第19話ーグローバルノアコーポレーションー


 方舟都市、企業連合傘下の中で最も影響力の大きい兵器メーカー、グローバルノアコーポレーション。


 通称GNCと呼ばれるその企業は企業連合ビルの近所に自社高層ビル3棟とセンチュリオンテクノロジー以上の規模を誇る軍施設を保有している。

 

 方舟に住まう若者たちの就職先として一番に挙がってくるそこで、トップクラスに有名な兵士が一人遠征任務から帰還したところだった。

 全身包帯とギブスまみれでかつ電動の車椅子に座りながらだが。


「RB! あっははは! なにそれ! だっさ!」


「……」


「ちょっ、みんな来てよ! 方舟で大人気、RB様がものすごいダサい感じに返却されてきてるから!!」


 車椅子でころころ転がっているRBアールビーと呼ばれている男性を指差して笑う、赤を基調とした軍装に身を包む若い女性。

 その呼びかけに応えて男性が2人ほど出迎えに出てきた。

 そのRB以外の3人の胸には特殊二脚機甲戦術兵器搭乗者であることを示す金色の鷹の部隊章が輝いていた。

 彼ら彼女らはGNCの特殊二脚機甲を駆る軍部の中でもエース級の軍人たちである。


「なんだよ、イカすじゃんRB。遠征任務おつかれさーん」


「だ……大丈夫……? い、痛そう……」


「……」


 まるでミイラのようなRBは仲間たちの呼びかけに一切答えないまま司令室へ向かうためころころと電動車椅子のタイヤを転がし続けている。

 それに追随するようにエースパイロットたちは歩きながら話しかけ続けてくるがそれを全て無視して、GNC司令室へ到着。

  中に入り、開口一番……。


「Hey、オッサン!! この後ろのファッキンクソ女処分してくんねェかな!」


「ひっどーい!! てか大佐に向かってオッサンはマズイって!」


「まじで怖いもん知らずだよなこいつ……」


 叫ぶミイラに対し、書斎机に腰掛けていた金髪金髭を蓄えた筋骨隆々の米国人である大佐と呼ばれた人物が言う。


「ご苦労ちゃんじゃなーい、RBちゃん! どうしたのその怪我、こっぴどくやられたみたいじゃない?」


 筋骨隆々かつ金ヒゲを蓄えた超渋いおじさんの口調ではなかった。

 あまりに見た目とかけ離れたオネェ口調ではあるが、部下である彼らはそれに慣れておりなんの疑問も抱いてはいない。


「ッハ、ちょっと数回無茶しただけだよ。ここの医療スタッフが大げさな処置しやがるからミイラ上等な見た目になっちまってるが。で、どうなんだこのクソ女処分してくれんのか」


「もー、重症人にウザ絡みしちゃメッ、でしょ! エリクシルちゃん!」


「ゴメーン大佐ぁ」


「ハイ、処分終わり」


「ファッ○!! 終わってやがるこの組織は!!」


 RBと呼ばれている男はミイラ姿のまま車椅子から立ち上がり、怒りのままその車椅子を持ち上げて叩きつけた。


「まあまあ、彼女なりに元気づけようとしてくれてるの。そんな怒らないであげて」


「イラつきしかしねェんだが……。ンなことよりオッサン、今度はセントラルストリートパレードの警備任務だって聞いたぜ? 仕事に対して文句はねェが俺が出張らねェと回らねェのか?」


「そそそ。耳が早いわねぇ。貴方は遠征中だったけれど、数日前にドミネーターの大侵攻が起こったわけなの。その兼ね合いで方舟の兵士が大勢亡くなった上、最近ドミネーターの動きがおかしいっていうので警備の層を厚くしようって話があってね。貴方が抜擢されたわけ」


「抜擢っつぅか……人手足りてねェだけじゃねェのかよそれ」


「RBみたいな優秀な人手がねッ」


「黙りやがれクソ女」


 ひどいと叫ぶエリクシルという女性を無視し、RBは続ける。


「俺が出るってこたァもちろん後ろのコイツら……機甲部隊も出るんだよな?」


「機甲部隊はね。彼らウィンバック部隊は後方で待機しておくことになるわん」


「……」


 RBは後ろの3人に黙って顔を向けた。


「悪いなRB、俺らには企業連合のお膝元を護るって大義名分があるからさぁ」


「クソが! 乗り物乗ってるだけでなんでこんな扱いに差があるンだよ」


「お前も乗ればいーじゃん」


「わかってンだろ、伊庭イバ。ああいうちまちましたもんは俺の性に合わねェンだよ」


「伊庭少尉殿な。RB軍曹」


「最近おもちゃに乗って昇格したからって調子にのってんなァ? あァ?」


 尉官である特殊二脚機甲パイロット男性、伊庭よりも立場としては下に位置しているRBだったが歴自体はRBのほうが長いという。

 そのため関係性的にややこしいことになっているが……。


「い、一旦おちつこ……? ふたりとも……」


「テメェはもうちょいハキハキ喋れねェのか、シトリ」


「ご、ごめん……」


 随分と自信なさげな小柄で両目を前髪で隠している男性シトリはこんな感じであるがGNCのエースパイロットの一人であるという。

 部下である彼らのそんな掛け合いを和やかな気持ちで見ていたオネェ大佐だったが……。


「RBちゃん。何かあるとは限らないけどしっかり頼むわね」


「あ? なんだよ。なにか気にかかってんのか」


「方舟内外の動きが少しおかしいような気がしているくらいね。大侵攻のほとぼりも冷めていないから、すこし胸騒ぎがするくらいだけれど」


「……。まあ仕事はきっちりこなしてやるよ。任せとけ」


 そう言ってRBは電動車椅子に乗らずに担いで司令室を出ていってしまった。

 

「待機とはいえ、気構えはしておいてねあなた達も」


「はーい」

「了解」

「り、了解……しました」


 直属の部下である彼らにも言葉を贈り、出ていったのを見送ると大佐はまた一人になった。

 そしてひとりでボソリとつぶやく……。


「はあ……あまり波風立てることはしないでほしいわねぇ、総一朗ノーフェイスちゃん」

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