第4話 苦難は続くよ、どこまでも

 それからも、適度に小鬼は現れては、俺の持つ棍棒の前に消えて行った。


 やがて、小鬼たちはツーマンセルやスリーマンセルで現れ始めた。

 一匹の時とは、格段に難しさが変わる。


 一匹を照らして攻撃中に、闇の中からふっともう一匹が出て来る。

 ばあさん鬼は、『見るな感じろ』と訳の分からない事を言い出す。


 まあ、途中から、できるようになったんだけどね。

 なんとなく気配? を感じる。

 ああ今、右横に一匹来て棍棒を振りかぶったとか。

 ただ分かっても、避けることが出来るかは別問題。

 風切り音を感じて、しゃがむと小鬼の振るったこん棒は、丁度頭をかすめるんだよ。

 かすっただけでも、意外と痛い。


〈自分から、当たりに行ってどうする〉

 などと、ばあさんに言われても、都合があるんだよ。

 足を延ばして、小鬼の足を払い、転がった所へ棍棒を打ちおろす。


 ぐしゃっという感触を感じて、意識をそちらから切り離して、次の奴に意識を向ける。

 すると、とどめを刺していないから、後ろから足を殴られる。

 だよね。

「痛てえ」

 後ろ向きに、棍棒を振り回す。

 再び。ぐしゃっと感じる。

 もう大丈夫だろう。つい後ろにライトをあてると、消えていく小鬼。

 すると背中を殴られる。

「痛てえ」

 振り向きざまに、棍棒を打ち下ろす。


 そんな、肉を切らせてな作戦を繰り返し、何とか倒していく。


〈そのまま進むと、おぬし死ぬぞ〉

 ばあさん鬼が、腕を組みながら呆れている。

「だから、俺は素人なんだよ」

 そう叫ぶと、

〈そんな事。敵には、これっぽっちも関係が無いのう〉

 などと仰る。


「それはそうだけどね。身もふたもない」

 そう言って落ち込むが、

〈ほれ来たぞ〉

「ちくしょう。空気くらい読めよ」

 そう言って、俺は駆けだす。



 どのくらい経ったのだろう。気が付けば周りが見えるようになっていた。

 ライトなど途中で消えてしまった。

 30時間経った? そんなはずはない。腹も減っていないし眠くもない。


 鬼は、最初の小鬼ではなく、中鬼位になっており、すでに俺より背が高い。

 持っている棍棒は、ブンと言うより、ゴッというような風切り音に変わっている。

 すでに、最初にやっていた様に当たると、痛いでは済まず。

 俺の体は、爆散するかもしれない。


 こいつも、最初は1匹ずつ来始めた。

 その前には、小鬼は最終的には5匹セットだが、楽勝になっていた。

 自分の慢心が小鬼に対してマックスになった頃。奴は来た。

 隙の無い佇まい。

 超高速の棍棒。

 冷や汗が流れる。


 一歩踏み込み、すっかり相棒となった棍棒を振る。

「パキッ」

 乾いた音を立て、先が飛んで行く。

「待ってくれ」

 思わず手を伸ばすが、その手に向けた無慈悲な棍棒が振り下ろされる。

 すっかり相棒となり、頼り切っていたこん棒の喪失。

 俺の心に与えたダメージは、一体どれほどの物だったか……。

 きっと誰にも、理解はできはしない。


 例えば、夏の暑い日にアイスクリームを注文し、それもお小遣いを注ぎ込み3段ものアイスを購入。意気揚々と店の外へ出たとたん、小さな段差に躓き、手からアイスが飛んでいく。その飛んだ先は、怖い人が乗った黒塗りの車か、はたまた、クラスで気になっていた女の子の顔と胸にぶちまけるくらいの衝撃。

 うん。どっちもヤダ。


 半身を引き、棍棒を躱す。

 そのまま拳を相手の胸へと突きこむ。

 右手に感じるバキバキと言う感触。

 見ると相手の胸に拳は潜り込んでいた。

「げっ」

 思わず声が出る。


〈うんうん。今のは良いぞ〉

 そして俺は副賞として、奴の持っていたすっごく重くて長く。とっても固い棍棒マーク2を入手した。

 きっとそのうち、棍棒ゼータとか入手するのだろう。

 そして、いずれ…… 俺の思うまま、勝手に飛び回り攻撃してくれる棍棒が……。


〈おい大丈夫か?〉

 せっかく夢の世界に行っていたのに、無粋なばあさんだ。

 おれは、うっとりとしながら、立派な棍棒を撫でまわしていたようだ。


 さて、新たな武器を携え。いざ行かん。

 

 「ひょほほほー」

 おれは、走り始め。見えてきた中鬼に相対する。

 奴が振り下ろす棍棒を、寸前でかわして、そのまま俺の棍棒を相手の胸に突き入れる。ずぶずぶと棍棒が刺さっていく感覚。

 うーん。状況はあれだが、男として何か達成感がある。

 俺は壊れていたのかもしれない。

 

 棍棒を、次々と奪っては、次の奴に突き刺していく。

 途中で胸にある石が、棍棒に潰され、壊れると消えてしまうことに気が付いたが、すでにポケットはパンパンだし、拾う必要もないだろう。

 何に使えるか、分からない物だし。


 この拾って突き刺しは意外と使えて、相手が、2匹3匹と増えても有効だった。

 3匹の場合。胸に刺せない時には、向かってくる奴の足の甲をいったん縫い留めて、倒れこんでくる胸にパンチをする。それだけで消えていく。


 向かってくる奴を躱して、足の間に差し込むのもいい。

 この場合、しっかりと握っていないと、こちらがダメージを食らう。

 要注意だ。


 そのため、横から脛を殴ることにした。

 棍棒マーク2シリーズは強力で、一撃で相手の膝を粉砕する。

 自分がやられないように気を付けよう。


 そんなこんなで、順調に相手は増えていき無事5匹。

 ぶんぶん振られる棍棒を、お辞儀やイナバウアーでかわして、どこかの映画のような立ち回り。閉脚旋回も取り混ぜてどんどん倒していく。


 ムーンウォークもできるようになった。

 披露すると、俺は近づいて来ているはずなのに遠ざかり、後ろにいたばあさん小鬼が俺より前に出てしまった。それに気が付いた相手が、攻撃をしようとしたら、それだけで中鬼は霧になって霧散した。

 ばあさん怖え。


 それからしばらく、ばあさん鬼と両方に追いかけられる羽目になった。

 結局つかまり、お尻ぺんぺんを100回ほど食らった。

「痛てえよー」

〈ふん。自業自得じゃ。こざかしい真似をしおって〉

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