79 絡み合う
柔らかくて、あたたかい。
ふわりと漂う甘い香りは凛莉ちゃんの匂い。
目の前には瞳を閉じた凛莉ちゃんの長いまつ毛。
初めてのキス。
その突然の出来事に、わたしは言葉をなくす。
しばらく時間が経つと、自然と唇は離れていった。
「……」
「……」
お互いに無言。
でも凛莉ちゃんは、わたしを真っすぐに見る。
その目はいつも以上に熱を帯びている様に見える。
こういう真剣さが、わたしは欲しかったのだとも思う。
「り、凛莉ちゃん、これって……」
「これが答え」
「答え……?」
告白に対する答えがキス。
それって、そういうことなんだろうか。
「そう、分からない?」
「いや、分かる気はするけど……でも言葉にし……んっ」
凛莉ちゃんはわたしの言葉を待たず、また口を塞いでくる。
二度目のキスはさっきよりも積極的で、唇を貪るように絡みついて来る。
凛莉ちゃんの唇がわたしの唇に合わせて何度も重なり合う。
その度に少しずつ唾液が浸透していくようで、どっちがどっちの液体か分からなくなっていく。
それはひどく淫らな行為に感じる。
二度目のキスはすごく長い。
「……ぷはっ。ちょ、ちょっと凛莉ちゃん。息、息できないから……」
初めてのキスで緊張してしまっているのもあると思うけど、どのタイミングで息をすればよく分からなくて呼吸が苦しかった。
「
「いや、ムリ。凛莉ちゃんは慣れてるかもしれないけど、わたしこんなのしたことないし……」
「あたしも初めてだよ」
顔が近すぎるし、体も密着している。
だから声は鼓膜に直接響いて、心臓が跳ねる。
「涼奈……」
「えっ、あっ、ちょっと……!?」
凛莉ちゃんが覆いかぶさってくる。
わたしは抵抗する間もなく押し倒され、視界は天井を向いた。
凛莉ちゃんが見下ろしてきて、彼女の長い髪がわたしの頬をかすめる。
さっきは痛みで分からなかったけど、もう一度床に倒れると背中はひんやりと冷たかった。
「り、凛莉ちゃん……?あの、起きて話そう……?」
わたしは告白の返事が欲しいだけ。
何となくだけど、肯定的な言葉を返してくれるような気はしている。
だからこんなことより、凛莉ちゃんと話しがしたい。
わたしは肘を支点に体を起こそうとする。
「だめ」
「あうっ」
両手を床に押し付けられる。
わたしの上には凛莉ちゃんが跨っていて、力も彼女の方が強いから身動きが全く取れない。
「そのまま寝てなよ」
凛莉ちゃんの声がいつもより低い。
わたしの知らない凛莉ちゃんを見ている様で、期待と不安が同時に押し寄せてくる。
「え、あの、これ、なに……?」
「涼奈がいけないんだよ。あたしはずっと我慢してたのに」
「が、我慢って、なにを……?」
わたしの手に、凛莉ちゃんの手を重ねてくる。
手を繋ぐと言うより、絡み合う。
「こんな誰もいない所に連れて来て、急に好きなんて言われたらさ。あたしだって止まれないから」
「と、止まらな……?」
なに、凛莉ちゃんは何の話をしているの……?
