36 同じでもいいよね
「それで、さっきのはどーいうこと?」
結局、
進藤くんはそのまま廊下の奥へと消えて行ったので、
「どう、って?」
「金織のこと、妙に理解してる風だったじゃん」
……うーん。
そう言う凛莉ちゃんの雰囲気はツンツン気味なのが見え隠れしている。
あんまりベラベラ話さない方がいいのかもしれない。
「一般論だよ、生徒会長なんて誰がやっても大変なんだから」
「そうかなぁ。それだけで金織があんな反応示さないと思うんだよね」
「……そんなことないって」
お堅い金織さんも、
……まあ、かなり物語後半にならないと生徒会長モードから抜け出せないけど。
「本当だし。金織が悩んでるとか誰も思ったことないから」
「そうなの?」
「そうだよ、アイツ何でも出来るんだから。そんな心配するヤツいないって」
「へえ……」
それは俯瞰的にこの物語を見ていたわたしだからこそ、彼女の印象が異なるのかもしれない。
「だ・か・ら、突然そんな理解を示す
ニコニコしながら目が笑ってない。
これは完全にご機嫌ななめだ。
「……これで金織さんを理解している事になるなら、わたしの凛莉ちゃんへの理解度はカンストだね」
「え、そ、そう……?」
「そうだよ。だって、わたしは金織さんの仕事が大変だって推測できるような話だもん。凛莉ちゃんみたいに友達ってわけでもないし」
「ま、まあ、そうだね」
「……だから、凛莉ちゃんの言い方はわたし的にはピンと来ないかな」
と、思いのままに話すと凛莉ちゃんはうんうんと頷き始めた。
「そうだねっ、あたしに比べたら金織のことなんて知らないレベルってことね」
「え、うん……まあ」
「オッケー。それならいいや」
凛莉ちゃんは納得したように本来の笑顔を取り戻す。
さっきまでと違い目が優しくなっている。
機嫌を直してくれたのは嬉しいけれど、凛莉ちゃんは他の子の話が絡んでくると怒り出すことが多い。
友達である
……でもその割には
不思議だ。
◇◇◇
「そういえば涼奈って、中間試験の勉強ってしてるの?」
放課後、凛莉ちゃんと一緒に帰ってるとおもむろにそんなことを聞かれた。
「……うーん、あんまり」
四月が終わりを迎える頃、五月に入れば中間試験が待っている。
あまり考えたくなかっただけに、憂鬱な話題だ。
ちなみにリアルの
多分、雨月涼奈はもうちょっと賢いような気がする。
「なら、あたしと一緒に勉強しない?」
これまた凛莉ちゃんは柄にもないことを言ってくる。
「いいけど、凛莉ちゃんってそんな勉強熱心だったっけ?」
いつかの休み時間には勉強を教えてと言ってきたり、
「うん、最近熱心になりはじめた」
「それまたどうして?」
「……涼奈ってカラオケ行こうとか言ったら来る?」
あれ、話し全然変わってるな。
でも凛莉ちゃんの質問を無視するわけにもいかない。
「基本行かないかな」
歌を聴くだけならいいけど、あの全員歌えみたいな空気はダメだ。
こっちは歌いたくないのに、歌わないと空気読めないみたいな扱いが苦手だ。
「まだ時期じゃないけど、海とか山とかは?」
「海は陽ざしが強いし、山は虫多いよね」
わたしは陽ざしが遮られ虫もいない、コンクリートで覆われた世界の住人なのだ。
「……そういうこと」
凛莉ちゃんはため息と共にそんなことを零した。
それと勉強の何が関係するんだろう。
「成績悪いとお出掛けしちゃダメなルール出来たとか?」
高級マンションに娘を住まわせる凛莉パパの経済力。
エリートな方のような気もするので、その辺りのルールは厳しいのかもしれない。
「はいはい、それでいいですー」
「……?」
なんか全然違うような口ぶりだけど、凛莉ちゃんがそう言うのだからそうなんだろう。
とにかく凛莉ちゃんは勉強に熱が入っているらしい。
それに成績を落とすと、凛莉ちゃんによる悪影響を疑うと金織さんにも釘を刺されている。
ルート管理のためにも、わたしたちのテスト結果が良いに越したことはない。
「じゃあ、あたしの家に来る?」
「……えっと」
誘われて、この前の凛莉ちゃんの無防備な姿を思い出す。
ボンッ、と頭から湯気が出てしまいそうになる。
「今日は違う所がいいんじゃないかな?」
「え、そう?じゃあどこにする?」
そう言われてもなぁ……。
実際問題この世界の地理なんてほとんど頭に入ってない。
基本的に家と学校を結ぶ道しか、わたしは通らない。
「あ、それじゃ凛莉ちゃんが前に連れて行ってくれたカフェにしようよ」
「ま、それでもいっか」
凛莉ちゃんの家はまだ刺激が強いので、もう少し時間を空けたいと思う。
「あ、でも……」
「ん?」
そう言えば、金織さんに放課後の寄り道はダメだと言われていた。
……でもこれは遊びじゃなくてテスト勉強だから許してくれるかな。
「なんでもない」
なんて都合のいいように考えて、凛莉ちゃんの後をついていく。
再びカフェを訪れる。
あの日以来になるけど、一度来ただけで抵抗感はすっかりなくなっている。
いや、それは凛莉ちゃんがいるお陰かもしれない。
「なに頼む?」
凛莉ちゃんがメニュー表を渡してくれる。
「わたしはパンケーキと紅茶でいい」
「あれ、決まってるんだ。他にもおいしいのあるよ、ここ」
「いや、これでいい」
特別他のものを頼む理由はわたしにはない。
「へえ。涼奈、そんなにパンケーキと紅茶好きだったんだ」
「て言うより、凛莉ちゃんに教えてもらったものだから」
「……ん?」
「このお店を教えてくれたのは凛莉ちゃんだし、ここで初めて食べたのはパンケーキだし。紅茶もこの前、凛莉ちゃんに淹れてもらってから最近ハマってるんだ」
そう言うと、凛莉ちゃんは目を丸くして言葉を失っていた。
「や、やめてよ涼奈。そんなの不意打ちだからっ」
「……? 本当のこと言っただけだけど」
「だから、それがヤバイんだって」
何がヤバイのかはよく分からないけど。
凛莉ちゃんがメニュー表を立てて遮るせいで表情は読み取れない。
ただ声は上擦っていたので、わたしが変なことを言ってしまったのかもしれないということは伝わった。
「凛莉ちゃんは注文どうするの?」
「お、同じでいいや」
「え、他にも美味しいのあるんでしょ?」
「いや、ここはあえて涼奈と同じにする」
「いいけど、何で?」
理由が分からない。
「……記念に」
理由を聞いても、やっぱりよく分からなかった。
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