第15話 悪戦苦闘という経験

 薄明りの中、紗莉は翔太を少しだけ引っ張り、棍棒を回避させる。

 振り切って動きが止まったすきに、パンチを撃つが力がなく少し押したのみ。


「ほう。今の狙いは良い。惜しむらくは、力が圧倒的に足りぬな」

 綾織は冷静に、指示を出す。

「妹。紬だったな。お前は何をしに来たんじゃ。兄の1割でもいい根性見せろ。あ奴は一人でここを抜けたぞ」


 そう言われて、紬は頭ではわかっている。

 だが、体が言うことを聞いてくれない。

 今小鬼と紗莉は、なぜか棍棒を使って綱引きをしている。


 復活をしたのか、翔太が起き上がり小鬼の後頭部を思いっきり殴る。

 翔太の右手に、いやな感触を残してその攻撃だけで小鬼は消えて行った。


「見たじゃろう。いま小鬼は、意識が棍棒側。つまりそこな娘との引っ張り合いに意識が向いておった。そのため、意識の外からの攻撃に無警戒だった。じゃから、へなちょこなパンチでも倒せた。その要領だ、何をしてもいい。最初はひたすら倒せ。さすれば、力が手に入る。こざかしい技は、その後覚えればいい」


 そう言うと奥へと行きはじめる。


 翔太も棍棒を拾い、追いかけていく。

 紗莉も追いかけ始めるが、紬が来ないことに気が付き引き返す。

「紬ちゃん行こう。お兄さんがダメというのを押し切ってきたんだから、根性見せなきゃ」

 そう言って、こぶしを握る。


「う、うん。実際目の前で見たら、足が言うことを聞いてくれなかったの」

「そんなの一緒だよ。紬ちゃんより、小さい私が頑張っているんだから、根性見せてね」

 紗莉はあの一言を、意外と根に持っていたようだ。

「ごめんなさい」

 そう言って、紗莉に手を引かれて、歩きはじめる。




「あー、幽霊もどきがゾンビもどきになって来た。弱いんだが、くせえ」

 途中から出てくる奴らが、光った白い奴から、肉あり肉なしの遺体が歩いてき始めた。

 胸元に魔石みたいな石があり、そこを攻撃すればいいようだ。

 倒せば消える。


 これって、きっとこれから現実社会でも出てくるんだよな、日本は火葬だから骨も残っていなさそうだが、海外はやばそうだ。

 そう、和也が予想した通り、日本では土葬はほんのわずかで、なおかつ2m以上の深所に埋められているためか少なく、人知れず行き倒れたり事件の被害者や自殺者。公的なものだと医学部用の検体だが、検体は固定液により変性をしたのか動き出すことは無かった。


 だが、海外は色々と大変だったようだ。カタコンベに代表される地下の墓所遺跡から、大量に俗に言うスケルトンが湧きだし、キリスト教徒の多い所は埋葬方法として土葬が多く、生ゾンビが徘徊し始めた。

 これはもう少し先の話。


 和也はなるべく無駄な力を使わず、効率的な攻撃と触られたくない一心で魔力シールドを創る。なおかつ、ゲームの知識により聖なる光を完成させる。

 と言ってもケガを治す光は、発動できていたので強化しただけだが。

 そのあと面白がって、光で翼を作りそこから聖なる光を撃ちだす、自称ホーリーレイを創った。それも、小さな羽を大量に撃ちだすブラスタータイプと、収束させてビームとして撃ち出すもの。

 完全に自己満足で、なおかつ大量に気と言われるものを消耗する。


「やべえ。遊びすぎた」

 そんなことを言いながら、手抜きをしようと、反射?シールドを創った。

 殴ってくれば、その力が相手に戻る。つまり跳ね返す。

 だが、こっちから押しても、ぶつかった力は相手に向かう。

 つまり、力のベクトルが必ずシールドの正面へと向かうもの。思い付きで創ったがめちゃくちゃ強力。


 ただ構えて進むだけでいい。


 頭の中でいろいろ案を考えながら進んでいて、ちょっと気が抜けていたようだ。

 背後に湧いた黒い煙に反応をするのが遅れた、背後から黒い口がやって来た。

 かわしてシールドで叩く。

 だがわずかに、遅かった。


 弾け返るときに右手をかすめた。

 その時、ごっそりと何かを喰われた。

 一瞬で疲労感が襲い、力が抜ける。

「これが、食われると言っていた奴か」


「あー、ポーションか回復の泉が欲しい」

 思い出される、青い泉の温泉。

 そうして、「あ゛あ゛ぁ。本気でだるーい」自分がゾンビのような声を出しながら、和也は奥へと進んでいく。




 最初に、棍棒を手に入れた翔太が先頭になり、3身一体の攻撃を模索していた。

「攻撃してかわされたら、次出てね。俺は後ろから攻撃できるか、やってみる」

 そうして案とも言えない作戦を練り、次のやつを迎えると、和也の時と同じように2匹がやって来始めた。


「げっ2匹来た。まあいい行くよ」

 棍棒を振りかぶり、大降りに頭を狙い降りぬく。

 当然かわされて、棍棒が襲ってくる。

 すると反射的に、棍棒を離して手で頭をかばう翔太。

 翔太が殴られる寸前、紗莉のこん棒が、小鬼の鼻の上にヒットする。

 紗莉の両手にグシャっという感触を残して、小鬼は消えていく。

「やった。うん」

 まだ1匹いるのを忘れて、ガッツポーズをする紗莉。

「紗莉ちゃん危ない」

 そう言って、紬が振りぬいたこん棒は、小鬼の顎とのどを潰してしまう。

 しばらく苦しそうだったが、消えて行った。


「ほれ、遊んでおらんと次に行け」

 無慈悲な綾織の声が響き、追い立てられる。


 それからも、なんとか倒しながら進んでいく。

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