第4話 燃えるステージの上で

『とうとう配信するって!』

『なんて説明するのかな』

『アリスちゃんに辛い思いさせたんだから許さん』

『実況楽しみにしてたのに』

『なんかの間違いだよ』

『人間がやってるから過ちくらいあるんじゃね』

『説明してないの怪しい』

『おれずっと嫌いだった!』

『何時から?』

『21時からだって』

『Twitter見てこいよ』

『信じがたいよねー』

『これまでかなり誠実だったから…』


すっかり日課になってしまったエゴサーチで過激なコメント以外を読んでいく。

俺は浮いた話の一つもなかったので疑う人と信じる人で真っ二つに割れているらしい。

久しぶりに実況用のパソコンの電源を入れる。

話すことは全く思いつかず、頭の中は真っ白だ。

21時までもう時間もない。

マイクとヘッドセットを着用して、待機する。

集まっている視聴者の数はかなり多かった。

そして部屋の時計が

21時の時を刻むのを見て


俺は配信を開始した。


『今晩は、ニャロと申します。

久しぶりの配信になります。話すの失敗したら申し訳ないですけど寛容に、寛容にお願いします。』

コメントが爆発するように書き込まれていく。

『早く本題に入れ』

『説明しろ』

遠慮のかけらもないコメントに多少のダメージを受けつつ、本題に入ることにする。

『えーと、本題に入らせてもらいますね。

俺は今、アリスさん?と同棲疑惑で炎上しているんですよね?』

コメントがさらに増える。目が痛い。

『すっとぼけるな』

『さっさと言えよ!』

顔を顰めながら事実を告げる。

『えー、俺、まず、アリスさん?を知らないんですよ。だから

俺なんで炎上してるのか分かりません!!

何にもしてないし何が起こってるのか分からないんですよ。』

分からないと告げると一瞬完全にコメント欄が沈黙した。目が痛くなるほど流れていたのに完全に停止している。


『コイツ何言ってんだ?』

『あーはいはい黒ですねもういいわ』

『この後に及んでとぼけるとかwww』

『やっぱりなんかの間違いだって!!』

『知らないとかwww言い訳下手すぎ』

『なんもしてないって言ってる』


信じて貰えていないことがよく分かるコメント欄を見ながら、俺は頭を抱えた。そこにーー


『ちょっと待ってこっちなんでこんな展開』

『アリス認めたぞ』

『報告きたんだけど…』

『知らないって何?』

『言ってること違う』


コメント欄では奇しくも俺と同じ時間に配信を始めたらしいアリスさんの配信から来た人が混乱していた。アリスさんはどうやら俺を知っているらしい。

想定外の事態に俺も混乱を隠せない。

『え?えっ……誰?え?相手は、俺のこと知って…いやちょっと待って…なんで……』

混乱して言葉をうまく発せない俺にコメント欄は何かを察したようでますます混乱が広がる。


『なんかほんとにわかってない?』

『片方だけ知ってるって…ストーk』

『おーい?大丈夫かー?』

『演技じゃないの?』


俺をヤジるコメントが多かったが、混乱が広がり、視聴者の中にも俺を心配してくれる人が出てきた。

俺もあまりの事態に最悪の想定が頭をよぎる。

『俺、いや、ストーキングされて…いやそれはないでも俺の家には妹くらいしか…』


『………』

『それじゃねーかwww』

『妹いるの?』

『妹さんがアリスさん?』

『いや絶対そうだろ』

『なんだこの茶番www』


『え?は⁉︎絶対ない!妹がそんな…は⁉︎』

椅子を跳ね除け、ヘッドセットとマイクを無理矢理外すと、妹を探しに部屋の扉を乱暴に開ける。


『行っちゃった…』

『めっちゃ動揺してたなwww』

『ある意味伝説www』

『妹可愛いの羨ましい』

『今見たけどすげーかわいいね』


ドアの先に見たこともないくらい可愛い女の子が突っ立っていた。

フリーズした俺は、何も言えずにただただ崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

炎上以上バズり未満 チェシャぬこ @whiterabbitcheshirecat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