わたしと噛み合っている様で、ちょっと違うような気もしてきた。
「あたしの言う事も、たまには聞きなよ」
ぬるり、と凛莉ちゃんの舌がわたしの首筋を舐めていく。
そのまま頬まで上がって行くと、その唇でわたしの耳たぶに触れる。
「凛莉ちゃん、ど、どこ噛んでっ……」
そのまま凛莉ちゃんの唇はわたしの耳を甘く噛んでくる。
熱い息がそのまま吹きかかって、ぞくりと体が震えてしまう。
「いつもあたしには跡が残るくらい噛んでくるクセに。これくらいかわいいもんでしょ」
「そういうことじゃな……んんっ」
今度は凛莉ちゃんの舌がわたしの耳をなぞっていく。
外側から内側へと、耳の奥まで舌が入り込む。
そんな感覚、初めてで、反応してしまう。
「涼奈、なんか声漏れてない……?」
凛莉ちゃんのささやくような声が吐息と一緒に、耳の奥を責めてくる。
「ちっ、ちがっ……変な所、舐めるからっ……」
意味わかんない、意味わかんない。
お願いだから、これ以上変なことしないで欲しい。
初めての感覚に、自分でも理解できない反応しか起きない。
これ以上はダメだと、わたしは両手に力を込める。
抑えることへの意識が疎かになっていたのか、床に押さえつけられていた腕が少し浮いた。
「まだ、ダメ」
けれど、それは一瞬。
すぐに凛莉ちゃんの手に力がこもって再び押さえつけられる。
「ううっ」
しかも今度はわたしの両腕を重ねて、その手首を凛莉ちゃんは片手で押さえつけていた。
どんだけ非力なんだ、わたし。
「本気にさせたのは涼奈なんだから、ちゃんと相手してよ」
「相手って、なんの……?」
さっきから凛莉ちゃんは何か一つ段階を飛ばしているような気がする。
わたしのせいかもしれないけれど、何かブレーキが利かなくなったような感じがある。
「触るよ」
「えっ、ええっ」
凛莉ちゃんは空いた片手で、わたしのスカートを捲り上げる。
目には見えないけれど、衣擦れの音と風通しのよくなった肌の感覚で分かる。
しかも、凛莉ちゃんの目線はわたしの下半身に向いているから間違いない。
「涼奈の足、綺麗だね」
「どっ、どどっ、どこ見てんの……!?」
顔がカッと熱くなる。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
わたしの足なんて人様に見せるようなものじゃない。
「だから、涼奈の足だって」
当たり前みたいに言うなっ。
「ムリムリムリッ、早くスカート下ろしてよっ」
「わたしより足細い、羨ましいな」
「感想とか聞いてないからっ、いいから戻せっ」
「今までいいだけあたしの足を見て、噛んだりもしたくせに。自分はダメとか都合よくない?」
露出狂の凛莉ちゃんと一緒にするなっ。
わたしはスカートは膝下を守り、誰にも見せないようにしてきたんだっ。
「いいから、やめてっ……」
「ほら、さっき涼奈がしたことだよ」
ひたっと凛莉ちゃんの冷たい指先が太ももに触れてくる。
でも、それはただ触れているんじゃなくてわたしの足の形に合わせて撫でていく。
何度も上下に擦るように、わたしの肌の質感を確かめるように。
「してないっ、そんないやらしい触り方してないっ」
「へえ、涼奈はこれがいやらしいって思うんだね」
何言ってるんだこの人。
「わたしを変態みたいな言い方するな」
「変態じゃん」
散々舐められた後でそんな触り方してきたら誰だってそう思うっ。
しかも、凛莉ちゃんの手はどんどん上へ上へと昇っていく。
どんどんデリケートな部分に近づいて行って、足の付け根まで触れている。
「凛莉ちゃんっ、そこはっ……」
それ以上はまずい、さすがにその先はまずい。
耳とか足を触られるだけで変になっているのに、それ以上は頭がおかしいことになる。
せめてもの抵抗で、わたしは足をジタバタと振った。
「涼奈……ダメなの?」
ふわっと指先が下着に触れそうな感覚があった所で、止まる。
凛莉ちゃんはわたしの顔を覗き込んで、確かめようとしている。
そんな物悲しそうな顔で見ないで欲しい。
「や、だって……それ以上されたら、どんなことになるのか分かんないから……」
「いいじゃん、あたしが相手なんだから」
「そういう問題じゃなくて……」
凛莉ちゃんはじっとわたしの顔を見つめて、間を空けた。
「あたしのこと、好きなんじゃないの?」
「……っ」
……ずるい。
ずるい、ずるい、ずるいっ。
わたしの言葉を借りて、そんなこと言うなんて。
そんな言い方は卑怯すぎる。
「涼奈、どうなの?」
でも、どう答えたらいいんだ。
よくもないし、わるくもない。
でも凛莉ちゃんが、そうしたいって言うならそれでいいような気もしている。
でもやっぱり認めるのは恥ずかしい。
もう意味不明すぎて、わたしは顔を背けた。
「……」
「涼奈、黙ってたら分かんないよ。本当に嫌だったらやめるから」
この人、優しいようで全然優しくない。
そんな大事な選択をわたしに委ねるなんて。
もうジタバタするのも止めて、口だって閉ざしたのに。
妥協案で黙ることにしたのに。
最後まで言わせるなんて、ほんとイジワル。
断れるわけないの、分かってるくせに。
「どうして欲しいの?」
天使みたいな声で、悪魔みたいにささやく。
「……好きにすれば」
それがわたしなりの精一杯だった。
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