第18話ー幕間ー
……。
本土。
科学文明が栄えていたそこは十数年前、ドミネーターの侵攻により壊滅的な打撃を受けた。
その時点の兵器では圧倒的な物量で攻めてくるドミネーターに対し有効な手立てはなく、追い詰められた人類は世界的に小型戦術核の使用に踏み切らざるを得なかった。
核兵器はその強力さゆえドミネーターが相手であろうが有効な攻撃手段となったが、建築物の倒壊と放射能による環境汚染により人類が居住するには適さない土地が多く広がることとなる。
方舟の企業が開発した技術により放射能除染技術が確立され始めた昨今、本土で住まう人々も明日への希望を抱けぬまま、しかし強く生きていた。
本土政府軍中央司令部。
コンクリートで建築された巨大な軍施設、その周囲円状に民衆が住まう街ができている。
方舟と比べれば実に小規模でトタンなどで作成された住居が並ぶだけの殺伐とした街だが、政府軍に護られながら経済活動も活発な街になりつつあった。
民衆を守る政府軍。
彼らは本土に住まう人々の希望である。
だが近年、本土に現れるドミネーターがより強力になっており、なけなしの資金で購入する方舟からの型落ち兵器では太刀打ちできなくなってきている。
最新兵器を購入する資金など、現状どこをひっくり返しても出てこない。
このままではようやく軌道に乗ってきた街の人々の生活が危うい。
彼らは、藁をも掴む思いで日々足掻いていた。
「司令、アッシュより例の二人の画像が送られてきました」
政府軍地下施設。
薄暗い司令部にて、白壁に投影されたのはクレープを頬張る少女の姿と……明らかにコチラに視線を合わせてきている黒い帯で顔を隠匿された男の姿。
「オーダー殿、彼らでしょうか」
《ブハハハハ、あいつだあいつだ!! 超久しぶりに見たぜ、クソッタレの裏切りもんの顔をよォ》
「……オーダー殿はどうされた?」
《あン? ボスはいねェなァ。何してんだかな、それよりバチボコに可愛いじゃねぇかステイシスとやら! なあ何してんだよおまえら、さっさと連れてこいや》
司令室にいる司令官と呼ばれた老人一人、そして部下の兵士が一人の他に、荒々しく下品な声だけが聞こえてきている。
「先日送り込んだ部隊がかの少女の奪取に失敗し、3名死傷しております。1名は未だ方舟都市内にて潜伏中ではありますが……」
《ガタガタ抜かしてんじゃねェって。見た感じあいつ、まだ拘束帯に縛られたまんまだろが。今のうちに掠め取っちまえって言ってんだよボケナス共》
《口が悪いねぇ、君》
《ボス! コイツラがもたもたしてっから喝入れてやってたんスよォ》
《気を害してすまないね、政府軍司令官殿。まあ許してやってほしい》
「いえ……」
落ち着いた声色ではあるが言葉に言い表せないほどの凄みのある口調に、長く人生経験を積んできた司令官の身が縮まった。
《私があの時、彼女の奪取に失敗してしまったために迷惑をかけてすまないと思っているよ》
「問題ございません。ただ、あなた方の言う彼は何者なのでしょうか? あなた方であれば矮小な人間一人片付けることくらい容易いのではないですか?」
《あァ!? てめェこのジジイ、なに生意気なこと言って……》
《やめなさい。司令官殿、彼の次元渡りは正直我々にとっても予想外の出来事だったのだよ。確かに今の彼一人片付けることは我々にとっては容易いことだ。だがあの少女とのシナジーは予想がつかない。彼はそれだけの契約をすでにかの少女と交わしてしまっているのでね》
「……? 老獪な私では理解に至るまでに時間がかかりそうです」
《理解してもらおうとは思っていないよ。ただ、早めにその少女を連れてくる、もしくは遺伝情報を掴んでくるんだ。我々の駒も貸そう。頼んだよ、司令官殿》
それだけ言われると、その声は聞こえなくなった。
そしてすぐにその少女に対する行動計画が起こされることになる。
こちらの優秀な駒はすでに方舟内に潜伏している。
あとは新たに駒を投入するのみ。
その投入タイミングは……アッシュの情報を元に決定することになる。
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