第3話 俺の失踪
翌日。
また集落は大騒ぎとなった。
朝ふらっと出て行った俺が、夜になっても帰ってこない。
昨日に続いて今日もである。
谷沿いを中心に、捜索されるが戻ってこない。
探しまわった挙句、じいさんが神頼みと社に向かい、俺の安全祈願の祝詞を上げる。柏手を打った時、光と共に物音がして鍵のかかった社の中に、俺が寝かされていた。
服やズボンは、至る所が破れ擦り切れ、手や足には無数の打撲や切り傷。
そして俺は、どう見ても体は育ち、成人となっていたらしい。
病院に担ぎ込まれて、一晩すると、あれだけあった傷や打撲が消え、体も高校生相応に縮んだようだ。
事件性があるかもと言われて、警察官も事情聴取とやらに来たが、俺は覚えていないと返した。
うん? 当然覚えているさ。あのばあさんに襲われた所まで。
あさ、9時過ぎだったような気がする。
昨日言われた通り、社を抜けて森へと入る。
蝉はやかましいが、木立を抜ける風は涼しい。
奥へ来ると、日の光は木立にさえぎられて薄暗くなる。
そんなところに、不自然な洞穴が開いている。
地面からぴょこんと飛び出た複数の巨石。それが組み合わさり根元の所が洞穴となっている。
しめ縄をくぐると、いつもは感じない、何かを抜けた感じがした。
穴から吹き上げる風はいつもと同じく冷たい。だが今日は少し生臭い?
俺は悩みながら、持参したLEDライトを灯して、中へと入る。
光量はそこそこだが、防水で60時間もの長時間点灯できる優れもの。
あくまでも説明が本当ならだが。説明書は漢字ばかりで読めないし、レビューもなぜか星が1と5ばかりだった。WEBページで横にあった製品はもう少し安かったが、なぜか送料が8千円だったのでやめた。
それはさておき、中へと入る。
入ってすぐに、閉まりかかった扉の様に、右横から岩がせり出してきている。
せり出してきている岩は、ぴったりと蓋をしていた岩の左側上部を斜めに切られたような形で、左下側の高さ50cmまでは完全にふさいでいる。
そこから右上に向けて開いている3角形の空間を通るため、岩を乗り越えて中へと入る。乗り越えると中は広い。横幅3mくらい。高さもそれくらいある。奥へと続く穴へと足を踏みいれる。
ここでも何かを、ぬるっと越えた感じがした。なんだろう? 目には見えないけれど、粘りのある壁を押し通った感じ? 不思議に思いながら、ふと見ると、小鬼が立っていた。思わず声を上げそうになったが、頭の中に〈叫ぶな!〉と聞こえた。
「つうっ」
頭に声が響いたため、うめき声が出る。
〈やかましかったか? すまんな。さて来たのなら。修行をさせてやろう。昨日言った通り穴の奥底へたどり着けば修業は終わりだ〉
〈昨日のばあさんなのか? 鬼だったのか?〉
そう考えたのが、筒抜けだったようだ。
〈見た目で判断するな。そんなことでは、物事の本質を見誤る。いつも、なぜを考えろ。そうすれば、人としても大きくなれる〉
まあそんな説教を食らい〈行け〉と言われて進み始める。
5分も経っていない。2~3分くらいで、目の前に小鬼が出てくる。
〈それは敵じゃ倒せ〉
そう言ってくるが、手ぶらで武道もやっていない素人だぞ。
それに生き物を殺すなんてと考えていると、薄暗くて見えなかったが、棍棒を持ったいたようだ。
頭へのガツンと言う衝撃と、めまい。
遅れてやってくる、痛み。
手で一応ガードとも呼べない防御を、反射的にしたが、威力は落とせなかったのか、それとも落としてもこの位の衝撃が来るのか?
「痛てえ」
そう言いながら、また振り上げられる棍棒を、左手でつかみに行き余った右手でとりあえず殴る。ライトは右手に握ったままだから一瞬見失う。
「ギギイ」
声がした方を照らすと、噛みついて来ようとしている。
思わず、膝で蹴り上げる。
顎にあたり、噛みつこうと開いていた口が、俺の膝蹴りという力業で閉められ、カツンと音を発する。
そのおかげで、棍棒を握っていた手が緩んだのか、棍棒を取り上げて、そのまま振り下ろす。小鬼の頭は意外と柔らかく、グシャという感触が手に伝わる。
その瞬間に、赤い血が目と鼻から流れ出るところを見てしまう。
おもわず、俺は「うわぁ」と声を上げてしまう。
右足で蹴り飛ばして、その間に右手に持ち直した棍棒で、もう一度殴る。
右手と左手、両方に何かを壊した感触が残る。
動かなくなった小鬼は、煙となって消えて行った。
その後、わずかに体が温かくなるのを感じる。
だが始めて、何かを殺した。
その感覚は残った。
俺はしばらくプルプルと震える自分の右手をじっと見た後、小鬼が消えた後に地面に残った、綺麗な小石を拾い。なおも奥へと進む。
後ろをついて来る。ばばあ小鬼は、
〈へたれ。へっぴり腰〉
と、俺の無様な殺し合いの論評をしてくれているようだ。
ライトは左で。棍棒を右手。
利き手は右だから、その方がいいだろう。
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