第29話 偶像と崇拝

 10:00 第三層ID-48識別名『教会』 シロウ隊、現着。

 五人はそれぞれの武装を身に纏い、教会の入り口に集合した。

 シロウは今までの甲冑姿をベースに装備を軽量化し、失われた左腕にはアラブ系の紋様を刻んだ義手を装備している。これには籠手が付いており、魔素を使用すれば広範囲を守る盾としても利用できる仕込み義手だ。今まで通り内肘には魔素を纏わせる砥石が付いており、『スサノオ』や他の技を利用する際に使用できる。この義手もジョンが作ったものだ。

 マヤはダノスの使っていた刀を背に、可変銃『シペ=トテック』を装備している。兵装は汎用兵装A型をベースにジョンが彼女用に調整していたものだ。彼女は武器の扱いには長けているが魔素の利用が苦手な為、魔素を利用した兵装は最低限のものしか用意されていない。

 レオは二丁の拳銃を腰に、白のアンダースーツと白のフルフェイスマスク、金のラインの入った青のボトムスを装備している。

 ソクラテスはフード付きのジャケットを被り、背中には何やら円柱型の武器を装備している。腕には小型のグレネードランチャーを装備しており、破壊工作に長けた装備のようだ。

 最後にツァラだが、C型装備をベースに、足には魔素を利用したスラスターを新造し機動力を上げている。これは彼の元々利用していた装備にも採用されていた機構で、ジョンにより改良が施されたものだ。

「時間だ、これより作戦を開始する。記録ログにも残したが内部構造が不明な為、ワシ以外は二人行動とする。マヤ、お前はソクラテスと正面からじゃ。で、ツァラトゥストラとレオは別館を捜索。ワシは本館で別行動。捜索中に聖異物アーティファクトらしきものが確認された場合には全員に連絡、以上だ」

 四人はシロウに言われた通りに移動し、それぞれの担当場所を探索することになった。

 連携の取りやすい組み合わせではなく、あえて別々に行動させたのはシロウなりに考えがあるのだろう。

 


 別館。

 木造りの内装はところどころ壁紙が剥がれ、煤汚れた天井は奇妙な闇に見える。

 壁に飾られた絵画は水彩画と油絵が混じったような歪んだものや上と下で全くテイストの違う混沌としたものが多い。恐らく顕現した時点で元あったものが混じったのだろう。外から射す光があるというのに長い廊下は先が見えず、妙な不気味さがある。

 ツァラは真剣な面持ちで歩く。眉に皴が寄っているのはおそらく相方の所為だろう。

 そのレオは一人でダンスを踊りながら彼の前を進んでいく。

 何があるかわからない異跡だというのに、これほど無警戒に歩めるのは自信からなのか単にそういった神経がないのだろう。

「なぁ、アンタ。目障りなんだが?」

 少々、語気の強い言葉で話しかけるが、レオはどこ吹く風といった様相だ。

 彼の意に反して、ひとしきり踊り終えた後、レオはツァラの方を向いて丁寧にお辞儀をした。

「気難しい方だ、隊長が気に入るのもわかります」

 ツァラは頭に疑問符を浮かべた。

 あのシロウ隊長がツァラを気に入っているとはどういったことだろうか。ツァラは少なくとも最初の印象は悪いものだったという認識をしていたため、その疑問は真っ当なものだっただろう。

 レオはまた優雅なターンを魅せ、そのまま歩いていく。

「アンタも変な奴だな」

 直感的な感想を述べるとレオは小さく笑った。

「貴方も変な人ですよ、異跡で魔素塗れの空気を吸うのは貴方くらいのものです」

 恐らく異跡に入った時のことを言っているのだろう。

 異跡内の空気は魔素濃度が濃いものの、ツァラはマスクを外し、その空気を吸った。

「マヤ嬢からは潔癖症と聞いていましたが、どうにも貴方はそうでもないようだ」

 含みのある言い方をするレオにツァラは気が合わないと感じた。

 レオは人を食ったような言い方をする。それがどうにも肌に合わない。

『いや、ツァラは潔癖症だよ。その上、変人なんだ』

 二人の会話に挟まるように聴き馴染みのある声が聞こえた。

「おや、タイター氏ですね、お初にお目に……いえ、お耳にかかります」

 声の主はジョンだった。今回、オペレーターとは回線を繋いでいないはずだが、彼は独断で通信網に入り込んだようだ。

 レオはこれまたわざとらしい言葉遣いをする。

『やぁ、レオ・トルスタヤ。ツァラをよろしくね』

「何してる、ジョン。お前仕事はどうした?」

 レオに対するものとはまた違った威圧をするツァラ。明らかに苛立ちを覚えた声にもジョンは怖気ずに平然と答える。

『どうしたもなにも、僕は今日は開発部の方だからね、仕事しながらでも君たちの補助はできる』

 どうやらこの男は何か作業をしながら、こちらの通信に入り込んでいるようだ。

 通りで何やら雑音が混じっているのかと二人は納得した。

「助かります。それでこちらからお手伝いできることは?」

『話が早くて助かる、一応君たちのセンサー類の情報はこっちにも来てるけど、視覚情報だけはノイズが多くて確認が取れない、妙なものを見つけたらスキャンにかけて』

 通信を終えた二人は再び奥を目指し始めた。

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