水曜日
次の日、私はいつも通り登校していた。
昨日のことを思い出すたびに私のからだは火照っているように感じた。
今日も翔先生は、別のクラスに呼ばれたらしく、私の教室には来ることはなかった。
午前中の授業が終わり、お昼休みになった時、
高木さんが先生を強引に連れ出していくのが見えた。
気になった私はふたりを追いかけることにした。
二人は私のことに気付くことなく、 そのまま学校の外に出て、 学校の裏庭へと入っていった。
そこで 二人は何やら話し込んでいるようだった。
話の内容を知るために、もっと距離をつめようとしたけど、二人に見つかりたくないと思い、やめることにした。
長かった授業が終わり、 放課後。
私はいつものように、学校の屋上へと続く扉を開けた。
「……」
屋上に先生の姿がなく、私は肩をおとす。
曇っているわけでもないのに、心なしか空が淀んで見えた。
先生がいないだけで、こんなにも違ってみえるのかと、私は思った。
昨日、先生が立っていた場所に私は立ち、大きく深呼吸をする。
心臓がはげしく鼓動することもない平凡な日常に戻ったようで、なんだか悲しい。 「黒崎さん…?」
屋上の扉を開け、高木さんが私の名前を呼んだ。
「…高木さん」
彼女に向かって、私は軽く会釈をした。
仲が良い友人であれば、こんなことはしないだろうなと私は思う。
すらっとした体型の高木さんは、 相変わらず美人で華があった。
金髪にそめられた髪は、美容院に通っているからなのか、根本から毛先まで綺麗に染まっているように見える。
屋上の扉の前、 何か話したいことがあるのか、高木さんが私の方へと向かってきた。
「黒崎さん。須藤先生、見なかった?」
目の前の彼女が翔先生と呼んでいないことを知り、私の心が跳ねた。
「見てないけど…、先生がどうかしたの?」
「別に…。それより、黒崎さんって、いつもここで何してるの?」
「えっ…?」
「放課後になったら、いつも階段をのぼっていくから不思議に思ってたの。
屋上で何してるのかなって」
翔先生と二人きりで会ってるなんて言ったら、彼女は怒り狂うに違いない。
私はそれを口にすることなく言った。
「空を眺めるのが好きだから、ここに来てるだけ」
もちろん、それは翔先生と出会うまでの理由であって、本心じゃない。
私は話をそらすように、それとなく彼女に尋ねた。
「高木さんは、その…、須藤先生の事どう思ってるの?」
「いきなり、何?」
「えっと…、いつも須藤先生と仲良さそうにしてるから、先生のこと好きなのかなって…」
高木さんが腕を組み、私の顔を見た。
「黒崎さんはどうなの?」
「私は…別に。ただ、良い先生だなって思ってるだけ…」
「そう…。勘違いされないよう言っておくけど、私も先生に恋愛感情なんてもってないから」
「えっ!?」
私は心の中でガッツポーズをした。
先生と同じように、彼女もまた、過度なスキンシップをとるタイプの人間なのだろう。
「ここだけの話、私と須藤先生は父方が違う兄妹なの。だから、普段は 翔お兄ちゃんって呼んでる。茶化されるの嫌だから、この話は内緒にして。わかった?」 「う、、うん。わかった」
私は安堵する。
兄妹であれば、あれだけ仲がいいのも頷けた。
二人とも容姿端麗なのは、母親ゆずりなのかもしれない。
「それじゃ、もう行くわ」
私にそう言い残し、高木さんは去っていった。
夕日がゆっくりと沈んでいく。
明日は翔先生に会えますように…。
私はそう願い、その場を後にした。
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