⑧メガミ
「それにしても…何なんだよコイツは」
乗用車程の身体と一抱え分は優に有りそうな化け物を眺めながら、俺はその異様な姿に気分が悪くなる。ブクブクと膨らんだ腹や
それにしても、食ったのかどうかまで判らないが、犠牲者を身体に取り込む理由は一体何だったんだろう。まあ、化け物に常識を持ち込んでも仕方ないが。
「…もう、一人で立てるよ…?」
そんな事を考えていると、腕の中でサキが呟きながら、身を捩って自分の足で立つとせがんで来る。
「悪い、すっかり忘れてたよ」
「…ホントに? 実は女子の抱き心地に酔ってたんじゃないの~?」
俺の腕から解放されたサキが、いつもの調子を取り戻して皮肉を言う。まあ、正直に言えば、違うと否定は出来ないんだが…。
「まあ、いいわ! 貸しにしとくからさ、気長に返済を待っててちょうだい!」
すっかり元気になって、サキはそう言いながら化け物の方を見ると、見計らったようにグズグズと内側からガスが抜けたように全体が萎んでいき、黒い表皮も泡状に溶けて消えていった。
「…中の連中も、一緒に消えたのかな」
「そうなんじゃ…ん? 何これ…?」
俺達の前で消滅した化け物の居た辺りから、ぼんやりと光る玉のような物が浮かび上がり、宙を漂っていたかと思うと大樹に向かって吸い込まれていった。
「…魂、か?」
「随分凝った演出だけど…ちょっと変よね。私達がイノシシとか倒しても、あんな風になった事無いよ?」
俺とサキは今見えた出来事に顔を見合せていると、遠く離れた場所からパタパタとポンコが近付いて来る。
「いやぁ~お見事です! 流石は私が見込んだああああぁ~っ!?」
「ちょーしに乗らないでよね! アンタ全然役に立ってなかったじゃない!!」
ヒョイとポンコの首根っこを掴みながら、サキが溜まった鬱憤を晴らすように怒鳴り散らす。
「だいたいアイツは何なの!? 糸吐いたり毒の爪有ったり、まともな奴じゃなかったわよ!」
「ひいいぃ~!! だ、だって…私も何にも聞いてなかったもん!」
ブンブンと首を横に振りながらポンコが反論すると、更にサキが怒鳴ろうと口を開きかけたその時、
【…判りました。お二人に本当の事をお話しましょう】
不意にポンコの表情から生気が消え失せ、無表情のまま口から零れ出た言葉は、感情の起伏を欠いた合成的な音声そのものだった。
「ちょっと! 何で急に声変えちゃうのよ! 喋り方までらしくないわよ!!」
【…この娘は、私の端末の一部です。私の本体は貴方達がメインサーバーと認識して頂いてます】
「…メインサーバー? つまり、このゲームを統括してるプログラムって事か?」
サキが思わず手を離すと、ポンコはそのまま着地して直立不動の姿勢を崩さず、俺の言葉に耳を傾けている。
【…その認識で間違いありません。つい先程、皆さんに撃退して貰ったそれは、我々と異なる星からやって来た生命体…でしょう】
…でしょう、って随分と曖昧な答えだな。プログラムの癖に妙な人間臭さが有ったもんだ。
【…この娘に不確かな記憶しか与えていないのは、敵の眼を
「いや、ちょっと待てって! 何なんだよその生命体って? それに見返りとか何も無いのか!?」
【…私の元に来た時、詳細をお伝えします。では…】
「メガミちゃん!? どこに行けばいいの!?」
「…はい? メガミちゃんって誰ですか?」
サキがポンコの身体を掴んで揺さぶるうちに…唐突に時間切れとなりメガミは去っていった。沢山の疑問と、不確かな再会の約束を残して。
自我を取り戻したポンコは、俺達に【大樹の森】を介して様々な場所を繋ぎ、移動を容易に行えると教えてくれた。まあ、その時はポンコが居ないと移動出来ないらしい。
「ところで、山の向こうに集落が有るって聞いたんだが、お前は何か知らないか?」
「山の向こうですか? あー、【ヨセアツメの谷】の事ですね! ポンコみたいなのも沢山居る賑やかな所ですよ~♪」
「…あんたみたいなのがウジャウジャ居るの? 不安しかないわ…」
いつの間にか、半人半獣の奴がデフォで存在するゲームになってたのかよ。まあ、【様々な出会いが物語の幅を広げていく】って謳い文句も有った気がするし、原始人だけじゃ潤いに欠けるかもしれんな。
「じゃあ、そこまで移動出来る?」
「はい! ポンコにお任せください!!」
…ポンコツなポンコ頼りの移動かよ。お前、直ぐに化けの皮が剥がれるだろう? 今も尻尾出てるんだが。
先導するポンコが大樹の根元に案内すると、見慣れた穴がぽっかり口を開いている。どうやら他の場所に行く際は彼女を先頭にして、希望する行き先まで連れて行って貰う必要があるようだ。もしかすると、例の化け物を遮断する一種のプロテクトとして、ポンコの存在が機能しているんだろうか。
狭い穴にポンコと共に身を潜らせると、再び広い洞窟を経由して外に出られた。
…確かに、来た場所とは違う所に出てきたな。目指していた筈の山は俺達の背後に聳え、目の前には今までと違う木々が鬱蒼と繁っている。目に鮮やかな広葉樹が主だった今までの所と違い、くすんだ緑色の針葉樹が繁る北欧的な景色だ。
「…ちょっと肌寒い気がするなぁ…」
「うん、新しい毛皮の服が欲しくなっちゃうね…」
俺とサキは無駄にクオリティの高い外気温に辟易しつつ、ポンコを先頭にしながら【ヨセアツメの谷】を目指して歩き出した。尤も、そんなに離れてないようだから、直ぐに到着するだろう。
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