秘密の先生

お布団

月曜日

学校の屋上に先生がいた。

名前はたしか、須藤翔。

須藤先生は教育実習生として、この学校に来たらしい。

私は今16歳で、先生は22歳だから、わたしと先生とでは6つも歳が離れている。

私の身長が158センチなのにたいして、 須藤先生は180センチ以上もあるらしく、

とても身長が高い。

同級生のみんなからは、アイドル先生と呼ばれているくらい、須藤先生はイケメンで人気者だった。

それにくらべて 私は教室にいても、誰にも気付かれないほど存在感がうすい。

だからなのか、同級生たちからは 長い黒髪の女子生徒とよばれている。

私はいつも放課後になれば屋上にきて、 一人でのんびり空を眺める。

気付けばそれが日課になっていた。

時刻は午後5時30ぷん。

この時間であれば、誰もここにくることはない、そう思っていたのに…。

扉の前、私は思わず息を飲む。

屋上のフェンスを背にして、須藤先生が話しかけてきた。

「君は…、たしか、黒崎さん…だよね?」

「はっはい。1年2組の黒崎花です。

先生は、教育実習でこられた須藤先生ですよね?」

「知ってくれてたんだ。何だか嬉しいな」

「私も…」

「えっ?」

「私も先生に名前を憶えていただけて、嬉しいです…」

先生がやさしい笑顔でうなずいた。

「黒崎さん。これから仲良くなる為にも、下の名前で呼んでいいかな?」

「はっ、はい!私のことは、花って呼んでくださいっ」

「わかった!じゃあ僕のことも、名前で呼んでよ!」

「わかしました。翔先生…」

先生の名前を口にした瞬間、 体が火照るように熱くなっていくのがわかった。

今まで、こんなこと一度もない。

私は自分自身に戸惑う。

それから、私たちはたわいもない話をした。

好きな食べ物とか、嫌いな教科の話とか。

そんな話をしているうちに、夕日が沈み始めていた。

須藤先生が腕時計をみる。

「あっ!もうこんな時間だ!僕そろそろ帰るね!」

「はい。私も、もう少ししたら帰ります」

私がそう言うと、彼は私を抱き締めてきた。

そして耳元でこう囁いた。

「明日もここで会える?」

「えっ!?」

先生の突然の行動に頭が追いつかない。

どうしよう。すごくドキドキする。

でも、私は…… 、

「ごめんなさい」 そう言って彼から離れた。

「ごめん、嫌だった?」

「全然っ、嫌じゃないです。ただびっくりしちゃって…」

「そうだよね…、ごめん」

「あのっ、私たち今日会ったばかりなのに、どうしてこんなこと……」

「可愛いから」

「えっ?」

「生徒はみんな可愛いから、見てると抱きしめたくなるんだよ」

先生が照れながら言った。

「そんな軽い気持ちで、抱き締めたりしないでください!」

これが私の本心だった。

先生にとっては、ただのスキンシップでも、私にとっては、とても刺激的なことだった。

「わたし、 恋愛に興味がないんです」

なんだか悔しい気持ちになり、私は嘘をついた。

今まで恋をしたことがないのだ。

人を好きになる感覚がよくわからない。

「そっか……。急に変なことして、ごめん…。気をつけて帰ってね」

「はい…」

彼が去った後も、胸の鼓動は止まらなかった。

きっと、これが『初恋』というものだろう。

そう私は思った。




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