第3章ー兵器の祭典、セントラルストリートパレードー

第20話ー警備員集合ー


 方舟都市、セントラルストリートと呼ばれる大通り上空に数々の立体モニターが展開される。

 内容はもちろん、各兵器製造企業の最新兵器のプロモーションである。 


 方舟都市を代表する数々の兵器製造会社が我ここにありと自慢の新製品をお披露目する兵器の祭典。

 雲ひとつない晴れやかな空の下、方舟内外の人々で賑わう中大々的に開催されようとしていた。


 兵器はもちろんのこと、食事ができるような出店なども多く出店されているため殺伐としたイメージを持ちがちな兵器の展示会とは思えないほど華やかでお祭り感がある。


 すでに警備もセントラルストリート各所に展開されており、タクティカルベストに防弾ヘルメットを装着した兵士や、中にはフルメイルの防弾アーマーを着込んだそれこそロボットような見た目の警備兵も配置されていた。


 だがやはり目を引くのは一定間隔で配置されたGNC社製警備用二脚機甲兵器だろう。

 パレードにやってくる人々を威圧しないよう明るい赤で装甲を塗られ、ウェポンパレードという英字がプリントされている。

 装備している兵装も都市内で使用するため調整された圧縮粒子エネルギーなどを使用する特別製である。


 当然、ヒナキやネロも配備されているのだが……。


 遡ること4時間前。

 

 警備任務を請け負った各会社の社員たちは早朝4時にセントラルストリートに一番近いGNC軍事基地の航空機発着場に集合することになっていた。


 集合し、警備登録の確認を行った上で配置を言い渡される。

 中には同じ警備担当箇所でバッティングする別会社の警備スタッフと連携をとったりする者もいるようだ。


 そんな中、ヒナキは朝が早すぎてもはや寝ながら歩いているネロを連れて集合場所を訪れていたのだが……。

 たまにどこからともなくひそひそ話が耳に入ってくる。


「おい見ろよあれ、死体漁りスカベンジャーズだ」

「本当だな。相変わらず気味の悪い奴らだ」


 つい先日まで遺体の回収任務をずっと行っていた顔も見せない男と少女の二人組。

 やはりというべきか、陰湿な噂が関係者に回っているようだ。

 挨拶でもしてやろうと声が聞こえた方に顔を向けると、うわっという声を出しそそくさと離れていってしまう。


(あっれぇ、これ怖ぇかな)


 ノーフェイスという渾名で呼ばれる白面の男、総一朗。

 その男がいつもつけている白い無貌の仮面の黒いバージョンをアリアからもらったため、今回はそれを着用して顔を完全に隠している。


 外から見ると完全に顔を覆っているため確認できないが、装着しているヒナキ側からは問題なく前が見えているようだ。


 ただ、黒い仮面ではあるが子供が怖がるかもしれないとのことで口の部分にぺろっと舌を出したひょうきんな口が白い塗料を使って書き込まれていた。

 気休めもいいところだ。


 警備登録の確認を行うため、GNC社員に声をかけて端末でノアPMCの社員証を読み込んでもらった。

 ヒナキ、ネロ共に承認が降り警備スタッフ用のカードを貰う。


 ここまでは順調だ。

 周りから陰口を叩かれたり気味悪がられたりするのはまぁ正直言ってどうでもよかった。

 客観的に自分を見たら、間違いなく気味悪いし不審なやつだと自覚しているし、馴れ合いを求めているわけでもない。


 とりあえず生きていくために仕事をこなすだけだ。

 

 しばらくして百人規模の警備スタッフが揃ったところで警備スタッフを集めた朝礼が行われた。

 責任者である金髪金髭を蓄えた角刈り筋骨隆々の男が出てきたところ、全ての警備スタッフがその威圧感に息を飲んだ。


《おはようございま〜す、警備スタッフの皆々様方〜! お元気〜!?》


「おいネロ、やべぇ俺あの人好きだわ」


「……うるさぁい」


 登場時の威圧感をものの見事に吹き飛ばしたその男はGNC軍部大佐、メイソン。

 その渋く恐ろしそうな見た目とは裏腹なオネェ口調のひょうきんさがヒナキにガッツリ刺さったらしくネロの肩を持って揺すった。

 ネロはヒナキの手をバチンと手を払ったのち、まだしょぼつく目をゴシゴシとこすりながら大あくびをかましていたが。


 笑いすら起きるその場で、メイソン大佐の朝礼スピーチが始まった。


《先日私達を襲った大侵攻のこともあって、皆様方は大変だったと思うけど予定変更なく今日これからパレードが行われるわ。パレードを楽しみにしていた人たちもまだ不安な気持ちを拭えないでいる……またあんな事があるんじゃないか。次に驚異にさらされるのは自分じゃないか。私達だってそう。でも今日を含めて3日間、そんなことを市民、そして外からくるカワイコちゃんたちに想像させないくらいきっちり安全を確保してちょうだいね! そして今回はあなた達実働部隊の他に我らが方舟を護るエースパイロットたちも後ろに控えている、あなた方も安心して警備にあたって頂戴!》


 メイソン大佐の横まで歩いてきてずらりと並ぶは特殊二脚機甲戦術兵器を保有する限られた企業の中のまた限られたエースパイロットたち。

 その中には当然GNCのパイロット、伊庭やシトリエリクシル……センチュリオンテクノロジー所属の結月少尉もいた。


 方舟を代表する有名人たちの登場にその場が湧き、一部では歓声すら聞こえてきた。

 ヒナキからすればナンノコッチャではあるが、ネロはその様子を見て眉間にシワを寄せていた。

 気分はあまり良くなさそうだ。


(なんか視線を感じるな……なんだあいつずっとこっち見て)


 前に出て並んでいるエースパイロットの中、黒髪に青のメッシュが入った青い軍装女性。

 その女性がじっとこっちを見ているようだ。

 

「ネロ、あの青い子ずっとこっち見てないか」


「しどぉ」


「え?」


「鏡で自分の顔見てきたらぁ?」


「……ああそうか、俺今ベロ出した黒仮面の人だもんな。そら気になって見てくるわな」

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