第8話 平和な日々
そんなこんなで、次の日退院しようとしたが、なぜか昼食を取ってからじゃないと退院できないらしく、これぞ、入院食という趣ある昼食を頂いてから帰って来た。
帰って、じいちゃんは俺の方をじっと見ていたが、無事でよかったと一言いって家へと入った。
昼飯と違い、地元で有名な赤牛の焼き肉を庭でしていると、紗莉が歩いているのが見えた。
俺は声をかけて、庭へ引っ張り込む。
「あら、この子。最近和也と一緒に遊んでいた子ね。何年生?」
と母さんが聞く。紗莉は、
「2年生です」
とだけ、答える。
当然紗莉の見た目で、2年生と聞くと、
「3つ下なのね。かわいいわねぇ」
と無慈悲な母の言葉。
がっくりと膝をつきながら
「いえあの、高校2年生で同じ年です」
紗莉がそう答える。
それを聞いて、母さんが固まる。
「そうだ、焼肉なの。ご飯食べて行って」
そして当然のように、露骨に話を変える。
「いいんですか? ちょっと家へ連絡してきます」
そう言って、走って行こうとしたので捕まえ、紗莉に玄関先の電話がある場所を教える。
妹の紬(つむぎ)。誕生日が9月なのでまだ14歳。二人並んで座っていても、妹はどっちだと言うと紗莉の方を指さすだろう。
一応、フォローしておくか。
「紗莉は、こんな感じだけど、うなぎ捕まえるのがすごく上手でこの前も……」
「にいちゃん。とどめ刺してる」
そう言われて、見ると
「こんな感じって……」
自身の体を抱きしめ、つぶやいていた。
「あらまあ。かわいいじゃないの。ねえ」
母さんが言うが、微妙な空気が流れる。
すると、じいちゃんが話始める。
「広瀬さんというと、爺さんは営林署に勤めていたよな。まだ元気かい?」
「はい元気です」
「そうか。また釣りにでも行こうと言っていたと伝えてくれ」
「はい」
「和也や紬とも仲良くしておくれ」
そう言われて、紗莉もうれしそうな顔で答える。
「はい。こちらこそよろしくね」
そう言って俺たちの方を向く。
まあまあ、その後は和やかな雰囲気で食事は続いた。
その後から、ちょくちょく遊びに来るようになった。
まあ妹の紬が3年生で勉強を見に来たり、俺と晩飯のおかずを取りにったり。
そんな8月の末から、各地で謎の生物をはねたというニューや、遭遇して襲われたと言うことが、頻繁にTVニュースやネット上で広がって来始めた。
実際近所でも、飼い犬が殺されたりイノシシが殺されて内臓が食われていたと話題が出始めた。
そんな折、川で紗莉と手長の川エビを探していた時、遭遇した。
川の上流。岩場の所にポツンと一匹…… いや二匹、三匹…… たくさん。
わらわらと、湧いてき始めた。
どこから来ているんだ?
俺が、近づこうとすると、背中側の服を引っ張られる。
振り向くと、紗莉がしーの状態で、口の前に人差し指を立てている。
俺が振り向くと、帰ろうと下流側を指さす。
配慮は分かる。音を立てないように頑張る紗莉。
だが俺は、若かった。
「どこから出てきているのか、確認をしないと、この辺りの家も危険だ」
そう言って、歩みを上流に向ける。
あっそうか、このままいくと紗莉が危険だな。
「ちょっと我慢して」
そう言って、紗莉を抱きしめると、岩の上を跳ねながら上の道まで一直線に向かう。
周りの気配を感知して、川の方から上がってきていないことを確認する。
「誰かに知らせてきて」
そう頼んで、川へと戻る。
紗莉は思いっきり驚いていた。
さっき川で遊んでいた。その時は普通だったのに。
あの変な生き物を見てから、急に変わってしまった和也。
たしかに、あの変な生き物にも驚いたけれど、そのあと私を抱きかかえて…… そう抱きしめて、岩で向きを変えながら、10m以上、空を飛んだ。いくら私が軽いとはいえ、おかしい。
今だって、誰かに知らせてと言って、目の前でフッと消えたし……。
少し呆然としていたが、そうね。とりあえず、今は人に知らせよう。
そう言って走り出す。
遠ざかる気配を感じながら、すでに川へと降りていた和也。
広がりつつあった小鬼をつぶしながら、消えないことに驚く。
「消えないなら、川に放っておくのも嫌だな」
何処に投げよう。川の上にある、家の田んぼは今稲が生えている。
上には投げられない。
回収は面倒だが、川辺の砂場や岩の上にポイポイと小鬼を積んでいく。
乱獲しながら、上に上がっていくと、用水の分岐用。つまり取水用暗渠が口を開けている。そこからわらわらと出てきているが、普段ならのぞき込めば反対側の見える距離。農業用道路のわきに作られた直線的な水の通るトンネルだ。
とび上がって、向こう側を見る。
50mも距離の無い所。反対側には異常はない。
なんだこれは? いくらでも出てくるので、ちょっと太めの火槍でも撃ち込んでみよう。そう思って、軽くイメージをする。
すると、直径5m以上はありそうな、とんでもない様な槍? ができてしまった。
創っただけで、すでに穴の中の小鬼たちは焼け死んでしまい、草刈りされて積んであった草が燃え始めた。やべえ、水を出す。うん。10m以上の水球が目線を上げた前方に浮かぶ。まあいいか。力を抜いて、自ら水をかぶる。ろうそくの灯を消すのに風呂桶担いでくるような物だな。うん火は消えた。小鬼も流れた。
暗渠を覗くと、向こうが見えるようになっており、中に小鬼が浮いていたので、もう一度慎重に水玉を作り流す。
あの特訓時の、1割も力が必要ない。
ふと思い出す。あの最後の青い部屋で……。ああ、そうか後で飲まされた神水と、俺が大人になったマッサージによる…… なんだっけ? 経絡だったか。
あれの最適化が効いているのか。
そういえば、綾織さん力を付けたら、年を取らなくなった。だがそれだと面倒が起こるから変化(へんげ)して、年寄りの格好をしていると言っていた。年寄りの格好だと生活が楽って言っていたよな。
ひょっとして、俺も年を取らないのか?
まあそれならそれでいいか。そう納得しながら、そこら辺りに散らばっている小鬼たちを集めて回る。
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