第6話 人間を辞めたようだ
膝蹴りの威力。そのえげつなさに自身が驚いていると、
〈さっさと行け〉
と命令が来る。
無慈悲なばあさんだ。
俺は結局、邪魔な鉄棒は持たずに歩き始める。
強化された体でも、重いものは重い。
あんなものを持って、歩き回っている鬼さんに感動するよ。
だがそのせいで、動きに斑(むら)がある。
振り回した後、必ず反対側に隙ができる。
そこを殴るなり、蹴れば相手は倒れる。
そして、2匹組3匹組と進んで行き、5匹の時には自分たちで殴り合いをしていた。
なんだこいつら? 全然連携が取れていない。
いや俺としてはありがたいけれど。
勝手にどついてくれるから、合いの手の感じでとどめを俺がさす。
それだけで、自滅してくれる。
そして、5人組の参加が終わり、見た目は同じだが、変に赤い鬼さんで角が立派。
体長は3m超えている。獲物はとうとう鉄棒を手放したのか持っていない。
不利だと悟ったのか? そう思ったら、いきなり火の玉が飛んできた。
それは卑怯だろう。
躱しながら、懐に入りアッパー気味にみぞおちへとパンチを打ち込む。
タイヤでも殴ったような弾力だが、こぶしはめり込まず鬼さんは尻餅をつく。目の前にある顔。これは殴らねば。
再び力を込めてぶん殴る。
すると、鬼さんの首は180度ほど回転してぶっ倒れた。
すると次は、赤鬼さんと青鬼さんがいきなりやって来た。
ステップが、順番を守ってくれよ。
そう思い突っ込むが、青鬼さんの手から某高圧洗浄機のような水がやって来る。
「ひゃあ」
思わず声を上げて飛び逃げる。
あれはたぶん、触るとやばい。
両手から水流を出して、鞭のように襲ってくる。
躱しながら、距離を摘めようとするが、変速的な攻撃のせいでうまく対応ができない。途中で、隙間を見て体を割り込ますと、赤鬼さんから火球がやって来る。
こいつら連携している。
やばいやばいやばい。
〈何をやっとる、あのくらい、お前ももう使えよう〉
使える? 何を?
〈体内の気を、流れを感じて、撃ち出せ〉
体内の気? 気ってなに? そんなもの感じたことないんですが。
〈ええい。奴らを倒せ。教えてやる〉
倒せって? それができれば、こんなに何時間も躱していないよ。
何時間も? いったい俺は、どのくらいここに居るんだ?
そんな事を、ぐるぐる考えながら躱していると、青鬼さんもずっと撃てるわけではなく休みが入る。その間に赤鬼さんが攻撃をしてくるのが分かった。
赤鬼さんの攻撃の最中に、距離を詰めていき、赤鬼さんを倒す。赤鬼さんの懐に居るときは、青鬼さんも躊躇するようだ。
完全に、赤鬼さんが消える前に、青鬼さんの膝を潰し、落ちて来た顔面を蹴る。
するとやっと倒れてくれた。
〈ええい。面倒のかかる〉
そんな事を言いながら、ばあさんが俺の腹や胸に手を差し込んだ。
「げっ。なにしてくれますの?」
〈じっとしとけ〉
何か内蔵いじられている?
すると、下腹部からすごくあったかいものが流れて来始めた。
何だこれ?
まだばあさんは、手を突っ込んでいるが、これやばい。俺の頭、爆発しないよね。
ふと見ると、ばあさんにいじられているのに、俺の棍棒が立派になっている。
「げっ」
と俺が言うと、ばあさんは気が付いたらしく
〈ほうほう。これだけ元気があれば大丈夫じゃろ〉
そう言って、先を弾きやがった。
俺は前かがみになりながら、
「体はあったまったけれど、これでどうするんだ?」
そう聞いてみた。
〈そのあったかくなった気の流れ、それを体の中で巡らせよ〉
そう言われて、流れを意識する。
今は下半身から、頭に向けてすごい勢いで何かが流れている。
これを、巡らせる?
意識を集中すると、頭に到達した流れは、表皮側と言うか噴き出した噴水状態で中心から吹き上げ、頭蓋骨の内側を下り喉から手足へと流れて循環しているようだ。
「これ勝手に循環している」
〈たわけ。そんな事は分かっている。意識的に制御しろと言っておる〉
そんなにポンポン言わなくたって。
どうしよう? お願すればいいのか?
流れの少ない手の方へ意識を持って行ってためす。
俺は右手を伸ばして、そちらへ流れるように意識を集中する。
すると、テスラバルブの様に滞っていた流れが、流れる方向が逆向きになったように一気にスムーズになった。
今度は左手。そして右左の足。そうして順に流れがスムーズになってバランスもなんとか調整ができるようになってきた。
〈足に気を集め、歩いてみろ〉
そう言われて、素直に試す。
あっこれ、足だけではだめだ。腰から上の流れも制御しないと。
歩く時の体の動きを考える。
重心を少し下げて、踏み出し……
「どひゃあぁぁ……」
すごいスピードが出た。いきなり靴の裏がはげた。
試しに、パンチも試す。
ブンと腕を振ると。パンと乾いた音がして袖がはじけた。
シャツはとっくにはじけて、なんとか残っていた袖だったのに。
「体の強化ができるのは分かったけれど、さっきの火の玉とかは?」
〈同じじゃ。さらに意識して、手なら手の外にまで気を干渉させる。その時どういう現象を起こすのかは、己が意識で命令せよ〉
「それって、気と言うのを放出しながら、物理現象に変換。じゃないな、空間に現象を起こさせると言う事?」
〈そうじゃな。世界の理と言う物がある。それを意識によって制御する〉
「それって、普通。神の奇跡と言う物かな?」
〈当然じゃ〉
「そうですか。当然ですか」
神の御業を実現せよと。
俺ってただの高校生なのに、どうしてこうなった。
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