冬の惑星に願いを

amegahare

ある夜の物語

 もうすぐ魔法大学校の受験本番が近づいている。こうして夜道の予備校帰りを一緒に歩けるのも、あと何日間だろうか。

「今日も寒いね」

 紅色の羽衣が良く似合うマーガレットは、白い息を優しく洩らしながら呟いた。マーガレットの白い息は夜風にたちまち連れ去られて、暗闇に吸い込まれていってしまった。

「そうだね、この寒さで体調を崩さないようにしないとね」

 俺は白い息を吸い込んだ星空を羨ましく思いつつ、当たり障りのない返答をした。俺たちの関係が何も進展しないまま、魔法大学校の受験という強制終了の時期だけが確実に忍び寄ってきている。永遠にこの時間が続けばいいのに、と何度思ったことだろうか。

「マーガレットは、模試の調子が良さそうだね」

 俺は自分の気持ちを悟られないように、努めて冷静に言った。

「最近は、いままでの努力がようやく点数に反映され始めたって感じかな。これも先生たちのおかげだよ」

 謙虚に答えるマーガレットであるが、素直に喜んでいる様子は声のトーンからわかる。控えめだけど、はにかんだ笑顔に癒される。

「このままお互いの第一志望の学科に合格すると、、、、離れてしまうね」

 俺は寂しい気持ちを打ち消すように、わざと明るく言ってみた。

「そうだね、、、私の希望する魔法学の学科は都市部にあるけど、あなたの希望する魔道具学の学科は辺境の土地だからね、、、。距離があるね」

 雰囲気からマーガレットも寂しく思ってくれているであろう心情が伝わってくる。お互いに将来の目指したい道がある。だから、遠距離になってしまう。この遠距離という地理的制約が、俺たちの関係の進展を阻んでいる原因だ。答えのない答えを探すために俺は星空を再び見上げた。俺につられてマーガレットも星空を見上げた。

「ねぇ、冬の惑星トライアングルって知ってる?」

 マーガレットは星空を眺めながら、唐突に俺に聞いてきた。突然の質問に戸惑いつつも、俺は頭の中を整理してから口を開いた。

「確か、冬の南の空にかがやく緑の惑星、青い惑星、赤い惑星。この3つの惑星が作る三角形のことだったかな」

 この3つの惑星を冬の夜空に探しつつ、なぜマーガレットはこんなことを聞くのだろうかと疑問に思った。

「良く知っているね。すごい! 私は惑星に詳しくないので、どの惑星か教えて欲しいな」

 俺はマーガレットの要望に応えるために、膝を曲げて、マーガレットと目線を合わせて、夜空に向かって指をさした。

「あれが赤い惑星だよ。ほら、夜空でいちばん明るく輝いている、あの光」

 マーガレットの目線に合わせた俺の指先が赤い惑星を指し示す。俺は自分の指先を注視しながら口を開いた。

「どう?赤い惑星がどれかわかった?」

 その時だった、頬に弾力のある温もりを感じた。


 マーガレットの唇が俺の頬に添えられていた。

「この国の何処にいても、この惑星は見えるね。だから、同じ惑星を見ていると思うと、私は嬉しくなるな」

 マーガレットは優しい声でささやいてくれた。

 (了)

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