第24ー①話ークレープをはむ少女とウェポンパレード


「ほぉ……でっけーんだなこっちの世界の最新兵器は。囲まれてすぐ破壊されそー」


「くれーぷぅ」


「待て待て待て、どうもありがとう。……ほれ」


 パレードの傍らクレープを売り出している店があったためネロが騒ぎ出し、いちごクリームクレープを注文し渡してやった。

 途端にハムスターよろしくぱくつき始め、包み紙ごと食べてぺっぺと吐き出す慌ただしい少女。

 ヒナキはその様子に呆れながらもクレープの包み紙をきっちり破ってやった。

 

《続いて今期最大規模を誇る重粒子砲のご紹介です。株式会社ガンドッグファクトリーより、GNC社製大型粒子炉を搭載した移動式長距離粒子砲”アルバレスト”。独自開発された粒子圧縮機関でのフォトンノイド収束率は驚異の98%を誇り、出力は――……》


 機械的なAIアナウンスにてセントラルストリートに現れ進んでいる全長50メートルはある巨大な砲台。

 大柄ながら単独移動可能、耐グレアノイド侵食性特殊合金で製造されたそれはシルバーメタリックの洗練されたデザインで観光に来た人々を魅了している。

 

 見物する人々はその迫力に感嘆の声を上げているが、説明の中で大型ドミネーターの呼称であるクラスΓガンマの体表ですら貫通可能との触れ込みに大きな歓声が上がっていた。


「威力全振り、ちょっと動けますよって砲台ね……。実用性度外視のパフォーマンス用。頭悪そうな兵器だな。好きだわ」


「んぐ……好きなのぉ? そこまでこき下ろしといてぇ」


「男の子はああいうロマン兵器が好きなんだよ。当たりゃあワンチャン、はずしゃあ残念また来週ってな」


 でけぇ強ぇはかっこいいーってことだと続けながら、黒仮面を少しずらして気が抜けた様子でゼリー飲料を口にくわえて吸っていた。

 朝の疲れからからボケーっとしてしまっているが、まあこの雰囲気はそれなりに楽しめている。

 祭りなんてものを経験したのは初めてだったため、少々この華やかさに気圧されており放心中だ。

 

「しどぉの世界の兵器はあんなおっきくなかったのぉ?」


「粒子科学と次元間技術のステージがこの世界の比じゃなかったからな。あのどでかい粒子砲くらいの出力なら……そうだな、あそこにある歩兵携行用の無反動ランチャーくらいの大きさで制御できてた」


 企業ブースに展示されていたランチャーを指差しながらそういうヒナキに対し、ネロは少しばかり驚いたような表情を浮かべ……。


「信じられなぁい。デトに載せられてた試作小型重粒子砲だってそんな小さくならないしぃ、そもそも1回撃っただけで砲身が壊れちゃうのにぃ」


 デトネーター。

 ステイシスが駆る純白の特殊二脚機甲戦術兵器ウィンバックアブソリューター

 大侵攻の際それに搭載されていた、小型ドミネーターを一掃した継続射出性超火力兵器だ。

 侵食耐性を持つネロ=ステイシスにしか扱えない、グレアノイド粒子を使用した対ドミネーター試作兵器。

 特殊二脚機甲にギリギリ搭載できるほど小型化したために耐久性が落ち、一度使用しただけで瓦解してしまう欠点を抱えたものだった……。


 だが、その試作兵器が生み出した空間の歪みがヒナキをこの世界に呼び寄せたきっかけだった。


《紳士淑女兵士指揮官の皆々様さあお待たせいたしました、次より現れるは各企業渾身の最新二脚機甲兵器! まずはセンチュリオンテクノロジー社製ブルーの装甲が目印、待望のブルーブラッド系列最新機の登場でございます! 搭乗者はもちろん、青の戦姫アナスタシア・結月!》


 先程の砲台以上の歓声が上がった。

 セントラルストリートに堂々現れたのは大型人型兵器、汎用型二脚機甲だった。

 ブルーブラッドと呼ばれる製品のマイナーチェンジモデルであり、センチュリオンテクノロジーが売り出す二脚機甲としては最もポピュラーで、いわゆる大量生産品の兵器だ。


 ポピュラーであるということはそれだけ民衆に認知されており、青の機体はまずこのブルーブラッドを思い浮かぶ者も多い。

 そして……何より自分の身体のラインがはっきりと出るタイトなパイロットスーツを着た超人気パイロット兼モデル、結月少尉が操縦しているとあれば観衆の興奮も最高潮だろう。

 操縦中の結月少尉が確認できるよう、ご丁寧にコクピットの装甲は取り外されている。


 結月少尉はその見た目麗しさからさらに笑顔を振りまき、時折手を振っているがどこかぎこちない。

 緊張というより何故自分がこんな事をしなきゃならんのだという感情がうっすら透けて見えていた。

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