ゴミ箱から見ている何か

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私の学校には、お金持ちの家の男の子がいる。


 その男の子は、いつも新しい道具を使っていて、新しい服を着ているような子だった。


 男の子はいつも、


「俺のお母さんとお父さんはお金持ちだから、たくさん買ってくれるんだ」


 って言っていた。


 流行の物が出たらすぐに買ってもらい、使わなくなった物はすぐに捨てる。


 私はそれを見て、何だか嫌だなって思った。


 うまく言えないけど。


 そんな男の子の周りには、いつもたくさんの友達がいたけど、本当の友達じゃないと思う。


 だって、男の子の家に遊びに行ったその子たちは、すごいおやつが出てきたとか、最新のおもちゃで遊べたとかそういう事しか喋ってないし。


 お金持ちの男の子の事については、誰も話題に出さないもの。


 だから私は遠くから見てるだけで、そのお金持ちの子とはあんまり話したりしなかった。


 たまたま授業でグループが一緒になった時に「これいらないからやるよ」って言われて、最新のシャーペンを差し出されたけど。


 私は「別に欲しいやつじゃないじゃないから、いらない」って断った。


 だから、そのシャーペンは他の子の手にわたる事になった。


 クラスの皆は、新しいやつとか多くの人が持っているものをよく欲しがるけど、私はそういうのには興味がなかったから。


 たぶん、こういう考え方になったのは、おじいちゃんの影響かな。


 おじいちゃんはよく私に言うんだ。


「物には心が宿るから」


 物を大切にしなさいって。


 捨てる時はちゃんと感謝しなさいって。


 おじいちゃんは昔、物がない生活をしていたことがあるから、そのせいかもしれない。


 今の時代は、たくさんの物があって、少しのお金でも手に入れることができるから、おじいちゃんの考え方は古いのかもしれないけど。


 でも、間違った事じゃないから私もその通りだなって思ってるの。


 私は教室のごみ箱になんとなく視線を向けながら考え事をしていた。







 ある日、その男の子が道を歩いてるのを見かけた。


 習い事で水泳教室に行く途中だったから、声はかけないつもりだったけど。


 その男の子が目の前で、手で持っていた小さな袋を、ポイっと捨ててしまった。


 近くにはゴミ捨て場があった。


 たぶん、そこがゴミを入れた袋を置いておく所だったからだろう。


 捨ててもいいって思ったんだ。


 でも、そうだとしても収集日じゃないし、ゴミ袋に入れてないものを捨てるのはおかしい。


 だから私は、「そういう事よくないよ」と注意したんだけど、聞く耳を持ってもらえなかった。


「俺の物を俺がどうしようと勝手だろ」って。


 頭に来ちゃって、そのまま口喧嘩。


 言い合いしてるうちに水泳教室に遅刻してしまった。


 おかげで先生にも親にも怒られちゃったよ。


 最悪。


 あんな奴、無視しとけば良かった。


 でもちょっと気になることがあるんだよね。


 あのゴミ捨て場から視線のようなものを感じたんだ。


 あれは一体、なんだったんだろう。







 そんな最悪な奴の様子がおかしくなったのは、数日後だ。


 クラスメイト達に詰め寄られて怒られている。


「不良品を渡すなんてひどい」とか「使っている間に壊れた」とか、そんな言葉が聞こえる。


 お金持ちの男の子は、「そんなはずがない」って反論してるけど、聞いてもらえてないみたい。


 被害者の数が多すぎたからかな。


 大勢に詰め寄られた後、ちょっとしょんぼりしていて可哀想だなって思ってしまった。


 自業自得だとは思うけど、あの様子だと本当に何も知らないみたいだし。


 だから、「元気出しなよ」って肩を叩いたんだけど。


「うるさい」ってはねのけられちゃった。


 せっかく声をかけてあげたのに。


 私達、根本的に相性が合わない気がするな。






 翌日、それでも私に悪いと思ったのか、「うちの遊びにこいよ」って遊びに誘ってきた。


 あいつはすっかり元気を取り戻した様子だったけど、落ち込んでた時のことが頭に浮かんんで来て、つい「分かった」ってうなずいてしまった。


 他の子にも声をかけてるみたいだから、罪滅ぼし的なのもかねてなのかも。


 それで初めて、お金持ちの子の家というやつにお邪魔した。


 その家はすごく大きな家だし、キラキラした飾りがたくさんついていた。


 ひと目でお金がかかってることが、よく分かる家だった。


 お金持ちの男の子は、招待した皆にすごく美味しいオヤツを振る舞った。


 きれいなお皿に盛り付けられてやってきたのは、テレビの中でしか見たことのない高級なお店のお菓子だ。


 美味しいは美味しい。


 けど、何だか手放しでは喜べない。


 それは部屋の隅にあるゴミ箱が原因かも。


 その子の部屋の中にあるゴミ箱のたくさんの物が捨てられていたから。


 まだ使えるものだってあるのに、もったいないな。


 そう思っていたらごみ箱から、何かが出てくるように見えた。


 でも、目をこすってあらためて見たら、錯覚だと分かった。


 ごみ箱からはみ出した黒い服を間違えたんだきっと。


 それから、皆で一時間くらい新しいゲームで遊んでから帰った。


 帰りには、お土産として美味しいお菓子の袋をもらったけど、なんだか喜べないな。


 だって、友達ってこういうもんじゃないでしょ?


 開ける気にはなれなかったから、家に帰ってそのまま机の上にほうっておいた。







 翌日、学校に行くと、皆が怒っていた。


 昨日のお土産が腐っていたとか、何とか。


 文句を言っている子たちは、「あいつ無視してやろうぜ」とか、「いたずらしてやろう」とかも言っていた。


 やっぱり少し可哀想になってきたな。


 方法は間違ってるけど、多分あいつは皆と仲良くしたかっただけなんだと思うし。


 そう思っていた私は、なぜかクラスのごみ箱が気になっていた。


 また視線を感じる。


 というよりごみ箱の中から何かの気配を感じるのだ。


 そんなはずないのに。


 そのうち先生がやってきて、今日の授業が始まった。


 けれど朝の事があったから、全然集中できなかったな。


 帰り際に、ゴミ箱をあらためて見つめてみると。


 何かがはい出た後があった。


 黒いものがずるずるとはいずった跡がある。


 その代わり、つい数分前に見た時はなかった、男の子の人形が捨てられていた。


 私は首をかしげながらも、家に帰ることにした。


 教室を後にするとき、ごみ箱の方から人の声がしたような気がしたけど、気のせいだろう。





 数日後、あのお金持ちの男の子は学校にやってきたけど、なぜかそれまでとは別人のような性格になっていた。




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ゴミ箱から見ている何か 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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