第3話
「この子、愛犬のミルクって言うんです。
「わかりました。ミルクちゃんのこと、大切に預からせていただきます」
見るからにマダムと会話をしていたのは、
一通り、依頼内容を伝え終えると、依頼主は帰宅した。
碧斗はこの時、世間からはいわゆる「何でも屋」と呼ばれる事務所を経営していた。経営は比較的順調に進んでいた。スタッフを雇うことはなく、個人事務所として細々と息をしていた。
もちろん一人では対応しきれない以来も来るので、そういう時は断るか、単発バイトを募集するなど臨機応変に対応していた。
「お前まだAって呼ばせてるのかよ」
碧斗と那智は、街中にある小さな公園のベンチに腰掛けていた。
碧斗は白いパーカーに黒いズボンを着用し、那智はスーツを着こなし、薄い色のサングラスをかけている。
「別になんでも良かったんだよ。最初にAって名乗ってから、そのままずるずる今に至るってだけ」
碧斗は「そうかいな」とだけ小さな声で返事をした。
「それで、ことは順調に進んでるわけ? 」
碧斗スマホをいじりながら、小さな声で話を進める。あくまでこの二人は、たまたま同じベンチに居座っていると周りに見られるためであった。
「順調順調。俺たちの目的も、生きる意味も、もうすぐ達成できそうかと」
那智はゆっくりと新聞をめくる。
公園ではまだ小学校低学年と思われる数人の子どもたちが、砂場付近で走り回っていた。鬼ごっこでもしているのだろうか。全力疾走だ。
すると、そのうちの一人が段差に躓いた。その子は泣き始め、徐々にその鳴き声は大ききなってくる。一緒に遊んでいた子どもたちが近づいてきた。膝を擦りむいているようであった。周りの子どもたちは、とても心配している。
「大丈夫か? 」
碧斗はその子どもに近づいていた。
「男の子が泣くんじゃない。絆創膏あげるから、これ貼る前に、水道で足洗ってき」
終始優しい態度のためか、怪我をした子どもは碧斗が怖い人ではないことを悟っているようであった。
「これあげるから。ほら、あっちで足洗っておいで」
碧斗の言葉に子どもたちは素直にうなづいた。
子どもたちが一斉に移動し始めた。
「お前は相変わらずだな」
後ろには那智が立っていた。
「何がだよ? 」
碧斗は笑いながら聞いた。
「いや、別に」
那智は「それじゃ、また
那智と碧斗は二人の地元の墓地にいた。
紅葉の季節。少し肌寒い風が吹いている。平日の昼間から、大の大人が二人、その墓地には静かに佇んでいた。
「もう十六年も経つんかいな」
碧斗が静かに語りかける。
墓石には「寺月ゆあな」の文字が刻まれていた。
「世知辛い世の中やな」
碧斗の突然の言葉に、少々那智は驚いているようでもあった。
「どうした急に? 」
「いや……、別に」
今日で寺月ゆあなの十六回忌であった。
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