第2話
「今年度から新入生代表挨拶を行う者は、王族や高位貴族、性別という垣根を一切考慮しないことになりました。そして、今年度の入試結果の最も良かった生徒がクラウディアさまだったのです」
「馬鹿なことを。うちの後継者たるライアンよりも、わたくしの方が成績が良かったと申しますの?」
わたくしはムカっとしてくちびるを尖らせて先生に文句を言った。ライアンは自分で言ってムカつくが、自分よりも頭が圧倒的に良いのだ。それに、わたくしはお世辞にも魔術、剣術がライアンよりも優れているとは言えない。何故自分が最優秀生徒であるのか納得できないのだ。
「………ライアンさまとクラウディアさまの成績は、全教科満点という異常なものでした。つまり、お2方とも上限を突破してしまっているのです」
ざわりとした驚きが室内に広がっていくが、わたくしには関係ない。わたくしは目立つこととりわけ面倒くさい分類のことを嫌うのだ。わたくしも確かに主席入学は嬉しい。努力が認められることは何よりも尊いことだ。けれど、同じ点ならばライアンが挨拶をしたって良いはずだ。わたくしは先生に反抗的な視線を向ける。
「なら、」
「ですから、クラウディアさまに新入生代表挨拶をお願いするのです。先程申し上げました通り、この学園は今年度から男女平等を謳うのですから」
「………だから、今まで挨拶の資格がないに等しかった
つんと見下すような視線に傲慢な態度をとっても、先生は文句をいうどころか顔色すらも変えない。わたくしが公爵家の人間と知っていてこの態度をとれるからこそ、彼はこの学園の教師ができているのだということをわたくしは納得してしまった。
「はい」
「はあー、承知したわ。突っかかって悪かったわね」
「いえ、ご納得いただけたようで何よりです。他の生徒の方々からのご質問も受け付けようと思います。質問のある生徒は手をあげなさい」
「では、式典の会場へと移ってもらいます。教師の指示に従い、入場してください」
何やら隣からライアンの心底嬉しそうな気配がする。わたくしはどこで間違ったのだろうか。前途多難な予感しかしない学園生活の初めに、わたくしは彼にエスコートされながら深々とため息を吐くのだった。
▫︎◇▫︎
「クラウディア、流石だったね」
挨拶を終えて教室に入った途端、金髪碧眼の美少年が手をぱちぱちと叩きながら話しかけてきた。わたくしは嫌味を思いっきり吐き出したいのを我慢して、淡く微笑みを浮かべて口を開いた。が、出てきたのは嫌味だった。
「王太子殿下、………随分と嫌味ったらしい口調ですわね?わたくしに文句があるのですか?」
「………相変わらずの君の辛辣さに、僕の心は折れそうなのだが」
がっくりと肩を落とした王太子殿下は、わたくしに向けてぷくぅーっと膨れた頬を向ける。いや、全く可愛くないのだけれど。
「そうですか。早いうちにポッキリ折っておくことをおすすめいたしますわ。わたくしのお口が素直になることは一生ございませんので」
「そんな………。夫に冷たい嫁は良くないぞ」
うざったい王太子殿下がパチンとウインクをすると、隣からブリザードが吹き荒れた。寒い。普通に寒いわ。ライアンに物申したいけれど、魔力を乱すなんて珍しいことをしているライアンが何故怒っているのか、というか不機嫌なのかわたくしには皆目分からない。
「ディアは俺の嫁ですので、王太子殿下に冷たくても問題はないかと。それに、俺はツンツンなディアも愛しておりますので」
「「なっ、」」
「ら、ライアン!!何を言っているの!!わたくしとあなたは婚約者であって、
わたくしの顔は情けないくらいに真っ赤になってしまっていることだろう。だが、真顔で、しかもぎゅっと抱きしめられながら『自分の嫁』や『愛してる』と宣言されて、顔を赤くせずに立っていられる女子がいるだろうか。否、いないだろう。『うふふっ、やーね。ダーリン♪恥ずかしーわ!!愛してるなんてっ』なんて恥ずかしいことを簡単に言って笑えるのは、晩年夫婦くらいのものだ。いや、晩年夫婦でも言えないかもしれない。そういうのはロマンス小説の溺愛夫婦のお話の中で稀に見られるくらいだろう。
「え………、こん、やく………?」
「?」
呆然としている王太子殿下に、わたくしはこてんと首を傾げる。何故王太子殿下は顔を真っ青にしているのだろうか。
「王太子殿下はどうなさったのかしら?ライアン」
「………俺は言わない」
「むう、」
ちょっとだけ拗ねて見せるが、ライアンはそっぽを向いている。
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