81 かわいい子 side:日奈星凛莉
あたしは涼奈と手を繋いで、廊下を歩く。
そのはずなのに、今はそんなに熱さを感じない。
……多分、それはあたしの温度がいつもより高いからだと思う。
『こんな不安定にさせたのは凛莉ちゃんのせいだよ。だから責任とってよ』
『これが、好きってことなんでしょっ?』
『凛莉ちゃんが教えてくれた感情じゃん。なら、最後まで教えてよっ……』
『ねえ、これどうしたらいいの?どうしたら楽になるの?こんなにおかしくなるなら知らなきゃ良かった』
床に倒れ込んで、グシャグシャになりながら自分の気持ちをさらけ出した涼奈を思い出すと体が熱くなってくる。
今までそんなストレートに言われたことはないし、普段の涼奈のイメージとはギャップがありすぎてヤバイ。
繊細で、人との距離感を変えたがらない涼奈がそこまで想ってくれていたなんて。
それも直接、言葉にして伝えてくれるなんて。
もっと好きになってしまう。
涼奈と両想いになれたことが、今はとにかく嬉しい。
「り、
後ろから、涼奈の声。
「どうかした?」
振り返ると、涼奈は俯き加減になっている。
わりといつもそうするけど、今日はいつも以上に俯いてる気がする。
「あ、歩くスピード、ちょっと早いかも」
「あ、ああ。ごめんごめんっ」
いけない、いけない。
テンション上がっちゃって、無意識に歩くペースが早くなってたみたい。
涼奈はあたしより体が小さいんだから、考えて動かないといけない。
そんな所もかわいかったりするんだけど。
「ううん、早く戻らないとだもんね」
そう言って息を吐く涼奈の口元をつい見てしまう。
涼奈の唇は一見薄く見えるけど、実際に触れるとかなり柔らかかった。
またキスしたいなとか思ったり……。
「凛莉ちゃん?行かないの?」
「っと、そうだねっ。止まる必要はないもんねっ」
ああ、まずいまずい。
思わず涼奈相手にいけない感情を思い出してしまった。
あたしは邪念を振り払うように、もう一度歩き始める。
……いや、でもそうなってしまうのも仕方ない。
好きだと言ってくれて、キスも許してくれて、その先まで許してくれそうになったのだ。
冷静に考えて、涼奈がそこまで許してくれるって奇跡じゃない?
だから、ついつい考えてしまう。
涼奈の足はびっくりするほど細いこととか、こんなに暑い日なのに全然汗をかいてなくてサラサラな肌とか。
感じてる時はいつもより声が高くてかわいかったりとか……。
ああっ、あんな涼奈が見られるなんてたまんないんですけどっ。
「り、凛莉ちゃんっ。早いって……!」
「えっ、ウソっ」
またかっと思って、歩幅を緩める。
また涼奈のことに興ふ……夢中になって歩くのが早くなったのかもしれない。
「わざと……?」
「いやいや、そんなことしないし」
「そう言って、本当は怒ってるんでしょ」
「怒る……?なにを?」
今日の出来事で、あたしが涼奈に怒ることなんて何もないと思うんだけど。
「足、噛んだから怒ってるんだ」
あ、ああ……そういえばそんなことあったね。
その後のことが衝撃的過ぎて忘れていた。
「怒ってないない、ていうか忘れてたし」
「ウソだ。普通こんなすぐに歩くの早くなったりしない」
ま、まあ……普通はならないよね。
でも、普通じゃないからなっちゃったんだな……。
「ていうか、最初より歩くの早くなってたし」
「え、マジか」
無意識こわっ。
どんだけ周りが見えなくなってるんだ、あたし。
でもさすがにそんなこと涼奈にも言えないしなぁ……。
「凛莉ちゃん、噛んだ時に頭押してきたよね。アレ、怒ってたからでしょ」
「いやいや、ちがうって。ちょっと痛すぎたから条件反射的に……」
本当に怒ってはいない。
だけど最近の涼奈の噛み癖は、わりとえぐい。
そこは認識してくれてもいいと思う。
もうちょっと優しかったら、オッケーだけどね?
