友達

スミレが帰って来る。

母親、玄関で待ち構える。


スミレ

「……。」

母親 

「おかえりなさい。」

スミレ

「ただいま。」

母親 

「色々、大変だったわね。」

スミレ

「何が?」

母親 

「この様子なら関わってないみたいで安心したわ。」

スミレ

「どう言う事?」

母親 

「スミレが関わってないならどうでも良いの。ご飯は食べるでしょ?

手洗ってらっしゃい。」



リビング

テレビのコンセントが抜かれている。

リモコンもない。

静まり返った空間。

1人、遅い夕食を取るスミレ。

後片付けをして部屋に戻る。



スミレの部屋

スミレ、スマホで調べる。


〇〇県△△高校女子生徒(17)死亡。手には血の付いたナイフを持っており、犯人に応戦したと思われる。

家族の行方が分かっておらず、関与の可能性も含めて捜査をしている。


スミレ

「何これ……。」



スミレ宅の玄関

靴を履く背中の丸まったスミレ。

笑顔で手を振る母親。


母親 

「行ってらっしゃい。」

スミレ

「……はい。」



教室

騒つくクラスメイト達。

一番後ろ、窓側の席には一輪挿しの花瓶。


先生が入って来る。

泣き出す女子生徒達。

一輪挿しの席をじっと見つめるスミレ。




屋上

スミレ、カスミがいつも座っていた所に座る。


スミレ

「……最低だな。」


泣きじゃくる。




リビング

スミレ、上の空。


母親 

「スミレ、これ届いてたけど、本でも頼んだ?」


母親の手には、本サイズの小包。

スミレ、ハッとして受け取り、部屋に入る。



スミレの部屋

スミレ、小包を開ける。

「あなたの物語」と一通の手紙が入っている。



『スミレへ。

この小包が届いた頃、君のがんはきっと小さくなっていると思います。

もしかしたら、直接渡せないかもしれないので送ります。

いつも屋上に居たので気付いてなかったとは思いますが、実は!

同じクラスでした〜(笑)

この手紙を二人で笑いながら読めている事を願います。

もし、そうじゃなかったとしても悲しまないでね。

この「あなたの物語」は私の昔話。

もし良かったらフィクションとして読んで欲しいな。

あの時、私はがんを消し去った直後でした。

飛び降りようとしたスミレを放って置けなかったのは、今までの私に似ていたからかも。

スミレが幸せだったら嬉しいです。友達になってくれてありがとう。

カスミ。』


スミレ、カスミの「あなたの物語」を読む。


全て読んだ後、カスミの手紙を手芸用のチャッカマンで燃やす。

自分が書いて来たページも全部破って燃やす。

小皿に残った燃え殻を見つめる。

カスミの「あなたの物語」を鍵付きの引き出しに入れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る