「……なんでー?」


「なんでってぇ……」


「君は男の子だからな。気軽に女の子へ触っちゃだめだろ?」


「そっかー……!」


 んじゃ頼むなとネロに男の子をついて行かせた。

 しばらくネロと男の子と背中を眺めていたが、ちゃんと迷子センターへは向かえていそうだったため、自分はネロが言っていた挙動がおかしいガンドックファクトリー社員の元へ向かった。


「おねーちゃんおっぱいおっきー! ママよりすごーい」


「そぉ? あんたは背ちっさぁい。子供ってみんなこんななのぉ?」


「おねーちゃんも背は大きくないよー?」


「なにこのがきぃ。むかつくぅ」


 子供は純粋で思ったことがそのまま口に出てしまうため、大人に囲まれていたネロにとってはかなり新鮮な会話だろう。

 ネロ自身、そのなんでもない会話がすこしばかり楽しそうで足取りも軽い。

 男の子がはぐれないようにちゃんとついてきているかしきりに後ろを確認しているようだ。


 そしてヒナキはネロが言っていた人物の近くまで来ていた。


「此処から先は関係者以外立ち入り禁止です。どうしました?」


 粒子砲の制御盤コントロールパネル付近まで来るとガンドックファクトリー製全身防護服フルメイルを着用した社員に声をかけられた。

 ヒナキは警備員だということを証明するための証明書を見せ、その社員はデバイスで証明書を読み取り登録情報を確認した。


「ノア民間軍事会社の方ですか。うちになにか?」


「そちらに不審な動きをしている方がいるって情報があって、一応問題ないか確認しに来たんだ」


「うちの区域に? 誰だろう……変な方は入れていないはずなんですけどね。どこにいたかって聞かれてますか?」


「重粒子砲のコンパネ付近って聞いたよ」


制御盤コントロールパネルに? なんだろう、ちょっと確認しますね」


 ガンドックファクトリーの社員は通信端末を使用し、同僚に制御盤を確認してくれと指示を出していた。


「今確認させてます」


「忙しいのに手数かけて申し訳ないな」


「いえ、こちらこそお忙しい中ご確認いただきありがとうございます。何かあったら怖いですしね」


「やっぱり何かある事を危惧するくらいには治安よくないのか?」


「普段なら神経質になる必要はないのですが、パレード時は都市外から人がやってくるのでどうしてもね。先日大侵攻もあり、なおかつ企業連管轄の病院に不審者が侵入したというニュースもありましたし」


 不審者の侵入……どころではなかったのだが。

 随分マイルドな情報に操作されているようだ。


 そんな世間話をしながら、ヒナキとガンドックファクトリーの社員は確認結果の連絡を待っていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る