第7話

 那智と碧斗は、河川敷を通る通行橋の下にいた。

「懐かしいな……。この辺りもあまり変わらへんな」

 那智は、静かに流れる水の流れを観察していた。腰を下ろし、手を水の中に入れた。川の流れに沿って葉が流れ、那智の手に当たった。

 碧斗は後ろで壁に寄りかかる姿勢で座り込んでいた。

「俺たちの人生、やっと終われそうやな」

 碧斗の言葉には、達成感をあまり感じられなかった。それよりも、疲れ切った声。人生の荒波に呑まれ、彼にはただただ疲労だけが蓄積していた。

「ゆあなが死んで以来、俺は裏の世界で、碧斗は表の世界で復讐の準備を進め、完了次第、ゆあなの弔い合戦を行う。一応、目標は達成したからな。に行っても、怒られはしないだろう」

「だと良いがな」

 二人の口数は少なかった。ただただ時間が流れていく。

「本当は、ゆあなが生きているうちに助けることができなきゃ、意味ないんだけどな……」

 碧斗が不意に口にした言葉は、彼の本音であったのだろう。那智は初めて碧斗の本音を聞いた。

「碧斗さ、お前ゆあなこと好きだったんだろ? 」

 那智の質問に碧斗は積極的に答えようとしない。

「俺は、ちゃんとお前とゆあながくっつくことを望んでいたんだよ……。実はね」

「問題は、ゆあながお前のことを好きだったことにあるんだがな」

 碧斗の言葉に、那智はここに来て初めて笑った。

「それはなんとなく感じていたから、ちょっと気まずかったわけよ」

 那智の笑顔に、碧斗は鼻を鳴らすだけだった。

「恋愛事情もうまくいかないとは、ほんまおもろいな」

 那智はどこか嬉しそうに話していた。碧斗にもその気持ちが少しわかった。那智も碧斗も復讐に生きてきた。それ以外のことを何もかも捨てて。彼らにとってはここでの馬鹿話が、久しぶりの休息であった。本当に久方ぶりの。最後に心を休ませた日がいつだったかわからないほどに。

 那智と碧斗の手元には、それぞれ茶袋が置いてある。

 碧斗は、那智に静かに語りかけた。

「那智、今までありがとな」

「碧斗が俺のこと、名前で呼んだのいつぶりだ? 」

 二人の最後の会話も、実に彼ららしい。

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しかし、それでも救われない Sui @_Sui_

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