82 体が反応するみたい
「もう、
「ごめんごめん」
教室に戻ると、まず
忙しいみたいだから、これだけ遅れてしまえば怒られる。
その原因はわたしなので、肩身は狭い。
「道に迷った他校の男子を出口に送るのに、なにをどうやったらこんな時間かかるわけ?」
あ……。
そう言えば、凛莉ちゃんが知らない男の子と歩いていて、わたしはそれを見て火がついたわけだけど。
本当に知らない人だったみたい。
や、やば……。
さらに罪悪感が……。
「だから、ごめんて」
「まあ……いいけど。無事に送れたの?」
「……た、多分」
「多分?」
「どこにもいなくなってたから多分大丈夫」
「ん?凛莉は一体どこで何をしてたの?」
完全に意味不明な行動をとったことになっている凛莉ちゃん。
もういっそのこと、わたしのせいだって伝えて……。
「すいませーん。注文いいですかー?」
「あっ、はーい」
注文の声に反応して、凛莉ちゃんがすぐに駆け付ける。
「あ、凛莉まだ話は……」
あっという間に仕事に切り替えて、橘さんの質問をシャットアウトする。
その立ち回りはさすがだと思う。
「もうっ」
橘さんも諦めたようで仕事に戻って行った。
「
「あ、はい。すいません遅れて」
わたしはビニール袋をそのままリーダーに手渡す。
「ううん、まだ大丈夫だったから。それじゃ何かあったらまたよろしくね」
とまあ、わたしは何事もなく終わるわけで……。
わたしはまた手持ち無沙汰になって、メイド喫茶の状況を見守る事にした。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
お店に来てくれた下級生の女の子二人組を、凛莉ちゃんが見送る。
「み、見た……?今の
「めっちゃ可愛かったね」
ふふっ……。
ついさっきまでのわたしなら、今の発言を聞いただけでもメンタルがおかしいことになっていただろう。
でも、今のわたしは違う。
かなり落ち着いて、噂話が聞けてしまう。
そうでしょそうでしょ。凛莉ちゃんは可愛いでしょ、と。
「普段のギャルオーラ消えてて、可愛さ倍増してない?」
「うん、ああなると皆が放っておかないだろうね」
……あ、やっぱムリかも。
さすがにそこまで聞こえちゃうと、複雑な気分になる……。
可愛い凛莉ちゃんは好きだけど、モテる凛莉ちゃんは考え物だ。
色んな人からあんな視線を向けられるかと思うと、気持ちがざわつくなぁ……。
「すーずなっ」
「あ、はいっ」
いつの間にか、横からひょいと凛莉ちゃんが現れた。
「あたしの当番、終わったよ」
「あ、そうなんだ……」
基本的にメイド喫茶は担当が午前と午後の部に分かれるようになっている。
でも食材は残り少ないから午後の部の人の作業時間はあまりないかもしれないけど。
「涼奈も午前中だけでしょ?」
「うん」
こんな綺麗で可愛い人が、わたしの事を好きでいてくれてる。
さっきは現実感がなかったけど。
落ち着いて改めて現状を理解すると、やっぱり意味が分からない。
こんなことあっていいのかな……。
「というわけで自由時間。一緒に見て回ろうよ」
「う、うん」
凛莉ちゃんに手を引かれて、わたしたちは教室を後にする。
「やっぱりメイド服とか性に合わないわ」
凛莉ちゃんが着替えて制服姿で戻ってくる。
袖まくりをして第二ボタンまで開けたブラウスに、膝上のスカート丈。
いつもの彼女に戻っていた。
「似合ってたけどね」
「でも、動きづらいし。もういいや」
……なんだろ。
メイド服の時はまだ非現実感があったんだけど、制服姿になると急に現実感が出て来る。
そのせいで凛莉ちゃんがもっと近くに感じられるようになってきたんだけど……。
「
「普通、かな……」
お昼にもなってくると他校の生徒や家族の人も増えて来て、いよいよ廊下が狭くなってくる。
多くの人々が行き交う中、何か食べようかと凛莉ちゃんが提案してくれる。
「何か食べたいものとかは?まあ、希望の物があるかは分かんないけど」
「な、何でもいいよ……」
凛莉ちゃんの好きな食べ物でいい。
特にこれといった注文はない。
「飲み物は?なんか買ってく?」
「いや、どっちでも……」
