第14話 ロア、進撃(2)
轟く爆発音。地響きと悲鳴が鳴りやまぬ情報統括局本部。
死肉の赤と焼き焦げた黒が廊下の壁や床を汚していく。
黒い粘状の怪物が獲物を貪る中を少女は宙に浮く二体のぬいぐるみを引き連れ歩いている。
「なんか焦げ臭いですね、ココ?」
青くて丸い方のぬいぐるみ、『ズルスキー』が随分とファンシーな声で喋り出す。
「そうでヤンスね、それにうるさいしもう帰りたいでヤンス」
ピンク色の痩せ細った狐のような見た目のぬいぐるみ、『セコイヤ』がそれに答える。
その後も喋り続けるぬいぐるみ達の間の少女は見る見るうちに眉を顰めていく。
「うるさいね、お前たち。少しは静かにできないのかい!」
わざとらしい喋り方でぬいぐるみたちを叱る少女。
まだ十四、五歳に見える少女はテラテラと光るボンテージドレスに、黒光りするスキニー。さらには黒のドミノマスクにマントという、少々淫靡な恰好をしている。
「しかしですね、ロベリア様。我々可愛らしいぬいぐるみにとっては汚れは嫌なんでございますよ~」
「そうでヤンス、汚れ仕事はごめんでヤンス」
しかし、叱られたぬいぐるみたちが反省する様子はない。
それどころか二人(?)揃って、ロベリアに抗議する姿勢を取っている。
「アタシだってイヤさ。だけどね、捕らわれる仲間がいたら助けに行くのが悪の道って奴だろう?」
キメ顔をロベリアにセコイヤとズルスキーは両腕を上げて呆れたポーズをする。
「悪って何なんでヤンスかね?」
「それは哲学ですよ」
「いいから行くよ、お前たち!」
ロベリアがそう言うと二体は黙って彼女の後ろを着いていく。
しかし、彼らの沈黙がそう長く続く筈もなく、次第にまたその口が開く。
「そういえば今どこに向かっているでヤンスか?」
作戦会議に出ていたロベリアと違い、この二匹は作戦の概要を知らない。
「アタシらは武器庫に行って、コイツ等の装備を壊すのさね。装備が無けりゃ抵抗もできないだろう?」
ロベリアが任されたのは武器庫の破壊。
ロア達の任務はそれぞれ異なり、ワイスとフリティラリアは敵の殲滅。ロベリアは武器庫破壊。そして、ソテツとジギタリスは彼女たちが『フリティルス』と呼ぶ少女、ティファを探している。
「あのですね、ロベリア様。大変申し訳ないのですが進言したいことがあるのです」
煮え切らない喋り方をするズルスキー。伺い立てるような喋り方にロベリアは足を止めて振り返った。
「なんだい、回りくどいね、さっさと言いな」
そう言うロベリアに対してズルスキーは後ろを振り返り、そちらを指差してこう言った。
「さっきの曲がり角のところで武器庫は左って書いてありましたよ?」
ズルスキーの言葉にロベリアは少し顔を赤くする。
「そういうことはさっさと言うんだよ、このアホチン!」
ズルスキーを掴んで地面に叩きつけるロベリア。理不尽に投げられたズルスキーは涙を流しながら床にへばり付くのであった。
かくして紆余曲折ありながらもロベリアたちは武器庫へと到着した。
しかし、当然そこには調査員たちが警戒態勢を取っている。
「おやおや、お出迎えとは感心するねぇ」
武器を構える五人の調査員。カナン・ヨルダン率いる
隊員はくせ毛が特徴のアロン。エメラルドの瞳を持つミリアム。褐色の肌を持つドレッドヘアーのムゥサ。そして、ヨシュアだ。
「相手が一人だからと言って気を抜くな、超大型異跡と同規模だと思え」
前衛を務めるヨシュアとムゥサはそれぞれ剣を構える。
アロンは自動小銃を、ミリアムは大きな槌を、そしてカナンは
戦闘態勢の面々を見るロベリアの目には退屈が映っている。
「セコイヤ、ズルスキー。アレ《・・》を出しな!」
「「あいあいさー!」」
セコイヤの口に手を突っ込むズルスキー。その口から取り出したのは機械仕掛けの兵器だ。
ワニのような口を持ち、二足で歩くその機械巨兵は恐竜を模したロボットだ。
「やっぱり悪ならロボットに乗ってナンボなのさ!」
ロベリアがジャンプすると、恐竜の頭からそのロボットに乗り込む。
中は三人用のコックピットになっている。真ん中に座るロベリアを除き、二体の席の前にはコントロールパネルが用意されていた。
いきなり現れた巨兵に対してカナン達は恐れを抱く。
当然だ、その大きさは優に3メートルはある。そんなものと戦える装備など、彼らにはない。
「撤退だ、撤退しろ!」
カナンの判断は冷静だった。鉄の体を持ち、数々の破壊兵器を持つソレと戦うには彼らの装備はあまりに矮小だった。
「やっておしまい、ズルスキー!」
ズルスキーは目の前のボタンを強打する。
ロボットの両腕が回転し、肩口に装備された三連ミサイルが二門、逃げるカナン達に向けられる。
爆裂音を上げて発射されたミサイル。
カナンがソレに応戦し杖を振るうと、魔素でできた蛇がミサイルに向かっていく。
特攻する蛇たちにぶつかったミサイルは爆発を起こし、強い光と爆発音を上げる。
爆風によって
コンテナに背中を強打したカナンは内臓が破裂したのか吐血した。
「これだけじゃありませんよ~!」
スイッチを連打するズルスキー。それに呼応しミサイルが次々と発射されていく。
最早、迎撃不可能な数のミサイル。被害を減らすべく各隊員は出口に向かいながらも出来うる限りの迎撃をした。
アロンは銃を乱射し、一つでも多くのミサイルを撃ち落とす。
ヨシュアは氷の
「こんなのもあるでヤンスよ!」
そう言ってセコイヤもボタンを押すと恐竜型ロボットの口が開き、中から発射口のようなものが飛び出してくる。
タービンの回転する音を響かせながら収束していく魔素の光。
そして、タービンの回転が最高潮に達した瞬間、魔素の光が放たれた。
床を薙ぐように進む光が迫りくる。
「十戒、
ヨシュアはレイピアを振るい、斜めに氷の壁を出現させた。
氷の壁は魔素の光を受け止めるが、徐々にその熱に溶かされていく。
時間にして数秒、しかし彼らが逃げ遂せるには十分すぎる時間だった。
「何してる、ヨシュア早く逃げるぞ!」
「……行って、私は隊長を守る」
一瞬の会話。隊長の稼いだ時間。ヨシュアの稼いだ時間。これ以上被害を増やさぬためにアロンは選択を迫られる。
「生きて帰って来いよ……」
アロンはミリアムとムゥサと共に出口へと向かう。
ヨシュアとカナンを見捨てるのではない。今は少しでも多くの隊員が生き残らなくてはいけない時なのだ。
溶けた氷の壁。
ヨシュアとロベリアは対峙する。
「置いて行かれたのかい、可哀想な子だねぇ?」
上機嫌なロベリアはほくそ笑む。
「違うわ、未来を託したのよ」
ヨシュアは眼前の巨兵を見据える。
その顔は死を覚悟した顔だった。しかし、そこに諦めはない。
ただ、戦う意思のみがその瞳に宿っていた。
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