第15話 ロア、進撃(3)

 レイピアのような武器を構えるヨシュア。

 眼前に見据えるは巨大な恐竜型の機械兵器。

 人の頭よりも大きいサイズの氷の塊が四つヨシュアの上空に浮かんでいる。彼女の武器の力によって魔素で熱を奪い、氷の塊を出現させているのだ。

 対するロベリア足を組んで肘置きに肘を着いて余裕の笑みを浮かべている。

「五人で手も足も出なかった癖に、一人で何ができるって言うんだい?」

 ヨシュアはレイピアを指揮棒のように振るい、氷塊に魔素で推進力を与えて射出する。猛突する氷塊はロケットのように飛んでいく。

「ポチっと!」

 ズルスキーがボタンを押すと氷塊は見えない光の壁に阻まれて砕け散る。

 あれだけの大きさの氷塊をいくつも生み出すには、魔素効率もかなり悪いだろうと踏んだロベリアは持久戦の構えだ。

 苦しいことにその考えは正解だった。

 異跡での戦闘を行うことの少ない観測部隊のメンバーは戦闘員ではあるものの、実調査部隊に比べて戦闘が発生する任務に参加することも少なく、あっても小規模戦闘になることが多いので魔素効率を度外視した短期決戦型の兵装が多い。

 いくつも氷塊を産み出せるほどの余裕はない。先の氷壁でもかなりの魔素を消費しており、タンクの備蓄も六割を切っている。

 更に彼女の武器は抜いているだけで魔素を消費する。短期決戦に持ち込みたいが、ロベリアがそれに付き合う道理はない。

 ヨシュアは距離を詰めるべく駆けだした。

 近づくことさえできれば死角も生まれるだろう。

 当然、ロベリアも見ているだけではない。ズルスキーとセコイヤに指示を出し、迎撃の構えだ。

 恐竜型の機械兵器は近くにあったコンテナの破片を手に取るとヨシュアに向かって薙ぎ払うようにそれを振るう。

 寸手で飛び上がり、何とか避けるヨシュア。しかし、当然攻撃の手が止むはずもない。空中に飛び上がった彼女に先ほどのミサイルが襲い掛かる。

 激しい爆発音。爆風に飛ばされたヨシュアのマスクに罅が入る。

 咄嗟に氷の盾を出現させて身を守ったおかげで致命傷を免れたが、それでも先ほどよりも状況は悪い。

「これで仕舞いにしようじゃないか!」

 大きな音と共に機械兵器の口に魔素が収束していく。再び、あのビームを放つつもりなのだろう。

 ゴミのように転がるヨシュアは満身創痍の体に鞭を撃ち、息も絶え絶えになりながらなんとか立ち上がる。その口元からは血液が溢れ出ていた。

 ―――無音。

 放たれた一撃。まばゆい光がヨシュアに迫る。

 何故か、ヨシュアはあの少女のことを、オーニスのことを思い出していた。

「……お茶会、行ってあげればよかったかな?」

 瞳を閉じて、全てを手放すように零れた言葉。

 光がヨシュアを呑みこむ、はずだった。

 目を開けたヨシュアの前にはカナンが防御陣を展開していた。

「すまない、ヨシュア。少し眠っていた」

 光は霧散する。満身創痍の二人が機械兵器を睨んだ。

 ロベリアは口を開けたり閉めたりしている。言葉にならない言葉が零れるロベリアにズルスキーとセコイヤは指示を仰ぐ。

「どうするでヤンスか、防がれちゃったでヤンスよ!」

「おかしいですよ、さっきより出力が上げていたはずなのに!!」

「お……おち、落ち着きなさいアンタたち! 防がれたところで向こうは傷だらけなんだし、特に問題じゃないわよ!!」

 機械兵器の内部は先ほどと打って変わって騒がしくなった。

 一方、カナンたちは落ち着いた様子を崩すことはない。

「私がサポートする。前衛は任せたぞ」

「了解ッ!」

 返事と共に駆けだすヨシュア。

 再び氷塊を展開し、それを機械兵器に向かって発射する。

「ちょっと、アイツ等来てるわよ!!」

 すっかり地の出たロベリアは操作盤を叩いて二匹を急かす。

 ズルスキーは再びボタンを押して光の壁を展開する。先ほどと同じように砕ける氷塊。ヨシュアは既に先ほどよりも近づいていた。

 機械兵器はもう片方の手でも瓦礫を掴むと両の手でヨシュアに対して瓦礫を投げつける。

 迫りくる瓦礫の一つを身を翻し、鉄骨を蹴り飛ばして更に距離を詰めていく。

 着地するロベリアを待っていたと言わんばかりに機械兵器の腕が襲う。

 再び上空に舞ったヨシュアにロベリアはほくそ笑んだ。

「忘れたかい、アンタは空中じゃ逃げられないんだよッ!」

 迫りくるミサイル。先ほどよりも数の増したソレを放った機械兵器は、巻き込まれぬように後ろに下がる。

「バカね、そんなのわかってるわよ」

 ヨシュアが更に空を蹴る。

 爆風を追い風に更に飛び上がったヨシュアに三人は再び驚愕の顔を浮かべた。

 カナンの能力を使い、空中に足場を出現させてトランポリンの要領で飛び上がったのだ。

「でもオイラたちにはまだ盾があるでヤンス!」

 光の壁を展開する。あらゆる攻撃に対抗するべく作られたこの壁にレイピアを突き立てようものなら間違いなく折られよう。

 しかし、ヨシュアはお構いなしに突きの構えを取る。

 彼女の武器『ペクタチューク』の能力は周囲の熱を奪うことで氷を出現させる能力だ。では、その奪われた熱は何処に行くのか?

 答えは単純。武器の刀身に、だ。

 太陽の熱を持つレイピアは光の壁を障子のように易々と切り裂き、機械兵器を溶かし貫いた。

 着地と同時に飛び退くヨシュア。

 機械兵器は電気を漏らし、火花を放つ。

「あぁ、これマズイですね~」

「致命傷でヤンスなぁ~」

 暢気な声で言う二人にロベリアはワナワナ震える。

「どうしてこうなるのよぉおお!!」

 轟く絶叫。機械兵器は閃光を放って爆発四散する。

 二体のぬいぐるみとロベリアは爆風に飛ばされ星となった。

 気が抜けたのか倒れそうになるヨシュアをカナンが支える。

「大丈夫か、ヨシュア?」

 バイザーには浄化装置の損傷を知らせる警告が表示されている。何とか動ける状態ではあるが、このままでは魔素の浄化システムが停止するのも時間の問題だ。

「いくつか装備がやられました。体も動きそうにありません」

 正直に報告するヨシュア。カナンはその頭をマスクの上から撫でる。

「そうか、じゃあ少し休憩だな。今度、何か奢ってやろう」

 カナンの微笑みがマスクの下にうっすらと見える。

 大部分が破壊された武器庫だが、使える装備があればなんとかなるだろう。

 瓦礫の中に見えた希望は確かに未来に繋がっていた。

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