2章
第1話
▫︎◇▫︎
花々が飾られた真っ白な美しい机の前に立ち、にこりと微笑んだ薔薇のように鮮やかな真紅の髪に、燃え盛るような少しだけ淡いルビーの瞳を持った13歳の少女、クラウディア・ローズバードこと、義弟に告白されたばかりのわたくしは、ぷっくりとした薔薇色のくちびるから小鳥のように愛らしい声で滑らかな言葉を紡ぎ始めた。
「美しく麗しい花々が咲き誇り、春のうららかな陽気となる中、わたくしたちは今日、この王立貴族学院の門を義弟と共にくぐりました。真新しい制服を身にまとい、これからの学校生活への期待や希望に胸を膨らませております。本日は、わたくしたち新入生の為にこのような心踊る式を挙げて頂き誠にありがとうございます。
これからの3年間王立貴族学院で過ごす日々の中で勉学はもちろん、魔法、剣術、社交、生徒会活動においても積極的に取り組み、王立貴族学院と誇り高き我が祖国に貢献できるよう努め、新たな経験を通し多くの事を得たいと思っております。
また、新たな経験をしていくにあたり、壁にぶつかり、前への進み方がわからず立ち止まってしまうことがあるかと存じます。そんな時は諦めるのではなく、仲間と手を取り合い、時には先生方、先輩方、そして誇り高き国を支える貴族の皆様の力を借りながらも、少しずつ前に進めるよう努力していきます。
わたくしたち新入生一同は、王立貴族学院の生徒としての自覚、誇りを持ち、家族や先生方、そして今日まで王立貴族学院の輝かしい歴史と洗練された伝統を築き、守ってこられた先輩方に恥じることのないよう、一つ一つの行動に責任を持ち、自立した学園生活を送れるよう心がけていきたいと存じます。
この3年間をなんとなく過ごし、無駄な3年間にしないために、わたくしたちは今まで学んできたことを活かし、それぞれの目標や夢をつかむために、また、まだ目標が見つからない人は自分の目標を見つけるために、日々精進して参ります。どうぞよろしくお願い存じ上げますわ。
本日は誠にありがとうございました。
新入生代表、筆頭公爵家が娘、クラウディア・ローズバード」
あぁ、わたくしは何をしているのかしら?
何故、入学試験の結果という面倒くさいことで新入生代表挨拶をしなければならなくなってしまったのだろうか。わたくしは義弟に告白され、未だにこんがらがっているのに。
挨拶を終えたわたくしは、そっと溜め息をこぼした。
▫︎◇▫︎
時は少し前、新入生代表挨拶を行う生徒が発表される少し前の時間に遡る。この王立貴族学院では、新入代表生挨拶を入学式直前に発表するという面倒くさい伝統を持っている。わたくしが考えるに、この伝統はその場その場で適切な判断を即座に取れるかというのを確かめる試験のようなものなのではないかと思っている。
「ねえ、ライアン。何故わたくしはあなたに手をぎゅうっと握られているのかしら?わたくし、子どもではないのだけれど」
「………やっと、やっと手に入れたんだ。俺が大事な大事なディアの手を離すわけないだろう?」
発表を待つためにライアンの隣に座ったわたくしの背中に、ゾッとした悪寒が走った。なんというか、ライアンの笑みが暗くて怖いのだ。わたくし、何か見落としていたのかしら?
「あんの、クソ王子。俺のディアの手に挨拶と言えどもキスを落とすなんて!!」
そう、彼はわたくしが、先程までわたくしの婚約者候補の筆頭だった第1王子に挨拶として手の甲にキスを受けてから物凄くご機嫌が斜めなのだ。無表情というポーカーフェイスは健在なのに、なまじ一緒にいる時間が長くて表情が読めてしまうために、彼の異常なまでの不機嫌さにゾッとしてしまう。
わたくし、婚約を受けてから数時間も経っていないのに、彼との婚約という大きな判断を間違ったとしか思えないの。
「それでは、新入生代表挨拶の代表者を発表いたします。代表者はーーーー、」
「どうせ第1王子殿下なのだから、発表するまでもないでしょうに」
「そうだね、ディア」
綺麗な顔の婚約者は甘く微笑んだ。なんというか、わたくしの学園生活が前途多難なものになるものな予感しかない。
「ーーークラウディア・ローズバード公爵令嬢!!」
「は?」「え?」
ほら、わたくしの勘がまた当たった。
というか、何故にわたくしなの?
王子殿下がいる場合は必ず王子殿下がご挨拶をすることになっているし(暗黙の了解)、わたくしの入学試験の点がライアンよりも良いことなんて絶対に有り得ないもの。
「クラウディアさま、前に」
「………1つ、よろしいかしら?」
「はい、なんなりと」
「じゃあ、遠慮なく聞かせていただくわ。
何故、新入生代表挨拶がわたくしなの?理由をお聞かせ願えるかしら?」
わたくしは先生に向かって妖艶な笑みを浮かべた。
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