第10話 目撃と介入

 学校からの帰り道。

 自転車に乗り、平地側だと遠いため片道6kmほどの山道を上がったり下がったりしながら帰る。

 俺の強化された筋力は、上りだろうが平気だが、自転車のペダルが根元から脱落することがある。クランクアームがアルミで、切ってあるメネジがつぶれて無くなる。ペダルのシャフトがスチールのせいだな。

 

 まあ調子に乗って、上りの坂道で紗莉の背中を押しながら、帰ったりしたせいだが。

 青春していて良いだろう。


 そんな折、向かう先からパンパンと乾いた音がする。

「おい。紗莉止まれ」

 声をかけるが、今は下り道。

 普段でも車の来ない山の中。

 風が耳をなでて行くゴーっと言う音の中で、紗莉は次のコーナーを睨みつける。

 対向車が来た場合危険なため、インベタのラインでコーナーへと突っ込んで行く。


 だが普段と違い、カーブを抜けた先で見た光景は、じいさんがくわえたばこでドリフトしながら突っ込んでくる軽トラではなく、パトカーがひっくり返されて、野良ゴブリン10数匹と野良オーガ3匹ほどが、ウッホウッホしているそんな光景だった。


 さっき声をかけても止まらなかった紗莉も、さすがに気が付いたようだ。

 急激なフロントのブレーキにより、荷重の抜けた後輪が、2度3度とバウンドとスライドをする。

 紗莉が止まり切れず、転びそうになるが、俺が外側から回り込みカバーして倒れてくる紗莉をぽすんと受け止めて支える。


「えへっ。ありがとう」

 誰に抱かれて、赤くなる紗莉。

 さてと、のんびりしたこちらと違い、あちらの様子を見る。


 警官さんたち、横倒しになった車の陰から銃を撃っているけれど、車をひっくり返されたら潰されるぞ。

 俺たちと、パトカーの距離は20m位。近いと言えば近いが遠いと言えば遠い。


 山間に小さく響いたタイヤのスキール音に気が付いたのか、警官が俺たちの方を見る。

 あーあの顔、あの時の正論野郎だ。

 どうするかな? 俺は制服を着たピッカピカの高校生。


「こっちへ来るな。逃げろ」

 俺たちに気が付いたのだろう。注意を促して来る。

 おおすごい。自分たちより、一般市民を優先するなんて。


 数えると、野良ゴブリンは16かな? 元は23匹ほどいたようだが、なん箇所かに倒れている。

 今は予備弾倉も携帯しているらしいから、あれ?あれはリボルバーだな。

 オートじゃないんだ。

 確かニュースでは、オートを支給したと言っていたけれど、田舎までは回って来ていないのか? おかげで、アメリカの銃関連産業、株価が爆上がりと言っていたんだけどな。


「ねえ、見ていて大丈夫?」

 紗莉が心配そうに聞いて来る。

「大丈夫。見捨てるのはかわいそうだから、やばそうになったら介入する」

 そう、俺たちはすでに幾度か、登下校時に襲われて殲滅している。

 そのため、俺のふざけた力は紗莉も知っている。


 そう言っている間に、野良オーガ1匹が、パンチをパトカーに食らわせたのだろう。倒れてくるパトカー。

 慌てて、警官は逃げる。

 だが逃げた先へと、ゴブリンたちが回り込んでくる。


 天井がべっこりと潰れているパトカー。

 オーガって結構力があったんだな。


 そんなところに感心していると、警官一人が捕まり噛みつかれたり、こん棒で殴られたりし始めた。

 もう一人は助けたそうだが、動き回るので撃てない様だ。警棒を取り出して殴り始めるが、ゴブリンのこん棒の方が立派だ。


「ダメだな。助けに行くから、ここにいて。背後にはいないから」

「うん。じっくり見ておくから、がんばって」

 そう言って、にこやかに見送ってくれた。


 一気に、距離を詰め。

 警官に取りついているゴブリンの頭を爆散させる。

 一手目は、やっぱり力加減がおかしい。

 ここのところ、無意識にやっている気による強化が効きすぎる。


 面倒だから、ゴブリンの首をつかんでポイポイと投げる。

 怪我をしたところに、修復をかけて、警官もおろおろしている同僚の所へ投げる。

 地面には、杉の枝が積もっていてクッションにはなるが、棘があって痛そうだ。だが少しくらいは我慢してもらおう。


 そこからは、殴る蹴ると見せかけて、隠れてこそっとモンスターを凍らせる。


 野良オーガ2匹は、頭を凍らせて、最後の1匹は胸へと肘を打ち込む。

 秘儀。ハートブレイク。

 この技、外側からは異常が無いが、内部で心臓が破壊されている。

 一瞬だけ血圧が上がるからだろう、目や鼻から出血をする。結構えぐい。

「こんなものかな?」

 周りを見るふりをして、気配を探る。


「穴はもう少し下か」

 そう大きめの声でぼやいて、自転車の所へと戻る。


 警官は、呆然としながら天井がつぶれたパトカーの脇で、意識を失っているもう一人を抱えていた。

 後処理は、何とかするだろう。



「もう少し降りたところに、湧いてくる穴があるようだ。行こう」

 そう言って、自転車で並んで降りていく。


 山の側面に砂防ダムがあり、そこの所で湧いていた。


 周りに、人間はいないな。

 自転車から降りて、近寄って行きながらゴブリンたちに雷撃を食らわしていく。


 かなり小さいが、オーガがギリギリ出てこれるくらいか? 強めの雷撃を食らわすと、やっぱり周りで火が出た。

 水をぶっかけて鎮火させる。


 出てこなくなったのを確認して、道へと戻る。

「やっぱり魔法? はすごいね」

 紗莉が、うらやましそうに言ってくるので、脅かしておく。

「良いだろう。習得は地獄だぞ」

 そう言いながら、思い出す。

 内臓をかき混ぜられて、一部がおっきしたあの日…… 恥ずかしかったが、地獄? まあ綾織に目の前で見られたし。遠い目をしてみる。

 そういえば、あの洞。

 まだあそこに、繋がるのだろうか?


 そんなことを考えながら、二人で家へと帰っていく。

 紗莉の家の方が、小渕(おぶち)という集落で近い。

 送って行った後、俺はさらに山を下って家へと帰っていく。


 

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