「わたしを床に倒すくらい、痛かったんだ?」
「それは、ごめんだけどさぁ……」
ていうか、その話題を今思い出させないでよ。
どうやってもそこから先のことを思い出しちゃうじゃん。
ああ、邪念がっ。また邪念がっ。
もうこの話題を終わらせるために、納得できる根拠を提示することにした。
「ほら、これっ。こんなに跡ついてんだよ?痛そうでしょ?」
あたしは自分のスカートを
そこには、はっきり大きな赤い跡が残っていた。
見栄えとしては、かなり痛々しい。
「……」
涼奈はぷいっと顔を逸らした。
なんでだよ。
「涼奈?どうしたの、自分の行為の痛々しさがようやく分かった?」
「戻して」
「はい?」
「いいからスカート元に戻して、足見せないで」
……これはどういうことかな。
自分で噛んだくせに、その跡は見たくないとか。
さすがに理解できない心境なんですけど。
「でも、ほら。見てくれないと痛かったのが伝わらないでしょ?」
「いい、見ない」
「自分で噛んだのに?」
「見ない」
……なんかよく見ると、涼奈の耳が赤い気がする。
「見たくない理由あり?」
「あり」
「なんで?」
「なんでも」
「さっきは涼奈の方から捲って見てたくせに?」
「さっきはさっき。ていうか凛莉ちゃんの方こそ恥ずかしがってたのに、何で今は平気そうに見せて来るのさっ」
「訳も分からず一方的に見られるのは恥ずかしいけど、理由があって自分から見せる分には平気だよね」
「テキトーすぎ」
「そんなもんでしょ」
自分でもアバウトだなとは思うけど。
「涼奈の方こそ、なんで見れたのが急に見れなくなるわけ……?」
「あ、当たり前じゃん。さっき、あ、あんなことしようとしたのに……。そこから足見せるとか意味変わってくるじゃん」
「あ、ああ……そういう……」
そこで涼奈が赤くなっている理由と、あたしの足を見たがらない理由が分かった。
それを聞いてしまうとあたしも何だか恥ずかしいことをしてる気がしてきて、すぐにスカートを戻した。
「す、涼奈もそういうこと考えるんだね……」
「あ、当たり前でしょ。あんなことされたら、誰だって……」
「あ、あんなこと……?」
「言わせないでよ、ていうか絶対言わないから」
「あ、ふーん……」
ちょっと残念。
でも同じようなことを考えてくれていて、嬉しいなとも思ったり。
「とにかくあたしは怒ってないから。ちょっと考え事してて、無意識に早くなっただけ」
「考え事って?」
「えっとだね……」
まあ、涼奈も言ってくれたんだし。
あたしも隠すのはフェアじゃないか。
「さっき音楽室で涼奈にしたこと……みたいな」
「……あ、え、あ……」
ああ、涼奈の耳が真っ赤っかになってるよ。
やっぱり言わない方が良かったかな。
「……凛莉ちゃんの変態っ」
でもなぜか罵られたっ。
「いやいやいや、この場合はお互い様だよねっ」
「勝手に思い出すなっ」
「涼奈だって思い出してたじゃん」
「わたしは凛莉ちゃんが足見せてきたから。凛莉ちゃんは一人で勝手に思い出してた、だから変態っ」
な、なんだその理屈……。
「それで言ったら、あたしは涼奈の唇が見えたから思い出したんだしっ」
「く、くちっ……そんなの当たり前でしょ?マスクで隠せって?」
あ、まあ……確かにそれはそう。
「変態、凛莉ちゃんの変態っ」
「足噛んでくる人に言われたくないっ」
「やっぱり怒ってるんだっ」
「怒ってないっ」
涼奈には申し訳ないけどさ。
そうやって照れ隠しで声を荒げてるのも分かってるから、かわいいんだよね。
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