分担は変わらない

 オレは監禁部屋を出ると隣室のソファに腰を下ろしてヘッドホンを被って爆音でお気に入りのメタルをかける。一応防音になっているが度を越してデカい声を出せばやっぱり漏れて聞こえてくるし、オレはそういうのは聞きたくない。

 壁一枚向こうでなにが起きているのかについてもあまり考えないことにしている。ただあの女、“女教皇ハイプリエステス”相手に口を割らなかったやつはオレが知る限り今までひとりもいない。それだけで十分だし、できたらそれ以上は知りたくもない。


 どうせ絶対グロい。


 憂鬱な気分で暫く寛いでいると、部屋から“女教皇”が出てきた。ほくほく顔だ。

 その後ろから男もついて出てくる。ふたりとも手足も服もどこもかしこも赤黒く染まっていた。


「“正義”ちゃぁん、終わりましたわぁ」


 ヘッドホンを外したオレに言うと男に視線を向けた。


「それではぁ、あとはよしなにぃ」


「承知致しました」


 男は彼女に向って深々と頭を下げる。いつものことだ。オレはいつも通りの気持ち悪さを感じながら、男を置いて“女教皇”と早々に隠れ家を発った。


「んで、どこだって?」


どうせ行くのだから目的地が“どこ”だの“なに”だのという話に意味はないが、オレのような小心者の小市民には心の準備と覚悟ってもんが必要だ。


「十七区の環状駅裏にあるぅ某組さんの事務所ですわぁ」


「ガチ筋モンじゃねぇか」


「うふふふ。怖気付きぃましてぇ?」


 にまにまと笑う“女教皇”のふくらはぎを蹴っ飛ばしてやる。


「うっせぇよ。それに、どうせオレが裏だろ?」


 ふたりで行動するときはだいたい担当が決まっている。オレが裏口を押さえて、“女教皇”が正面から突入だ。


「たまにはぁ“正義”ちゃんが前から入りますぅ?」


「普通に死ぬわボケ」


「あらあらぁ、死んでしまってはぁ、ぉなんともなりませんものねぇえぇ」


 “女教皇”の言葉に溜息を吐く。はいはい、自分の程度は弁えてるともさ。


 十七区へ移動し最寄りの隠れ家セーフハウスで装備を整えると“女教皇”にコートをひっ被せて事務所の前までやってくる。これ寒い時期だからまだいいけど夏場は目立つしマジ不審なんだよな。ほらみろ中からチンピラが出てきやがった。


「おうおう嬢ちゃんたち、ウチになんか用かい?」


 身長190はあるだろうか、デケェな。だがどれだけ凄んでみせても“女教皇”は揺るがない。コートの下で手にしていた高圧ガス射出式の自動釘打ち機でチンピラの左膝に釘を打ち込み悲鳴を上げながら降りてきた鼻面にその柄を叩き込む。


「ちょっとぉ書類を受け取りにぃ参りましたぁ」


 “女教皇”はまったく変わらない調子で言いながら事務所のドアをあけ放つ。


「んじゃ、そっちは任せた」


「はぁいぃ。それではぁ……お邪魔ぁ致しますぅぅ」

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