火曜日

次の日、私はいつも通り登校していた。

昨日のことで、眠れない夜を過ごしたため少し眠たい。

翔先生は、別のクラスを担当しているのか、私の教室に来ることはなかった。

それでも、廊下ですれ違った時に、先生は私の方をみて微笑んでくれた。

学年で一番美人だと言われている高木さんは、今日も翔先生の腕に自分の腕を絡ませ廊下を歩いていた。

二人は、 まるで恋人みたいに体を密着させて笑いあっていた。

昨日は気にならなかったのに、私はひどく動揺して胸がいたくなった。

先生は地味な私より、美人で華がある高木さんのほうが好みなのだろうと私は思った。

授業が終わり、 放課後。

私はいつものように、学校の屋上へ続く扉を開けた。

「あっ!花ちゃん!」

「翔先生…」

先生は昨日と同じように屋上にいた。

嬉しい気持ちと同時に胸がしめつけられていく。

「こっちで話そう」 先生が手招きした。

私は先生に導かれるように、 フェンスがある方へと足を進めた。

「なんか、元気ないね…。大丈夫?」

先生が私の肩に手をのせ言った。

「そう見えますか?」

「うん。なにかあったの?」

高木さんと先生が仲良くしているのがショックだった。

そんなこと、言えるわけがない。

「高木さんが羨ましくて…」

私はそれとなく、話を持ちかけた。

「高木さんって、麗奈ちゃんのこと ?」

先生は、 彼女のことも下の名前で呼んでいる。

わかってはいたけれど、なんだか嫌な気持ちになった。

「はい、高木さんみたいに美人だったら、自分に自信が持てたんじゃないかなって…、いつも、そう思うんです」

「…確かに、麗奈ちゃんは美人だと思う。だけど、花ちゃんにも彼女とは違う魅力がある。だから、自信もって」

「私の魅力ってなんですか?」

「純粋な目をしてるところ…、かな」

なんともいえない答えに私は肩を落とす。

「褒めるところがないから、無理矢理 探したんですね…」

「そんなことない。よく見せて…」

先生が前かがみになって、顔をのぞきこんできた。

「っ、、、」

私は思わず両目を閉じる。

吐息があたる距離にいる先生を直視することができない。

「花ちゃん。目をあけて」

「っ…」

ゆっくりと瞼を開き、 先生の顔を見た。

翔先生のまつ毛は長く、瞳は綺麗な薄茶色だった。

「きれい…」

あまりの美しさに私は思わず声をもらした。

「君の方が綺麗だよ」

先生がつぶやいた。

それが本心じゃないとしても、 高ぶる気持ちを押さえることができない。

吐息を交換するように お互い目をそらさずに、見つめあった。

時が止まったかのように、 ゆっくりと時間が流れていく。

学校のチャイムが鳴り、 私ははっと我にかえった。

「翔先生…」

「花ちゃん。また明日」

私から視線をそらし、 翔先生が帰っていく。

空をみると、夕日が沈みかけていた。



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