第14話
「これもダメ、あれもダメ、もっと品のあるものを持ってきて。あと、このデザインは気に入ったわ。薔薇の刺繍が多いようにしてあとは、あれとこれと、………」
わたくしは震え上がってしまっているお義母さまとライアンを無視して、仕立て屋にどんどん指示を出していく。
お義母さまはガリガリに痩せてしまっているけれど、ライアン同様に元はとても良い。だから、その身体のラインを隠すようなふりふりぶりぶりのデザインではなく、細さを生かすようなデザインで少しだけ大きめに作っておくべきなのだ。
ライアンは、………なんでも似合ってしまうのが問題ね。この際もう面倒くさくなってきて、女装をさせても良いのではないかと思ってきている。そう、やけくそだ。彼はわたくしには似合わないきつい色彩も着こなすことができる。深い紫、深い緑、鮮やかな緑に黄色、なんなら濃いめのピンクも似合ってしまうだろう。羨ましいことこの上ない。
「にしても、お坊っちゃまは迷いものですね。髪や瞳の色彩的に何を着ても可も不可もございません」
「そうね。………………もうどうせなら女装でもさせてみようかしら。わたくしに似合わないようなピンクのぶりぶりとか」
「確かその系統もお持ちしておりますよ。サイズも大丈夫そうですから、着せてみますか?」
「そうね。着せてみましょうか」
わたくしは今思いついた第7の作戦、『ふりふり女の子大作戦!!』を実施することにした。だって男の子が女の子の格好をさせられてそれが似合うって褒められるのって結構屈辱的でしょう?
「ライアン、これを着てみてください」
「!? はい!?」
「いいから、早く!!」
わたくし、ちっとも楽しんではおりませんのよ?
わたくしでも着られないような真っピンクのプリンセスラインの可愛いドレスを着せて、きゃははうふふ、って楽しもうとは決して思っておりませんわよ?だって絶対に似合うもの。似合うものを着せるのが今回のわたくしのお仕事。決して逸脱はしていないわ。
「あ、あと、男の子物で少し華美めなものはある?ライアンは顔が良いから、煌びやかなものを着ても服に着られないと思うのよ」
「そうですね~、これなんていかがでしょう?」
「う~ん、ここら辺にもうちょっと装飾を足せないかしら?あと、元々の布は静かめで、裏地が派手なものがいいわ。派手なのも品がいいギリギリのラインを攻めた感じ」
「じゃあ、これなんて、ーーー………………」
「あら、いいわね」
仕立て屋と話していると、ライアンがもじもじしながらやってきた。
「あら、可愛いですわね」
「………もう性別変更にしちゃいます?」
わたくしはライアンの元にてくてくと歩いて行き、ソファーまで彼をエスコートした。
「えっと、あの義姉上?」
「髪を結うから動かないでくださいまし」
「え、えぇ?」
そう、ライアンの髪は肩上で切り揃えられたサラッサラストレートなのだ。本当に朝から毎度ボンバーなわたくしからしたら、羨ましいことこの上ない髪質だ。
わたくしはサラッサラな髪をスルスルと編み込み、手近にあったドレスと同じ生地のりぼんで縛った。うん、可愛い。というか、クールヴューティーだ。
「わたくしより似合いっていかがなものね」
「えっと、その、ごめんなさい?」
「謝られるともっと惨めかしら。今日1日は楽しくそれで過ごすことね」
「え、えぇー………」
ライアンは無表情のまま困り果てたような表情を作った。
「今日1日で女性のドレスの大変さを身に染みて学ぶといいですわ」
第8の作戦、『妙ににあったドレス姿で周りに笑われろ大作戦!!』と、第9の作戦、『重たいドレスに耐えて見せろ大作戦!!』を決行させることにしたわたくしは、意地の悪い微笑みを浮かべた。男どもは血が滲むような世の女性の美しさの秘訣を、身をもって学ぶべきね!!
「お義母さま、お義母さまはこの20着を仕立てますわ。そのドレスも今のウエストよりも5センチ大きく作ってありますから、その貧相な身体つきから2週間以内におさらばくださいまし。さもなくば、コッテリご飯地獄に致しますわよ」
「が、頑張るわ」
「5センチくらい増えなければ、健康を害してしまいますから、太ることには我慢くださいましね」
わたくしはお義母さまから目線を外し、仕立て屋の散らかしたもののお片付けをしながら言った。お義母さまには体調を崩されると面倒臭いのだ。またわたくしの怪談話が増えてしまう。あ、不名誉なお名前もだったわね。
「ともかく、ライアンもさっさと身長を伸ばしなさい!男の子なのに、年齢不相応に小さいわたくしより小さくてはいけませんわよ!?」
わたくしはライアンに微笑みかけると、仕立て屋にライアンとお義母さまのお洋服を最優先で仕立てるように耳打ちした。お金を少し弾む必要が出てくるが、仕方があるまい。それもこれも、2人のお洋服を事前に用意しなかったダメな父親のせいだ。他人に優しく、身内に厳しい、ね。
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