第27話 新たな異跡
重い鉄の扉が開く。
外から射しこむ光。ツァラトゥストラは俯いたまま、外から延びる影を見る。
「お疲れ様、ツァラトゥストラ。もう出てもいいよ」
イヴの声に瞳をそちらに向ける。微笑む彼女の表情は慈しみを持った暖かなものだった。
贖罪の時は終わった。しかし、それで罪が消えるわけではない。謂れなき罪であったとしても、周囲は彼を忌避することだろう。
それが人間という生き物の本質であることは
だが、彼にとってそれは匙であった。元より彼は人の目を気にするような性分ではない。
それよりも彼が気になっているのはティファの扱いだ。
今は所長室で匿われているが、局員たちはその扱いにすら苛立ちを覚えている。
仲間を失った悲しみと怒りをあの小さな背中に背負わせるわけにはいかない。が、それが難しいことは彼も知っている。
ティファを恨んでいる局員はそれほど多くないが、憎悪や執念というものは一度火が付けば一瞬で燃え広がる劇物だ。
それをティファに向けさせるわけにはいかない。
ツァラトゥストラは面を上げて前を見据える。
「とりあえず風呂に入りたまえ、その後会議室で待っているよ」
会議室の扉が開く。
室内には既に円卓に着いた調査部隊の面々がいた。
「遅れました」
ツァラトゥストラはそう言って部屋に入り、マヤ達のいる席の近くへと向かっていく。
周りからの視線は文字通り十人十色であった。
怒るもの、慈しむもの、憎むもの、無関心なもの。
それぞれの感情が込められた瞳。しかし、当のツァラトゥストラはそれを見ようともしない。
彼が席に着くと、イヴは立ち上がり会議が始まった。
会議の内容は部隊の再編と凍結保存されていた補充要員の紹介だ。
ダノス隊は当然、分裂し他の部隊へと再編されることとなる。
エレミアはカナン隊。そして、マヤとツァラはシロウの部隊に配属された。
「では、次に今後の活動について説明しよう。君たちの知っているように、先日我々はロアと呼ばれる人型聖異物の急襲を受けた。調査の報告から彼らもまた、他の聖異物と同じように異跡から発生している可能性がある。よって君たちには引き続き異跡の調査を行っていただく。ロアは発見次第、確保、収容し、彼らの特性の調査を行うこととする。当然、抵抗された場合には破壊で構わない。優先されるのは彼らの手に落ちぬことだ」
ロアの脅威は既にこの場にいる全員が把握している。
彼らに対抗するためには、彼らに話を聞くに限るだろう。残念ながらティファは自らのことすらもよくわかっていないため、他のロアからそれを聞こうということだ。
「そして、つい先日新しい異跡が確認された。確認されたのは第三層、危険度が高いエリアだが君たちの検討を祈る」
新たな遺跡。
第三層にはフェルフと呼ばれる種族もいる。世界樹に近いため森林も多く、野生動物も存在するエリアだ。
第二層付近では常にフェルフ族とドアル族が争っている場所もあり、魔素の濃さを抜いても危険地帯であることは疑う余地はない。
その後もしばらく続いた会議が終わったのは、それから三十分ほど経ったころだった。
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