57 想いを言葉に
結局、何とも言えない結果に終わった勉強会。
頭のいい人たちに囲まれてはいたので勉強自体は捗ったけど、肝心の進藤くんとヒロインとの物語は動かなかった。
そんな収穫のない帰り道を、
「ねえ、
「……ごめんね」
凛莉ちゃんにとってみれば隣は犬猿の仲の
前方はここなちゃんで、斜め向かいにわたしだったのでやりにくかっただろう。
わたしと勉強をしたいと思ってくれていたのだから申し訳なさは感じる。
「謝る気持ちがあるならさぁ、続きしてよ」
「続き?」
それって勉強の続きって意味だろうか?
「でも、もう結構暗いよ?」
時間は六時を過ぎて、陽も沈みかけていた。
「お互い一人暮らしなんだし問題ないでしょ」
「まあ……そう言われるとそうなんだけど」
それに凛莉ちゃんと一緒にいられるのだから、悪い提案ではない。
「どこでやるの?」
「あたしの家でもいいけど?」
「凛莉ちゃんの家……」
凛莉ちゃんの家にはまだ一度しか行ったことはない。
その一回の記憶が強烈で、思わず顔の温度が上昇してしまうのが分かった。
「涼奈ぁ、なんか変なこと考えてない?」
「かっ、考えてるわけないじゃんっ」
ニヤニヤしている凛莉ちゃん。
わたしの考えていたことが読まれたみたいで、思わず声が上擦ってしまう。
「そっか。じゃあほら、いいでしょ?」
凛莉ちゃんに手首を掴まれる。
抗う理由は特にない。
「うん、いいよ」
「よし、なら決まりっ」
凛莉ちゃんはいつだってわたしの先を歩く。
◇◇◇
二度目の凛莉ちゃんの部屋。
当たり前と言えば当たり前だけど、全然変わってない。
白黒ピンクの随分と派手な部屋だ。
「遠慮しないで、涼奈の部屋だと思ってくれていいからね」
「あ、うん……」
そんな凛莉ちゃんの言葉に乗せられたわけじゃないけれど、随分と居心地は良く感じている。
一回来て慣れたのか、凛莉ちゃんに対して心を開くようになったからなのか。
多分どっちもだろうけど、他人の部屋であるという感覚はかなり薄らいでいた。
というか、正直嬉しい気持ちもある。
「ふぅー。ブレザーってやっぱり堅苦しいよね」
凛莉ちゃんはハンガーにブレザーを掛けて、ブラウスだけになる。
わたしは同じ轍は二度踏まない。
この前はベッドに対して正面に座ったせいで凛莉ちゃんのスカートの中を覗いてしまった。
だから今日はベッドを背もたれにしてカーペットの上に座る。
これなら凛莉ちゃんが油断しようと、見える事はない。
「あれれ、涼奈さん。なんか意識しちゃってます?」
凛莉ちゃんは分かっているクセに分からないふりをして、わたしをからかってくる。
「別に、なんのこと言ってるのか分かんないんだけど」
「そうかなぁ……?ふふっ」
凛莉ちゃんは嬉しそうに笑いながら、わたしの後ろに回る。
――ギシッ
と、ベッドの軋む音。
やっぱり凛莉ちゃんはベッドに座るのが好きらしい。
「涼奈さぁ……やっぱり何か変じゃない?」
「なにが?」
「今日のこと」
少し勿体ぶったような口調。
凛莉ちゃんは、まだ何か納得していないようだ。
「涼奈が、進藤湊を異性として意識してないってのは何となく伝わってきたんだけどさ」
「あ、そうなんだ……」
凛莉ちゃんは勉強中もチラチラとわたしの方に視線を送っていたけれど、そんなことを観察していたんだろうか。
「でもさ、やっぱり気にはしてるよね?」
「そう、かな……」
肯定も否定もしない曖昧な返事を返す。
「うん、明らかに。何かを意識して絡んでる感じがする」
凛莉ちゃんの言葉は段々と、疑問から確信に変わっている様に聞こえる。
「気のせいじゃない?」
「そうじゃなきゃ、涼奈が勉強頼まれただけであんなに動くわけない。それくらいあたしでも分かるよ」
人との接触を避けているわたしが、あんなに自分から動く事に違和感を感じているんだと思う。
わたしのことを知っている凛莉ちゃんに、それを隠すのは無理がある。
「何か、理由あるんでしょ?」
「……気のせいだって」
恋愛ゲームの世界だからって、そんな説明を凛莉ちゃんに出来るはずもない。
言えたらスッキリするだろうけど。
実際は頭のおかしい人と思われるだけだ。
凛莉ちゃんには、なるべく変な人だとは思われたくない。
「やっぱり、言ってくれないんだ」
「だって理由なんかないもん。頼まれたから聞いただけ。二人きりで進藤くんと勉強なんてのも変でしょ」
「でもあのメンバーも変だよ」
「そうかな」
「絶対そう、涼奈に何か理由があるとしか思えない」
こういう時の凛莉ちゃんは鋭いから、上手く否定するのが難しい。
「……」
「言いたくないならムリには聞かないけどさ。でもバレバレな嘘を目の前で見せられるのも微妙だよね」
わたしはその言葉にどう返事していいか分からず黙ってしまう。
いつか、このことを打ち明けられる日が来るんだろうか。
そんな日が来て、凛莉ちゃんが信じてくれたら嬉しいけれど。
でも、それを伝える勇気はまだない。
「凛莉ちゃんの方こそ、どうしてそんな進藤くんとわたしが絡んでるの嫌がるの?もう好きじゃないってこと分かってくれたなら、そんな気にすることじゃないよね?」
凛莉ちゃんだって
それに比べたらわたしなんて唯一の幼馴染とたまに絡んでる程度だ。
異性とは言え、好きじゃないってことが分かったのならそんな気にすることじゃないと思う。
「……なんでだと思う?」
「質問を質問で返さないでよ」
「……」
凛莉ちゃんの返事は返ってこない。
――ギシッ
その代わりに、またベッドが軋む。
同時にふわりとあまい香りが漂った。
何かなと思っていると、首元にするりと細い腕が巻き付いている。
わたしは後ろから凛莉ちゃんに抱きしめられていた。
「り、凛莉ちゃん……!?」
いきなりすぎて、ビックリする。
今まで頬にキスとか、首を舐めるとかはあったけど。
それでもこんなにいきなり、何の脈略もなく体を密着させることはなかった。
「……なんであたしが進藤のこと、こんなにこだわるのか知りたいんでしょ?」
凛莉ちゃんはそんなわたしの動揺なんて無視して、冷静な声で問いかけてくる。
わたしだけ一方的にドキドキしているみたいで、バカみたいだ。
こっちだって落ち着いて見せる。
「う、うん。理由があるなら知りたいよ」
「それはね」
耳元に凛莉ちゃんの熱い息が掛かってくる。
「――好きだから」
ささやくような声。
「……え?」
その言葉で、抱き着いてるのとか息がどうとかは完全に吹き飛んだ。
そんなものがどうでも良くなるくらいに心臓がドクンと跳ねたからだ。
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