第3話
いじめ倒した義弟に質問の返答を嫌だと拒否されるのは、なんだかちょっと癪に触る。
今日帰ったら、また新しい嫌がらせをしよう。だって彼は、わたくしにいじめられるのが好きな変わった子だもの。
「ライアン、誠か?」
「えぇ、先程求婚を受け入れてもらいましたので」
飄々としたライアンに、王太子殿下は無言の悲鳴をあげる。なんというか、今日の王太子殿下はとっても変だ。
「………お前たちは姉弟だろう?」
「えぇ、
「んぐっ、」
王太子殿下は何が言いたいのだろうか。わたくしには分からないが、ライアンには分かるようだ。なんだか不服で仕方がない。わたくしはやっぱり不出来なのだろうか。
「クラウディアさまっ!!」
視界にミルクティーブロンドの髪が映り込み、下から見上げてくる淡いエメラルド色の瞳がきらりと輝いた。
「あら?まあっ!ティアラローズさまっ!お久しぶりね、お元気そうで何よりだわ」
「はいっ!クラウディアさまもお元気なようで何よりです」
隣国の王女さまにして、この国の王太子殿下の従姉妹君であらせられるティアラローズさまはなんというか、犬のようなお方であり、たった3度しか会ったことのないわたくしのことを心底尊敬してくれている。
敬語を使うことを禁止され、わたくしがティアラローズさまよりも上のように振る舞えという命令には多少困っているが、それ以外にはこれといった害悪はない。というか、可愛いからわたくしはこの子を叱れないのが問題なくらいだ。
「えぇ、そうね。わたくしは元気よ」
「………本当ですか?」
妙に鋭いティアラローズさまは、訝しげに尋ねてくる。
「そうね………、頭痛の種たる義弟、」
「ごほんっ、婚約者だ」
「はあー、頭痛の種たる婚約者と、さっきから意味の分からないことを繰り広げている王太子殿下のお心を読もうとしていること以外は本当に至って元気よ」
「そうですかー。じゃあ、こいつら簀巻きにしますか?」
………ティアラローズさまがとーっても愛らしいお顔と仕草で物騒なことをおっしゃるのも、わたくしの悩みの種の1つかもしれない。わたくしは頭痛がする額を抑えた後で、とびっきりの微笑みを浮かべた。
「ティアラさまぁ?簀巻きってなんなの?わたくし、ちーっとも分からないわぁ」
必死、ティアラローズがメロメロになる笑み。
なんというか、わたくしの心が虚しく感じるのは気のせいだろう。ぶりっ子なんてこの世から消えればいいと、他ならぬわたくしが常々思っているのに。
「うっきゃー!!超完璧最強最高
えぇ、ちゃんと通用したようね。知らない単語が飛びまくっているし、物騒な単語も引き続き飛びまくっているけれど、なんとか王太子殿下に
あぁ、わたくしの学園生活はずっとこんな感じなのかしら。わたくしの所属しているSクラスのクラスメイトは、皆高位貴族と自国含む王族に皇族………、わたくしは素っ頓狂なティアラさまのお守りを王妃さまから任されている立場だから、彼女の暴挙は決して見逃せない。
うぅー、ひどい頭痛がするわ。
まぁでも、ひとまず第1関門たる今この瞬間を切り抜けるのが最優先事項ね。こんな簡単なことすらできなければ、わたくしはこの国の忠臣たるローズバード公爵家の令嬢を名乗れないもの。
頑張るのよ、わたくし。ティアラさまの暴挙というか、奇行を穏便に止めて見せるのっ!!
「それにしてもティアラローズさま、『簀巻き』ってなんですの?」
「う~ん、………簀巻きっていうのはー」
「あぁ!ごめんなさい、ティアラローズさま!!わたくしはなんということをっ!!隣国の王女さまのお手を煩わせるなんてわたくしいけない子だわ!!ティアラローズさま、簀巻きは自分で調べておくから、今は一緒にお話を楽しみましょう!!」
『演技派令嬢』を名乗れそうなくらいな名演技をしたわたくしは、ティアラローズさまの手を引いてくるりとダンスのターンをして見せた。ティアラローズさまの足をすくって腰を支えれば、バランスを崩したことで下になったティアラさまがぱちぱちとわたくしの顔を見て瞬きをしている。
「あぁ!!く、くくくっ、クラウディアさまの1輪の大きな薔薇のように綺麗でお美しく、神の如く神々しいお顔が目の前にっ!!」
………ティアラローズさまはやっぱり変だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます