第2章 新たな社会の始まり

第9話 鬼が出るなら9月

 紗莉が人を呼んできた時には、俺は小鬼を集め終わり、農道の脇に積んでおいた。

 燃えたやつを除き、54匹。


 絶対、大騒ぎになる予感しかしない。

 手加減はしたつもりだが、最初殴った奴なんか、頭が爆散したし首が無いんだよ。

 今晩当たり首を求めて、『首を返せ』などとやって来るんじゃないか?


 集まった人たち。

 最初は、積んであるおかしな物に怪訝そうだったが、物が何かわかるとざわめきと、警官に来てくれコールがされた。


 ひょっとして、動物愛護とかそんな方面で俺逮捕をされるのか? かなり挙動不審になりながら、みんなに囲まれている。


 やってきた警官たち。

 山に積まれた小鬼たちを呆然と見ている。

「君が退治したの?」

 そう聞かれて、黙って頷く。


「君、高校生? 狩猟免許とか持っていないよね?」

「持っていません」

「対峙した場所は?」

「この川です。襲われそうになって」

 そう言って、背後の川を指さす。

「一応、閉所か」

 それを聞いて、警官はぶつぶつ言いながら悩んでいる。


「罠や銃は使っていないよね」

 そんな、とんでもないことを聞いて来る。

「殴ったら死にました」

「うーん。ねずみとかなら問題ないんだけどね。害獣でも期間とか方法が決められていてね」

「じゃあ、襲われた場合は死ねと」

 ちょっと、むっとして聞いてみる。


「その場合、速やかに安全な所へ避難してもらって、警察や役場へ連絡をしてくれればいい。もしくは、害獣駆除をやっているところへ電話して、私費になるが依頼を出してくれ」

 真面目な顔をして、警官が言ってくる。


「じゃあ今度から、すぐに逃げますので。カルネアデスの板よろしく、巻き添えになる人は見捨てるようにします」

 ムッとしながら、そう答える。


 そう言うと、困ったような顔をしながら、

「いや、そういう訳じゃないんだけどね」

 そんなやり取りをした後、一応今回は、厳重注意ということで放免された。


 そんな事があった後。

 俺は、集落の一部でだが、笑いながら生き物を殺すやばい奴という事になったようだ。

 まあ世の中、そんな話はすぐに言っていられなくなった。


 新学期が始まり、おれと紗莉はハブにされたままだが、妙な噂を背負ったせいで手出しも怖くてできない様だ。非常に気楽な、学校生活を送っている。



 WEBを見ていたが、まだ小鬼程度では法律もなかなか改正されず、世の中では車両保険が一気に値上がりした。

 軽自動車やセダンは敬遠されて、腰高の4駆以外が売れなくなっていく。

 ほとんど死滅していたカンガルーバーが、いきなり爆売れでトレンドに入っていた。


 そんな9月の中頃。

 出てくる中に、中級鬼さんがこん棒付きで混ざり始めた。

 そんな中。

 すぐに銃を使えない猟友会がパンクした。

 罠。散弾銃が効かず、ライフルかショットガンで何とか対応できる。

 だが当然、今発生の中心となっている街中では使えない。

 そんな危険な奴らが、昼となく夜となく街を徘徊する。


 イノシシや、サルの被害時には、山に住むのが悪いなどというコメントが飛び交った。

 だが、今回の被害の中心は都会。

 理由は不明だが、奴らは穴があれば這い出して来る。

 つまり、人工的な穴が多い所。

 必然的に、都会が被害の中心となる。

 すぐに対策として、穴の出口には鉄格子が設置されたが、意外と彼らの圧力は強く、応急的な軽微な改造では役に立たなかった。


 だがそんな中、一部の動画配信者から報告が上がって来た。

 面白いことに、奴らが出てくる穴を反対側から見ていると、ある点から突然奴らが湧いていると、動画サイトにさらされた。


 その湧いているところ、つまり境界と呼ばれる所に衝撃を与えると、それが壊れて湧きが止まるというのが流れた。

 つまり先に湧きを止めてから、溢れた奴を退治すれば、速やかに対応ができる。

 その情報は、画期的対処法として一気に拡散された。



 だがその頃すでに、警察や役所は電話が通じず、人々は家から出れば襲われる世界。

 俺と同じように、襲われたが何とか倒した人間が、警察に鳥獣保護の絡みで逆に逮捕されたなどというニュースが流れ騒ぎになった。

 実際は、聞き取りの為に警察署へ連れて行かれただけだったが、ニュースでは『人命よりも鳥獣が大事』などという見出しが大々的に流れた。


 そんな状態が発生した…… 1週間後。


 国から大々的に、『退治できる人は怪我に気を付けて。さらに退治の時には周辺の人や器物に気を付けながら、被害を拡大しないように駆除をしてください』というアナウンスがテレビやラジオ。ネットを通じて、流され始めた。

 そんなことを突然流されても、好んで退治する人など出ない。

 さらに退治の時に、人や器物に被害が出ると、弁済義務が発生する。

 退治をせず、勝手にモンスターが暴れて被害が出ても、残念でした。で話が済む。


 そんな、突貫で作られたおかしな規則だが、これを受けて正義感? を持った、一部の動画配信者が頑張った。

 だが、本人たちの思いと違い、賞賛と苦情が半々。

 称賛は、頑張ったとかすごいと声は上がったが、苦情側は、モンスターを殺すなんてかわいそうから始まり、撮影者の心を折るには十分なコメントが書かれた。


 その後この配信者は、何本か人が襲われている所を撮影して流していたが、更新が止まってしまった。



 そんな世の中。

 知らなかったが、いつの間にか俺の呼称が快楽殺人鬼や猟奇殺人鬼と変わっていた。そんな感じで噂されて一か月。

 なぜか区長さんが、俺のうちに来てお願いをしている。


 本人は町役場の方からの依願状もあると、物を見せてくるが、

『自警団に関する通知。住民の生活を脅かす害獣駆除に関する従事者選出と登録について。居住地区にて、代表者を5人から10人を選出して登録のこと。また地区住人が100人を超える場合、1割の住民が従事する事。以下。駆除対象は、通称ゴブリン。一体3000円。通称オーガ。一体10000円とする。提出期日、9月30日』

 そんな文書。

 うちの集落100人居たか? いないよな、5人すら集まらないのか。


 君、これで大手を振ってモンスターを殺せるぞ、という顔で俺を見ているが、俺に喜んで生き物を殺しまわる趣味はないぞ。

「俺は、別に殺すのが好きで殺したわけじゃない。地域の大人で頑張ってみてくれ、か弱い高校生に頼らなくても、いい大人がたくさんいるし農業しているから力もあるだろう」

 そう言って、お帰り頂いた。



 その後、チェーンソーや藪払い用の昇鎌。

 チップソー付きの草刈機を持った集団が、家の周りをうろうろするような物騒な状況になった。

 まあ道具を持った連中は田舎だから普段でもいるが、眼つきがおかしい。

 緊張状態がずっと続くためか、かなり挙動も怪しい。


 だが彼らも、最初のうちは笑いながら、銜え煙草で談笑しながら徘徊していた。


 ところが、数人入れ替わった所から、どんどんおかしくなり、出現予想ポイントで、酒盛りしては移動をしている。

 俺が燃やした穴も、あれから1~2週に一回程度出てくる。

 見つけたら逆側から、石を投げ込み境界を壊して、出てきたやつを退治する手順のようだが、2人けがをしたときは、儲けをちょっと欲張った。

 すると、予想していなかった通称オーガ君が出てきたようだ。

 一人は、こん棒で殴られて脊椎を損傷して立てなくなった。

 一人は右腕を食いちぎられたと聞いた。


 治療費は半公務中として出たようだが、特別な手当や補助は無く、町の障害福祉担当窓口で申請手続をしてください。と言って終わったようだ。

 引き受けた以上、やめるには誰かと代わらなければだめだと言われて、探したが誰も代わってくれない。

 そのため、駆除した手当で酒盛りと結論を出したようだ。

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