第2話 prologue2

 此処は何処だろう。死後の世界だろうか。


 わたしは、自宅である高層マンションのベランダか飛び降り、絶命したはずだ。おそらく。人というのは、死んでもしばらくは五感が残るという話を聞いたこともあるけれど、どうにも不思議な感覚だ。自身の体の感覚は、ある。いっそのこと、生前の不満を大声で叫んでみようか。どうせ声にはならないのだし。


 す、と鼻から息を吸った。


「こんのトンデモ偽善野郎がぁあああああああああぁっ!!!!!!!!!!!」


「うわぁあああ!?!?!?」


 なんだ。声も出るのか。少し自分の声と違うような気もするけれど、なにせ何十メートルもの高さから落下したのだ。耳がイカれてしまっていても無理はない。さきほど、誰かの声が真上から降ってきた気もするがきっと幻聴だ。脳みそまで潰れてしまったのか。当たり前だけれど。


「なんでぇ!?なんで喋ったの!?!?目ぇ閉じてるのに!?!?!?」


 ほわわん、と反響する誰かの声。相当慌てふためいているようだけれど、わたしには何の関係もないこと。だって幻聴だも


「っていうかトンデモ偽善野郎って誰!?もしかして俺のコト!?!?やっべーやっぱ担当間違えた気がするわぁー」


 幻聴と言うのはこんなにもはっきり聞こえるものなのか。というかこんな口調の人間はわたしの記憶の中にいないような気がす


「んんーもうこれは触って起こしてみるしかないかなぁ。また叫ばれたら近所迷惑だし。お饅頭代かさむし」


 あ、この人は羊羹よりも饅頭派なのか。何にも役立ちそうにない、すごくどうでもいい情報をもらった。それより毎回わたしの思考を遮ってくるのはいかがなものかと思う。そういえばさっき「触って起こしてみよう」と言っていたような。


 その瞬間、首筋にヒヤリとした感覚が襲ってきた。


「きゃあああああああああああああああああ!?!?」

「ぬおっ!?」


 脊髄反射的に上体をバネのように叩き起こすと額にごん、と鈍い衝撃が走った。地味に痛い。一体何にぶつかったのだろう。くらくらと眩暈のする頭を押さえながら目を開けた。


「へぇっ……!?」


 眩しい。とても。目が眩みそうとはまさにこのことだ。真夏の炎天下なんて比べ物にならないくらいの光量。絶対に自然光の強さじゃあない。おかげでその発光している物体がなんであるのかさっぱりと言っていいほどわからない。


「ごめんねぇ、見えないよねぇ。あらよいしょ、っと」


 途端、周りの景色が色を取り戻し周囲を見渡せるようになった。

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