第4話 prologue4
「『桃太郎』?」
あまりにも突拍子のない単語に、思わず間抜けなオウム返しをしてしまった。日本国民であればだれもが知っている昔話。それが、わたしのスキルに何の関係があるというのだろう。
「え、もしかして知らないの?超有名なじゃぱにーずまざーぐーすらしいじゃん」
「いや……知ってますけど。それがなんなんですか?」
わたしが聞き返すと、死神青年はふむ、と頷いた。
「『桃太郎』のストーリーは知っているよね?」
「ええ……それが?」
「モモタロウっていう人間が
「は?」
ちょっと待った。『桃太郎』はそんなえぐい話だっただろうか。もっとこう、可愛いタッチの挿絵が付いた幼児向けの絵本なんかじゃなかったか。なんだか、桃太郎がものすごく悪い人に見えてきてしまった。
「まぁ、そのモモタロウみたいに自分の作った食べ物を魔物に与えることで、その魔物を従わせることができるスキルってことみたいだねー」
なるほど。コイツの『桃太郎』の解釈は少々ぶっ飛んでいるが、スキルの説明としてはそういうことなのだろう。だから『
「ただしねぇ、このスキルには難点があるっぽくて。『一度、服従させた魔物は主人が与えた食べ物しか受け付けなくなる』。つまるところ、」
「……
「そう!その通り!!ごめーとー!!!」
ぽつりと呟いたわたしを見て、死神はひどく愉快そうに笑みを作った。
「魔物って寿命が人間とは全然違う種もあるみたいだからねぇ。こりゃ大変だね!」
全く、これっぽちも『大変』と思っていなさそうな声色だ。他人の不幸を楽しみすぎじゃねえか、この野郎。
「まぁ、こうしてスキルの概要もわかったことだし??君の名前とか決めないと不味いんじゃないかな?」
名前。
先ほど表示されたものには「unknown」と記されていた。つまり、わたしにはまだ「名前」がない、ということみたいだ。
「んんー……モモタロウで良くない?」
「良いわけないでしょう」
人の名前をなんだと思ってやがるこの軽佻浮薄死神が。危うくムカつくにやけ顔に回し蹴りをいれるところだった。
「まぁまぁ!冗談だって。『桃太郎』さんに
つくづく、冗談と本気の境目が分からない奴だ。それに、さっきコイツの『桃太郎』の独特な解釈を聞かされたおかげで桃太郎のイメージが死ぬほど悪くなっているというのに。
「そうだねぇ、『モモ』とかどうかな?良くない?ねぇ良くない!?!?さっすが俺!!センスの塊!!!よし決定!!!!」
「えっ、ちょ……」
隣でわたしがあたふたしているのを完全に無視して、勝手に透明なパネルに入力し始めている。
「ちょっと!!適当に決めな」
ぴろん
言い終わる前に、パネルから軽やかな効果音が鳴った。……とてつもなく嫌な予感がする。
『転生者の『名前』を『モモ』に決定しました』
『転生を開始します』
機械音声が、
この世界と人間に絶望した少女は異世界で魔物を束ねる(仮) Catherine Gonzalez @CatherineGonzalez
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