2日目 ③

ヒロシさんは、元々心臓が弱かったみたい。ペースメーカーを付けてたんだって。


「ごめんなさいねぇ、旅行中にこんなことになって」

「いえ、とんでもない、一晩でも泊めていただいた縁です。せめて弔わせて下さい」

「ありがとねぇ、釣りの話が出来て、主人も喜んでたよ」


通夜にも出ようと考えたが、家族でも島の人間でもない私たちがいても迷惑だろう。

泊まる場所はホテルがなんとか空いたらしい。荷物を受け取った後、帰りのタクシーの空気は重たかった。ヒロシさん、そんな深い関係では無かったけど、知ってる人が死ぬのは何とも言えない気持ちになる。


ホテルのロビーでは、氷上さんが待ってくれていた。


「聞いたよ、ヒロシさんが亡くなったって」

「僕も撮影で会っただけだけど、知っている人が亡くなるのはやっぱ辛いね」


氷上さんも私と同じ気持ちのようだ。


「明日はビーチには行けないかもね」

「?」

「この島には古くから伝わる風習があってね、誰かが亡くなった次の日、皆で儀式を行うんだ。」

「儀式?」

「その亡骸を切って、神の遣いに捧げるんだ。」

「神の遣いって、ペリカンのことですか?」


父の話を思い出した。


「そう、神様の元へ送り出す儀式さ」

「だから、あのビーチには誰も入れないようになる。」

「そうなんですね」


この島にそんな風習があったんだ。鳥葬みたいな感じかな。

私は氷上さんと別れ、ホテルの部屋に行く。明日はホテルでフェリーの時間までゆっくりしていよう。もう寝ようかな......そう思っていたけど、私は気になることがあった。


私は皆が寝静まる頃を見計らって、昨日のメイキングの続きを見ようとした。あのお化け屋敷、もしミサキさんがあの祠で失踪していたらどうしよう。そんな不安に駆られていた。


「姉ちゃん、何してんの?」


びっくりしたぁ。どうやらショウが起きてたみたいだ。


「何でもないよ」


そうは言うが手にカメラを持ってしまっている。怪しい目を向けるショウにとうとう参った。


「ねぇ、ショウも一緒に見る?」

「うん」


ショウはよく分かっていないようだけど、寝ぼけながら返事をした。昨日の続きだったら、メイキングを見るだけだし、見せても大丈夫だろう。私はショウと一緒に布団に入る。こんなことするのいつ以来だろう。ショウはちょっと恥ずかしがっている。私はカメラにSDカードを入れ、3つ目のデータを再生する。


「いやー、めっちゃ怖かった〜」


昨日の続き、お化け屋敷を出た後みたいだグリーンの人はリタイアしたらしい。私たちと同じだ。ミサキさんはちゃんと画面に映っている。神隠しみたいな事は無かったようで、私はほっとした。その後もショッピングモールの中で買い物している様子が映っていた。


「しーちゃん大丈夫かなぁ?」

「大丈夫でしょ、軽い疲労だって」

「まぁ、海の撮影きつそうだったからね」


しーちゃん?誰だろう。


「このワラヤマくんしーちゃんの分なんだよ」

「あっ、そうなんだ」


どうやらしーちゃんは今日氷上さんが話していた女性スタッフの事らしい。


「姉ちゃん、これ面白いの?」


ショウがつぶやく。確かに子供はメイキング見てもつまんないか。その後はホテルでの様子が映されていて映像が終わった。私は4つ目のデータを再生する。ショウはもう眠たそうでウトウトしている。


ざっ、ざっ、ざっ


暗闇をカメラが映している。


あれっ?これは何のメイキングなんだろう。さっきまでと違う雰囲気の映像が流れ、少し不安になる。


暗い道を道を歩いている。洞窟?もしかして、あの海の?


暗闇に肌色が映る。カメラがズームになり裸の男女が寝ている姿を映し出す。


私は咄嗟にカメラの電源を切った。


「何......?これは......」


メイキング映像にありえないものが映り混乱する私。はっとしてショウの方を振り向く。ショウは......寝てる?見られて無い、よかった。ほっと胸を撫で下ろす。アレは絶対に見せてはいけないものだった。しかし何故メイキング映像と一緒に。


私はトイレに入って、続きを再生する。


ズームで寄った男女は、ミサキさんとレッドだった。レッドが上になって二人でまぐわっている。二人は激しいキスをしながらお互いを求め合う。ミサキさんの喘ぎが漏れでる。


なんでミサキさんとレッドの行為が、しかも洞窟で。誰が撮影したんだろう。


カメラが途切れ、次も洞窟の映像が映る。またミサキさんの喘ぎ声が洞窟内に響く、しかし映っている男はレッドではなくグリーンだった。


えっ?


次の映像では男がイエローに変わっていた。


どういう事?私は意味がわからなくなった。

映像を一時停止する。


何故ミサキさんは洞窟でセックスをしていたのか。何故男が毎回違うのか。そして何故メイキングのカメラでこれが撮られているのか。撮影者は、もしかして氷上さんなの?


私は続きを再生する。



「待って!ねぇ!聞いてって!」


「ケンスケさん!!、ケンスケさ━━」

 ガッッ


 ドサッ


 ゴボボボボボボ。



 映像は終了した。




 えっ?何何何何何何?


 その一瞬の映像に私の背筋が凍る。


 ドクンッ、ドクンッ


 心臓の鼓動が速くなる。


映像は暗いまま音声だけ。女性の叫び声、ケンスケ......氷上さんの下の名前だ。カメラが水中に落ちた?あの鈍い音は?



 ドクンドクンドクンドクンッ


 心臓の鼓動が速くなる。


 呼吸が荒くなる。


 冷や汗が止まらない。


 もしかして


 もしかして、この映像は━━━━


 殺人の瞬間



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