第13話
「き、気に入ってくださって何よりです。め、メスも用意しましょうか?」
「お願いします!!」
わたくしはきらきらとカブトムシを眺めている義弟ライアンを眺めたあと、席を立った。
「わたくしはこれにて失礼いたしますわ。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
「行くわよメアリー」
わたくしはライアンの部屋を脱出し、図書館に向かって歩き始めた。色々な怪我の手当をするために学習しようかと思ったのだ。
「お嬢さまは何かしていないと死んでしまうのですか?」
「ワーカーホリックには言われたくない言葉ね。あなたこそわたくしのことを気にしていないと死んでしまうの?」
「死んでしまいますわ。だから、勝手にいなくならないでくださいね」
「………さあね。メアリー、勝手に死んだら許さないわよ」
わたくしはライアンとお義母さまが来るまでいつもずっと図書館にこもっていた。だから、これはいつものことだ。だが、周りの人間はわたくしのことをびっくりした目で見ている。
「えっとお嬢さま、『鼻血の止血方法』が載っている本、ですか?」
司書が異常なまでにびっくりしたような表情をした。昨日の『ライアン鼻血大事件』は結構広がっているらしいから、ライアンのことを気を遣って学ぼうとしていると勘違いされているらしい。
ライアンを気遣うとか絶対に違うんだからねっ!?
「えぇ、そうよ。何かいいものある?」
けれど、わたくしは一切それを表には出さない。
だって変に訂正すると後々面倒臭くなるもの。
「これなんていかがでしょうか」
「えぇ、それで結構よ。感謝するわ。他にもいいものがあったら、いつもの席で読んでいるから本を持ってきてちょうだい。新作もね」
わたくしはパチンとウインクして、いつもの窓際の席に向かった。庭園の花が見える特等席だ。
「………………幸せ」
「私は見える範囲にいますから、何かあればお呼びください」
「そうするわ。………わたくし、変?」
「弟君を理解しようとするのはいいことかと思います」
「そう………」
わたくしはその後、無言で本を開いた。鼻血なんて経験したことがなかったから、本当に知らないことばかりだ。怪我の手当てなどを、勉強するのは初めてだから楽しくもある。
「お嬢さま、これも………」
「えぇ、ありがとう」
司書が5冊の本を手に持っていた。見たことのない本だ。本当に、お勉強は楽しい。知らないことを知ることは楽しい。
▫︎◇▫︎
4日目、今日は仕立て屋が来る日だ。今日も早朝からお散歩に行き、お義母さまとライアンにたくさんご飯を食べさせ、お義母さまのお部屋にたくさん食べこぼしをした。そして………
「義姉上、今日はお洋服を仕立てるのですよね?」
「え、えぇ、そうですわ。それが何ですか?」
「いえ、何も」
妙にライアンに懐かれた。
おそらくは昨日の虫が原因だろう。無表情なのに、猫のご機嫌に揺れる尻尾が見える気がする。
「ヘラクレスオオカブトムシのメスはいつ手に入りそうなのですか?」
「………あ、明日には届くそうです。メスは比較的手に入りやすいそうで………」
わたくしはきらきらした無表情から繰り出される目線から、すっと視線を逸らした。わたくしは彼をいじめていじめていじめ倒さなければならない。なのに、好かれてしまっている。わたくしは色々なところで道を間違ってしまったらしい。
「昼ごはん前、10時に到着します。脱ぎ着しやすいお洋服で応接室に行くように」
そう言って自室に向かったわたくしは、メアリーにぽすっと抱きついた。
「間違った」
「そうですね。お嬢さまはいじめをすることに適しておりません」
「………知っているわ。でも、やらなくてはいけない。今日も頑張るわ」
わたくしは9時30分に応接室に向かって歩き始めた。
身軽な真っ白のワンピースはいつも採寸の際に使用している素材のみのいい服だ。軽くて気軽。いつも着ていたいくらいのものだ。
コンコンコン!
返事はない。当たり前だ。だってまだ誰もいないはずのお部屋だから。だからこそ、幸せだ。今ならメアリーもいない空間で1人になれる。
コンコンコン!
「………どうぞ」
「え?」
ライアンの声に、わたくしはくすりと笑った。彼も早め早めの行動を心がける類の人間なのだろう。
「早いですわね、ライアン」
「………義姉上こそお早いようで」
「1人になりたくてね」
だが、間もなくお義母さまと仕立て屋がやってきた。
10時にはまだまだ早い。
「えっと、お嬢さま?」
「わたくしの継母と義弟ですわ。この2人の分も仕立ててくださいまし」
「承知いたしました」
さあて、第6の作戦『お洋服をたくさん仕立てさせよう大作戦!!』を決行すると行きますか!!
散々馬鹿にされながら仕立ててもらうのは気に触るでしょうからね。
作戦は残り僅か、出来るだけ早く完遂しなくては。
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