あれば飲むし、ないなら飲まない。
「……涼奈よ」
ぴたり、と凛莉ちゃんの足が止まる。
「はい?」
「……硬くね?」
かたい、とは。
この繋いでる手のことだろうか。
「手を見るな手を」
どうやら違うらしい。
「態度とか、反応のこと」
「え、そ、そう……?」
「めっちゃ淡白というか、よそよそしい」
「そんなつもりないけど……」
そう言いながら怪訝そうな表情で凛莉ちゃんはわたしを見る。
いや、そんなに見つめないで欲しいんですけど……。
「なぜ目を逸らす」
「凛莉ちゃんが見てくるから」
「涼奈を見るのは普通でしょ」
「いや、見ないで」
「やっぱ変じゃん」
言われるとそうかもしれない。
でも、こう、今までの普通が分からなくなってると言うか……。
何をどうしたらいいか分からなくなってると言うか……。
あ、考え過ぎてると手から汗かいてきた……。
「り、凛莉ちゃん、手放して」
「え、これ以上あたしを突き放すとか、どういうことっ?」
「いや、そうじゃなくて……ほら分かるでしょ?」
このままだと凛莉ちゃんの手にわたしの汗がっ……。
「いやいや、ダメだから。逃げる気でしょ」
「に、逃げないって。そんな子供じゃないんだから」
「最初の頃は逃げまくってたじゃん」
「最初の頃の話でしょっ」
「なんかその頃と今の態度が似てるっ」
ああ、もうっ。
そう言って何で近づいて来るかなぁ。
顔が近いし、凛莉ちゃんの香りがしてくるし、なんかどこ見ていいか分かんないっ。
ていうか、そんなこと考えてると、どんどん手汗がっ。
「い、いいからっ。は、はなせっ」
「絶対やだっ、なんでそんなよそよそしくなってるのか言わないとダメッ」
凛莉ちゃんは更に力強く手を握ってくる。
や、やめてよっ。
手汗がっ、凛莉ちゃんの綺麗な手にわたしの汚いのがっ。
わかった、凛莉ちゃんに申し訳ないからここは我慢して言うっ。
「手、手汗がでてるのっ。恥ずかしいから放してっ」
「ん?……ああ、まあ言われて見れば」
凛莉ちゃんは手をにぎにぎして確かめてくる。
「いや、やめろって!?」
「珍しいね、涼奈は汗かかない体質なのに」
なに冷静に分析してんのこの人っ。
「いいから汚いでしょ、やだから放してっ」
「大丈夫、涼奈のは汚くないよ」
なにいい笑顔で頷いてるのこの人、頭おかしいんじゃないのっ。
「いいから、放せえぇ……」
空いてる手で引き剥がそうと試みるが、全然ダメ。
あ、握力つよすぎ……。
「それで、何でそんな態度になって珍しく手汗なんてかいてんの?体調が悪いわけじゃないもんね」
「……いいでしょ、何でもっ」
「うん。そういう可愛くないこと言ってると手、放さないから」
またにぎにぎしてくるっ。
絶対湿ってるの感じてるじゃん。
むりむりむりっ。
「分かった言う、言うからっ」
「どうぞ?」
……くそぉ。
凛莉ちゃんに主導権を握られっぱなしだなぁ。
「……な、なんか恥ずかしいの」
「恥ずかしい?」
「ほ、ほら……こう何というか、今のわたしたちって一応……つ、つつっ、つきあっちゃってる的な……感じなわけでしょ」
「うん、そうだけど」
何でこの人、当たり前みたいに言えるんだろ。
わたしが変なのかな。
「そう思うと、凛莉ちゃんがいつもと違う人に見えるというか……。凛莉ちゃんもわたしのことそんなふうに見えてるのかなとか……色々考えちゃって……」
「……おおっ」
そこで初めて凛莉ちゃんは目を丸くした。
「やだ涼奈、可愛いんですけど」
「なっ、なにがっ」
「あたしのこと意識しすぎちゃって、照れてるんでしょ?」
「……照れてないっ」
「あたしの目、見てから言いなよ」
もう、むりっ。
「ほら言ったでしょ、もういいから放してっ」
「……ん?ふふっ」
ぎゅっと握ってきたんですけどっ。
「り、凛莉ちゃんっ。話しと違う」
「ごめんね、可愛いからやっぱり放したくないみたい」
「い、意味わかんない」
「ほら行くよ」
「あ、ちょ、ちょっと……!」
う、嘘つきだ。
凛莉ちゃんが全然言う事聞いてくれない。
は、恥ずかしい……。
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