⑦初めての出会い
丸1日費やして、イノシシの毛皮から【毛皮の服】と【毛皮のブーツ】を製作した。お陰でやっと原始人らしくなった…のか、現代人の感覚として無防備感が薄まったのか微妙だが、とにかく着衣は素晴らしい。
ゲームを開始して手に入ったものは、【毛皮の服】【毛皮のブーツ】【黒曜石の槍】【石の手斧】【黒曜石のナイフ】【石の破片】【素焼きの土器】、そして【火起こし弓】だ。全ての物品には消耗耐久値のようなものが有り、激しく使えば壊れたりバラバラになってしまう。服やブーツは余程着続けない限り問題無さそうだが…。
アイテムがそれなりに揃ってきたので、とりあえず周辺の探索に出掛けてみる事にしよう。新しい動物や物資が見つかる可能性もあるし、他の原始人と出会えるかもしれない。
【黒曜石の槍】を持ち、鞘に納めた【黒曜石のナイフ】と【石の手斧】をベルト代わりの紐に挟み、【蒸したイノシシ肉】を葉っぱに包んで背中にたすき掛けにすれば準備完了だ。さて、出掛けるとしよう。
川の下流に沿って歩き、動物の気配は無いかと注意しながら進んで行くと、川の畔に人の足跡が幾つも残されていた。足跡の大きさは俺より小さく、歩幅も短い。一瞬子供かと思ったが、只のモブキャラにしては足跡の数が多過ぎる。これは他の原始人なんじゃなかろうか、と思ったその時…
「…あっ!?」
甲高い叫び声に振り向くと、そこには毛皮をビキニのように巻いた一人の女性…の原始人が居た。
「…びっくりさせて申し訳ありません!」
思わず口から出た言葉に(いや原始人が言うセリフか?)と多少疑問が湧いたが、相手は俺の反応に警戒心を解いたのか、
「いえ! こちらこそ驚かせてしまって…」
と、奥ゆかしい言葉で返答する。うーん、お互い毛皮を
「まあ、立ち話もなんですから、ちょっと情報交換しませんか?」
「えっ? は、はい! 是非そうさせてください!」
俺の提案に女性は賛成し、川原の石の上に腰掛けた。
「…ところで、そちらは随分と沢山の毛皮が有るみたいですね」
「そうですか? チュートリアルが終わった段階で3頭程イノシシを倒せたんで」
「えっ!! さ、3頭もですか!?」
どうやら彼女は狩りが余り得意ではないらしく、結構な時間を費やしてもイノシシ1頭が限界だったらしい。
「…じゃあ、その間は何を食べて…」
「はい、イノシシは上手に
そう言って彼女が川面を指差すと、中洲に石を並べて追い込む場所が作られていた。その中心に枝を編んで作ったカゴを掛け、追い込み漁の要領で魚を集めて採っていたそうだ。話を聞いて最初は彼女の毛皮がビキニのようだからかと思ったが、
「結局、大きな毛皮が手に入らなくて…繋げて縛ってやっとこれだけ隠せる面積に…」
彼女はそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤くした。何だ、そういう事だったのか…それにしても、女性のプレイヤーも居るんだなぁ…フルダイブゲームだから、余り居ないイメージだったけど。
そう思うと、急に彼女の困窮した状況が不憫に感じ、思わず口を滑らせてしまった。
「なら、一緒に狩りしません?」
「…ええっ? 良いんですか!?」
彼女の表情がパッと明るくなり、つい感情的な言葉を出した事に少しだけ後悔してしまう。何故かって? これはゲームなんだし、自分で攻略する楽しみってのを奪いかねないからだ。
でも、続けて彼女が言った言葉に、今度は俺の方が驚かされた。
「じゃあ、【狩り仲間】になりましょ!」
あー、そうか。独りで進める事ばかり考えていて、良くある攻略系ゲームのパーティーを組むのと同じシステムがあるのを忘れていた。
と、今まで気づかなかったが、自分の名前が空欄のままで居た理由が、直ぐ判った。
「では…今からあなたを【ヒゲ】さんって呼んで良いですか?」
「いっ? ひ、ヒゲですか?」
…どうやら、名前ってのは相手が付ける物で、自分では付けられないようだ。しかも見た目だけで【ヒゲ】にされちまったぞ? …まあ、いいか。
「…それじゃ俺はあなたを【サキ】さんって呼びますね」
俺はと言えば、何処かで見た記憶のあるショートヘアーのグラビア系アイドルの名前を、何となく付けてたんだが、彼女の方は特に問題なさそうだ。
「はい、判りました! これから宜しくお願いします!」
【サキ】はそう答えると、同じ髪型のアイドルに匹敵する位の笑顔で応じてくれる。こうして俺こと【ヒゲ】と【サキ】は行動を共にする事になった。それにしても、初対面同士なのにこんな軽いノリで決めて良かったんだろうか?
…正直に言えば、むさ苦しい男と組むよりは、女性と組んだ方が楽しい。しかも毛皮ビキニ(みたいな)姿なんだし。
こうして、俺はサキを伴ってイノシシ狩りに出発した。とはいえ、イノシシも余程群れていない限り簡単には見つからないだろう。だが、俺の考えとは裏腹にサキが先に進んで暫(しばら)くすると、木の根元を熱心にほじくり返しているイノシシにあっさり遭遇した。
「…あ、やっぱり居た!」
「やっぱり、って何で?」
「イノシシってドングリが好きなんですよ、だからドングリを集めて寄せといたんです!」
ははぁ、成る程ね。サキも彼女なりにイノシシを狩る為に創意工夫していた訳か。もっとも、見た目だけで中身まで本当に女性かは判らないが。
「ところでヒゲさんは、キャラメイクしてます?」
ドングリに夢中なイノシシは直ぐ逃げないと判っているからか、サキは狩りの準備を始めようとしている俺に話し掛けてきた。
「俺かい? 勝手に生えてきたヒゲ以外はしてないよ」
「じゃあ、私と同じなんですね! よかったー、てっきりみんなガッチリとキャラメイクしてるのかと思ってましたから!」
…え? 本当に女だったの!?
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